2019/4/15 「侵入成功と権限昇格」

 オフィスフロアに入れたとしてもただの一般社員と同じふるまいしかできないのなら、そこでできることは制限されてしまう。なにせ限られた部屋にしか、例えば自分の担当部署のフロアにしか入れないのだから。

 基本的にコンピューターの一般ユーザーないし強引に侵入した状態でできることは非常に限られる。学校のコンピューター室のPCへ生徒のアカウントでログインしたとしても、うちの学校の場合デスクトップの背景の変更すらできない

 そこでハッカーはコンピューターに侵入できた次の段階で管理者権限、すなわちそのオフィスビルのマスターキーの奪取を試みる。

らわれたプリンセスを救いに悪の王様の城へ忍び込んだ主人公がまっさきに行うのが、地下の土間から看守の目を盗み壁に下げられた鍵の束を持ち出すのと同じだ。

 違いがあるとするならばその主人公は自身の正義感に基づいて行動しているが、コンピューターに侵入を試みるハッカーの場合はその逆であるということだろうか。

 脇においた雑誌を見ながら、中学校の入学祝いに買ってもらったノートパソコンのキーボードを叩く。

 真っ黒い背景に白い文字。

 マウスカーソルで画面上に表示されたアイコンをクリックして操作するG  U  Iグラフィカルユーザーインターフェースとは違い、予め決められた文字列コマンドを打ち込んでコンピューターを操作するC  U  Iキャラクタユーザインタフェースでインターネットの向こう側、おそらく東南アジアの何処かで動作しているのであろうサーバーを操作しようとクラッキングしようと試みる。

 白い文字が1文字づつ確実に入力していき、エンターキーを押す。

 画面が1行下がり、処理中を表すように「-(ハイフン)」がくるくると回りはじめる。

 そして、

「やった」

 インターネットの向こう側、世界の何処かに設置されたオンラインショッピングサイトのWebサーバー。

 OSのセキュリティホールを突いての管理者権限の奪取に成功した、らしい。

 コマンドを送り込む。

 ただの客であるぼくへショッピングサイト以外のコンテンツ、管理者にしか閲覧できないファイルをを表示した。

 そのサーバーはまるで管理者へ対して行うように、律儀にそのコマンド実行し、結果をぼくに恭しく表示した。

 送り込んだコマンドに対して、黒い画面に白い文字で表示されるファイル一覧。

 タイプミスをしないように気をつけながら、サーバーの中のファイルをできるだけくまなく確認する。

 これとこれ、これ、あと多分これかな。

 サーバーからぼくのPCへファイルをダウンロードするコマンドを打ち、選んだファイルを指定していく。

 そして最後にエンターキーを押すと、ダウンロードが始まる。

 インターネットに接続する速度がもとからあまり早くないのか、それとも接続元を欺瞞するソフトウェアを使って接続しているせいで接続速度が遅くなっているのか。

 ゆっくりとダウンロードは進行していく。

 そして、カップラーメンができそうなくらい時間が立って、ダウンロードが終わった。

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