王様の白い髭

「王様に会いに行く!? 俺が!?」

朝食を食べ終えた後、ラミージュが唐突に言ったのだ。

「そうじゃ。小僧、王に挨拶しに行くぞ」

俺は驚いた。

王様って、あの王様だよな!? 国を治めている偉い人、でも何で?

「理由は後で話そう、儂もそろそろ戻らなければならぬのじゃ、さっさと準備せい」

人のことなどお構い無しに、準備を急かせる。

といっても、王様に会う準備って何だろう?

「可愛いラン、可愛いヨーン。またしばらくの別れじゃな、儂はとても悲しいぞ」

といって、ラミージュはランとヨーンに抱きつく。

てか、本当に涙を流している。

「大袈裟だな~、どうせまたすぐに戻って来るんでしょ」

「よっちゃんの言うとおりですよ。だからいちいち泣かなくてもいいではありませんか」

「この尻尾ともお別れじゃな」

「きゃあ!? いきなり触らないで下さい!」

ラミージュは別れる時まで、二人といちゃつくらしい。

俺は、静かに自分の部屋へと向かった。


「うむ。用意は出来たか小僧」

「それなりに」

学生カバンに必要そうな物を詰め込んだ。

まあ、スマホや着替えぐらいだが。

ラミージュは、光沢のない紅いドレスを着ていた。

ラン曰く、魔法使いが着る由緒正しい服装何だとか。本来は黒地なのらしいが、ラミージュが紅くしたらしい。

「それでは、お気をつけて」

「戻ってきたら起こして」

ランは元気良く手を振り、ヨーンは眠たそうに欠伸をした。

ちなみにいうと、俺とラミージュは扉の前にいる。

「うむ、では行くとするか。小僧、近くに寄れ」

言われた通りラミージュの近くに寄った。

何だか良い香りがする。

ラミージュは手元にペンダントを出現させ、それを付ける。

更に、ペンダントの結晶部分に指を当て、静かに呪文を唱えた。

「我は魔女、この世の理に背く者。

我、ハスパードの地に向かう者なり」

すると、俺達を中心に霧がかかってきた。

ランとヨーンの姿も確認出来ないほど、深く濃い。

「小僧、手を取れ」

ラミージュは手を差し出す。俺は恥ずかしながらもラミージュの手を握る。

「では、少し歩こうかのう」

深い霧の中を散歩する。

不思議なことに、ここが家の中ならば、扉にあたる所にぶつかるのだが、何もなかった。

「驚いたか、これが魔法じゃ」

どうやら顔に出てたらしく、いたずらっ子のような表情を浮かべるラミージュ。

俺はその力に素直な気持ちを述べる。

「ああ、本当に驚いた。俺がこの世界に来たときもこんな風にやったのか」

「あれは少し違うのう。小僧が来たとき、霧は無かったろう」

言われてみると、確かに無かった。

しかし、方法としては同じという考え方で良いと俺は思った。

「さて、着いたぞ」

というが、辺りは深い霧のままだ。

「なあ、本当に着いたのか? まだそこまで歩いた気もしないし」

「ふん。これだから素人は困るのう。魔法とは、常識に嵌まらないもの。常識で測ると痛い目にあうぞ」

と、ラミージュからありがたい助言を頂いた。

本当に着いたのかは分からないが。

「ほれ、霧が晴れてきたぞ」

ラミージュの言うとおり、霧が段々と薄くなっていき、そこから、微かだが色彩が宿っていく。


霧が晴れた瞬間、現れたのは噴水だった。

「……ここは?」

「ハスパード城の中庭じゃ。王殿の前に出ることも出来るが、流石に無礼じゃからな」

色とりどりの花に城内を支えている太くたくましい柱。

正に城の中という感じだが、今一頭がついてこない。

「こんな風に、苦労せずに来れるって最高だけど、感動とかあまりないな」

庶民らしい気持ちを口にした。

苦労の上に感動があると俺は思っているので、今一感動に欠けてしまう。

「観光しに来た訳ではないのじゃ、口よりも足を動かせ、小僧」

金髪をたなびかせてラミージュは先を歩いた。

それもそうだな、と俺は後を追った。


謁見の間を目の前にする俺。

装飾のはいった鎧を着込んだ兵士か騎士かが、扉の前に二人立っていた。

「王殿に挨拶しに参った。開けてはもらえぬか」

「……名は?」

「ラミージュ・ランジェじゃ」

「……分かった。入れ」

扉が開く。

ラミージュが歩いたので後を追う。

すれ違い様に騎士の表情を見ると、緊張した面持ちだった。その視線はラミージュの後ろ姿に辿り着く。

もしかして、ラミージュって恐れられているのだろうか。


「ホッホッホ、戻ったかラミージュ殿」

サンタが玉座に座っていた。

王冠と服装こそ違うが、体型もあの白い髭もサンタと瓜二つだった。

「して、森の賢者様はどうじゃった?」

「はい、この少年が森の賢者殿を元気付けて下さいました」

恭しく頭を下げるラミージュ。俺もそれに従いお辞儀をする。

「顔を上げよ、ラミージュ殿。そして、そちらの少年も」

顔を上げる。

やっぱりサンタだ。

「少年よ、名は何という」

「えっ? 俺ですか」

「落ち着け、名乗るだけじゃぞ」

紅の瞳を俺に向けるラミージュ。

それはどこか、子を見守る親と似ている気がした。

「お、俺は、吉原 唐真といいます! はじめまして!」

最後にお辞儀をした。180度にだ。

「ホッホッホ、そこまでかしこまらなくて良いぞ。元気があるのは良いことじゃ」

暖かく俺を制す王様。

ヤバい、サンタにしか見えない。

「して、どのように元気付けたのじゃ?」

王様の質問に、正直に答える。

「ホッホッホ、漫才とな。初めて聞くのう」

「そうでしょう、この者は異世界の者。その世界にある文化でございます」

「そうかそうか。にしても、あのセレラントと共に芸を披露するとは、とても信頼されておるのじゃな」

ホッホッホ、と笑う王様。

「ところで……」とラミージュが口を開く。

「例の合成獣、何か新しい情報はありましたかのう」

「相変わらず森や村を襲っているらしいのう。早く手を打ちたいところじゃ」

話しは合成獣に切り替わった。

森の賢者からも聞いた通り、森や村を燃やしているらしい。

「儂から1つ、提案があるのですが、良いでしょうか」

「ふむ、提案とは」

「儂と、この小僧とで合成獣を捕獲したいとおもっています」

王様は何と!? と驚いているが、一番驚いているのはこの俺だ!

えっ! はっ!? 聞いてねぇよ!

「おいラミージュ! そんな話し聞いてないぞ!」

「それもそうじゃろう。今決めたのじゃから」

何を言ってるんだ? みたいな顔してるが、絶対に可笑しいぞこれは!

「なぜこの少年と?」

「先程、王殿も仰った通り、この者には魔物と心を通わせる才能があります。合成獣を捕獲すれば、その力、そして、合成獣に対しての差別も無くなることでしょう」

ふむ、と王様は考え込む。

俺はその隙にラミージュに文句をいう。

「おい! 何で俺を巻き込むんだよ。適当にも程があるだろう!」

「適当ではない。さっき言った通りじゃ。それに、賢者殿から知恵を分けてもらったようじゃしな。それなりに期待しておるのじゃぞ」

ラミージュはその、自信に満ちた表情に微笑を加える。

くっ! 可愛い!

「分かった。しかし、唐真の力が知りたい。その漫才とやらを披露してもらえぬかのう?」

と、王様は言う。

ここでルンちゃんと漫才!? 想像しただけでドキドキが止まらない。

「王殿、それは無理です。セレラントが緊張してやれないと思います」

「ふむ、そうか……」

と、王様はまた考え込む。

「王殿、よろしければ明日、また参っても良いでしょうか。儂の連れが相当疲れているようで」

はっ? 何言ってるんだ。

と俺は思ってラミージュに振り向く。

ラミージュは妙に暖かい表情を浮かべている。

「……そうじゃのう、無理をさせてしまいすまなかったのう」

王様も暖かい表情を向ける。

ん? 俺、何かしたか?

頭を掻こうとした時、手が汗で濡れている事に気付いた。

どうやら、相当汗をかいていたらしい。

とりあえず、王様の前で漫才することは無いらしい。

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