天国と地獄
「出せッー! ここから出せッー! アタシはラミージュ・ランジェ様の弟子だぞー!」
「うるさい奴じゃのう。少しは静かに出来ぬのか」
「キャ~! ラミージュ様! はい、もちろん出来ますとも! あ、てかアタシ今ラミージュ様と話してる!? これって奇跡だ!」
城の牢屋で、俺とラミージュはアルモの様子を見に来ていた。
アルモの絶叫で部屋にやって来た兵士が彼女を発見、ラミージュは氷のようにアルモを兵士に差し出した。
対するアルモは喜んで連行されたのだが、今になって出せと不服申し立てているのだ。
全く、面倒な奴だ。
「ところでお主、何故儂の弟子を名乗っておるのじゃ? 魔女を志しているのなら、高位の魔女の弟子と宣言するのは罪だと言うことも知っておろう」
そうだったのか。
魔女にもルールがあったらしい。ということはつまり、アルモは罪人として扱われても可笑しくないのか。
「はい! 知ってます。けれど、ラミージュ様の弟子だと言えば、いつか会えると確信していました!」
「確信って……」
その自信はどこから湧いてくるんだよ……。
しかしながら、彼女がラミージュの弟子だと思い込んで連れてきたのは他でもない俺である。ある意味彼女の主張は通っている。
俺のミスだけど……。
「中々に面白い小娘じゃのう。しかし、罪は罪じゃ、今夜はここで過ごすと良い。罰は明日じゃ」
「じゃあのう」と言ってラミージュは一足先に帰っていった。
「ああ~、ラミージュ様。聞いた通り美しくも気高い人だった……」
大きな瞳を潤ませるアルモ。もはや信者と言った方がぴったりではないかと思うほどにラミージュに酔っていた。
「どうしてラミージュに憧れてるんだ?」
素朴な質問を投げ掛ける。これまでの言動や行動を見て、ラミージュにこだわってるのは分かった。なら、その理由は何だろうか? という本当に単純な質問。
「簡単だ。ラミージュ様が凄い魔女だからだ」
と、平らな胸を張ってそう主張するアルモ。
何故自信満々なのだろう。
「ラミージュ様が国に仕えていらい、この国に強大な魔物は現れなくなった。分かるか、ラミージュ様の力には、どんな魔物も敵わないのだ!」
子供見たいに大きな瞳を輝かせるアルモ。
本当、喜怒哀楽が絶えない奴だ。
俺はアルモの良く変わる表情を見て、笑っている自分を確認した。
「それに、ラミージュ様は美しいことでも有名なのだ。もっとも、『蜃気楼の魔女』と言われているだけあり、その姿を見た者は少ないらしいが、アタシは見たぞ! 噂の真実を!!」
鼻息の荒いアルモは、しばらくラミージュの噂を話す。
「ふはぁ~、分かった、十分聞いたから、今日はここまでにしよう」
数十分経ってもアルモは語る。耳にたこが出来そうだ。
「む? まだ話し足りないぞ! ラミージュ様が強大な魔物を退けた話しもしていない」
「早く寝ないと、俺がラミージュに怒られちまうよ」
「アタシはラミージュ・ランジェ様の弟子だぞ! 有難い話しを聞く方が良いに決まってる!」
「はいはい、じゃあまた明日な」
こら、逃げるな! という言葉が牢屋に響いたが、俺は一向に無視して自室に戻った。柔らかいベッドに寝そべり、夢の世界に向かう。
王様のいる謁見の間。俺とラミージュ、王様と二人の騎士がこの空間にはいる。
サンタ風の王様は、渋い顔をしていた。
「また村が燃やされたそうじゃ、今回は被害者が出ておる。早急に対処したい。ラミージュ殿、何か良い案はあるかのう」
「ありませぬ、今日にでも儂とこの小僧で合成獣の元に向かいます」
ここに来るのも時間の問題、それを空気が伝えてくれる。嫌なほどに。
「合成獣は南の村を襲ったばかり、次に狙うのは、南西のこの森である可能性が高い」
ラミージュは、兵士に置いてもらった机の上に地図を広げ、円を囲む。
「この森を燃やされた後、次に狙われるのは、賢者の森、じゃ」
後半は俺に伝えるように告げる。
そこは、ランやヨーン、ルンちゃんがいる場所だ。何としても阻止したい。
「ところで王殿、合成獣の特徴などは聞いてはおりませぬか?」
「うむ、聞いてはもらっているのじゃが、不思議なことに情報が入らぬのじゃ」
「すまんのう」、と謝る王様。
「なあラミージュ、合成獣の特徴が知れると何かあるのか?」
頷く魔女。
「合成獣の説明はしたのう。合成獣の強さには、その生き物の数が関わる。単純に多ければ多い程強い。また、頭によって戦いかたが違うのじゃ、対策をするのなら、やはり頭を知っておきたい」
と、ラミージュは言った。戦う、それを避けては通れないらしい。
「ところで、アルモはどうするんだ?」
「ん? あの小娘か、ちょうど良い。お前達、牢屋から小娘を連れてこい」
兵士は敬礼し、足早に牢屋へ向かう。
どうやら、ここでのラミージュは、とても偉いらしい。
数分後、アルモを連れた兵士が現れる。
「ラミージュ様! またお会いできて光栄です!」
アルモの目の下に隈(くま)ができている。どうやら眠れなかったらしい。
「お主の刑が決まった。儂らと共に合成獣を捕獲しに行くぞ」
「はあっ!? 無関係な子を連れていくのか」
俺は驚き、ラミージュに抗議する。
「何を言っておる、良い対価じゃろう。儂もいるのじゃから心配する必要はない」
「でも、だからって」
「最高の幸せです! ぜひお供させて頂きます!」
「良いのかよッ!?」
俺の心配を余所に、アルモは自ら地獄に足を突っ込む。
この先、どうなることやら。
俺は、盛大に溜め息を吐いた。
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