第53話 オトウサン? 良く見るのですぅ、私は女の子なのですぅ
大カエルに臨戦態勢になったアリア達を確認したダンテが叫ぶ。
「散開!」
ダンテの指示に条件反射で反応するアリア達は大カエルを中心に扇状に広がる。
それを目で確認するダンテはミノムシ状態になっているリアナを縛る縄をナイフで切る。
「良く聞いて! あの巨体、そしてあのヌメヌメした体からみて、おそらく僕達に有効な攻撃手段はない。だから、決して一気になんとかしようとは考えないで」
縄を切り、自由を取り戻したリアナを兄のデングラに預けるダンテは「下がって」と指示を受けるデングラはリアナを連れて下がり始める。
各自に指を指して指示を飛ばし始めるダンテ。
「スゥ、盾としての職務に専念して、剣によるダメージは刃合わせすら難しいだろうから牽制で。ミュウ、大カエルの注意を惹いて、鬱陶しいと思わせる感じを意識して、アリアは目くらましと光魔法で攻撃を……」
必死に指示を出しながらも大カエルの動向を見逃さないとばかりに見つめるダンテの背後を見つめるリアナが呟く。
「スゥ、ミュウ、アリア、そして金髪エルフの女の子と見間違う少年はもしかしてダンテ?」
「そうだ! 俺様が連れてきた!」
無駄に胸を張るデングラとその呟きを聞き逃さなかったダンテは大カエルを睨みつけながら静かに涙を流す。
戦闘が始まってないのに背後から斬りつけられたダンテ。
心の出血が止まらないようだ。
そう呟いたリアナは1人、1人、目を向けていき、最後にカンフー服をコートのように着るレイアに目を向けると目を細め、下唇を噛み締める。
「レイア、もしかしたら有効な攻撃が出来るとしたら君だよ! 気を体内に叩きこんで。でも、決して踏みこみ過ぎないで、あれだけの巨体だ、どこまで効果があるか分かったものじゃないからね!」
「ああ、分かってるって、ダンテ!」
心のダメージはあっても冷静に判断を下すダンテは矢継ぎ早に指示を配る。
そんなダンテに大きな笑顔で任せろ、と言いたげに拳を上げるレイアをリアナは奥歯を噛み締めて睨むように見つめる。
「あれがレイア……ずっと会いたかったわ」
「り、リアナ? 今はそんな時じゃないぞ、分かってるよな?」
睨む妹、リアナの胸の内を理解したというか、アリア達とリアナを会わせる上で気を付けないといけない事を土壇場で思い出したデングラは顔中に冷や汗を掻き始める。
慌てるデングラを横目に胸に溜まっている想いのガス抜きをするように溜息を零すと目を伏せる。
「分かっています……そこの金髪エルフのダンテでいいのですね?」
「あ、はい、そうですけど戦闘に参加したいとか言わないでくださいね?」
指示を出し、それに従って行動するアリア達を見てフォローをしていたダンテが振り返らずにリアナに返事をする。
リアナはダンテの背に向かって首を横に振る。
「勿論、そんな事は言いません。私にとって相性が最悪のモンスターなのを理解してますので。なので、私達は後方の敵の引き寄せ役をします」
「後方?」
リアナにそう言われたダンテは振り返り、後方に意識を向けると沢山の数の足音が聞こえ、「なるほど」と苦々しい表情を浮かべる。
「おそらく、大カエルの出現が予想より早かったのを不審に思ったか、貴方達の侵入がバレたかで兵が駆けこんできてるのでしょう。私達が囮になってこちらに来させないようにします」
「すいません、僕達の侵入がばれて出入口で張っている兵がいました。音を聞きつけて、一部、兵を差し向けたのでしょう」
「なぁ、リアナ……さっきから『私達』って言ってるけど、まさか?」
ダンテの言葉に続けて、おそるおそる自分に指を指すデングラをゴミのように見るリアナがデングラの耳を掴むと後方に歩き始める。
「当然です。ここにいて何か出来るのですか? 馬鹿兄が出来る事があるとしたら囮役として走る先の罠にかからないように指示するぐらいでしょ?」
「ええぇ~! また逃げるのぉ!?」
痛い、痛いと抗議するデングラを無視するリアナに引っ張られ、通路に入っていく。
すると、すぐに発見されたようで多数の走る音が聞こえ、ここから遠くなっていくのを感じる。
そして、前に顔を向けたダンテがアリア達に確認の声を張り上げる。
「どう、みんな、効果はある?」
ダンテの指示通りに動くアリア達の内、レイアがバックジャンプをするようにしてダンテの傍に着地する。
「駄目! まったく効果がない。アリアの光魔法で痛がらせるのが精一杯だ」
「となると僕の魔法でも大差ないね……焼いてしまうのが一番効果ありそうだけど僕には使えない」
無駄に魔力を消費するだけだと悔しげに握り拳を作るダンテだったが「思考を止めちゃ駄目!」と自分に言い聞かす。
何かを思い付いた様子のレイアがダンテに身を乗り出すようにして言ってくる。
「あれだ! そう、あれがあった。ダンテの水魔法で作った氷で閉じ込めて冬眠だ!」
「無茶言わないでよ。そんな事出来る魔力も制御力もないからね? それするぐらいなら大カエル自体を凍らせる方が現実的だよ」
レイアの難しく考えないセリフに頭が痛いと言わんばかりにコメカミを揉むダンテが「局部的に凍らせる事ぐらいが精一杯だよ」と言ったのを聞いたスゥが声を上げる。
「ああっ、それなの、ダンテ! 本当に局部的なら凍らせられるの?」
「まさか局部的に凍らせるのを全身にやっていけばいい、とかじゃないよね……? そんな方法じゃ、最初の方から溶けて……ん、あああっ!!」
スゥの言葉に無茶を言うとばかりに呆れた肩を落としかけるが、スゥの意図に気付いたダンテも素っ頓狂な声を上げる。
大カエルの牽制中のミュウも楽しそうにガウガゥと声を上げる。
「ミュウも分かった。弱点ないなら弱点を作る」
「そうなの! ヌメヌメした体も凍れば攻撃が入るの!」
「ナイスアイディア、スゥ。さすが私の永遠のライバル」
明るい情報を得たとばかりに嬉しげにするアリアとスゥとミュウであるが、ダンテは乾いた笑い声を洩らす。
凄まじく根気のいる作業になるうえに、さすがにダンテの魔力が持つかどうかという意味でも心配ではあるが、それしかないという思いが背を押す。
「長期戦になるけど、一番確実そうだ。いくよ、みんな!」
ダンテが魔法の詠唱に入るとダンテの前にスゥとアリアがカバーに入り、ミュウが前線に飛び出す。
遅れて飛び出すレイアが嬉しそうに口の端を上げる。
「アタシ、こういうチマチマした作業は苦手なんだよな~ でも、負けるよりいいよなっ!」
そう言ったレイアは開いてた右手を固く握った。
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削るような戦いを開始して30分経ち、アリア達の攻撃が効果的に入り出し、大カエルを傷つけていく。
徐々に動きが緩慢になる大カエルを見てアリア達の表情に明るい色が宿る。
「効いてるの! このまま押し切るの!」
スゥの言葉に反応するようにミュウの動きのギアが一段階上がり、皮膚を破壊した辺りを切りつけていく。
ダンテの盾要員として前にいるアリアが後ろを振り返り、息が上がり始めるダンテに質問する。
「ダンテ、魔力、大丈夫?」
「はぁはぁ、う、うん、大丈夫だよ。今までした事をおかわりを要求されても出来るよ!」
若干の強がりもあるが大丈夫そうだと判断したアリアが正面に顔を向けると目を見開く。
「ダメェ! 一気に仕留めようとしちゃ!!」
急にアリアが叫んだ事に驚いたスゥとダンテがアリアが見つめる先を見つめると全身に赤色のオーラを纏うレイアが特攻していることに気付いた。
滑るように大カエルに迫るレイアが気を練り、それをレイアの掌に宿らせる。
「これでトドメだっ!」
滑るように飛び込むレイアが大カエルの懐に飛び込み、掌に込められた突き付けるように触れる。
『発勁』
レイアの全開の気を叩き込まれた大カエルは激しく体を痙攣させ、目鼻から血を流すとそのまま大きな音をさせて倒れる。
倒れるのを見送ったレイアが悪戯っ子のように鼻の下を指の背で擦りながら嬉しそうに笑う。
「やったぜ、倒せた!」
「もう、レイアは無茶ばかりするの!」
そう言ったスゥが盾を降ろし、ダンテも肩で息を吐くと項垂れる。
しかし、警戒を解かずに辺りを見渡すアリアとミュウが弾けるようにレイア、いや、レイアの背後に倒れる大カエルを見て叫ぶ。
「がぅ! レイア、逃げろ!」
「まだ、そいつ死んでない!」
2人の声に弾かれるように大カエルを見ると頭だけ上げるようにして開く口から激しい光、殺傷力を感じさせる危険な光が強まっていくのを見て固まる。
「レイア、逃げて!」
悲痛の声音で叫ぶアリアが必死にシールドの詠唱を始めるが誰の目からも間に合うように見えない。
我に返ったレイアは逃げるのは無理と判断すると腕を交差させて頭を守るように踏ん張る体勢になる。
全身に赤いオーラを全力で纏うレイアが目を瞑る。
すると、ザクッという音と共にアリア達の驚きの声が聞こえる。
いつまでも大カエルの攻撃が来ない事に疑問に思ったレイアが少しずつ目を開いて前を見ると真っ二つになった大カエルとカンフー服を纏う長髪を乱暴に後ろで縛る少年の背が目に入る。
「オ、オトウサン?」
思わず、雄一だと思ってしまったレイアであったが、良く見ると雄一のように大柄ではなくミュウと同じぐらいの身長で青竜刀ではなく大刀を背負っている。
しかも、上着のカンフー服は袖がないタイプで黒ではなく白色であった。そのうえ、髪は黒髪ではなく栗色という違う所が至るところにあるが、その背にレイアは雄一を見た。
ゆっくり振り返った少年は家出中に家族に発見された時のようなバツ悪そうな表情を浮かべて引き攣る笑みを見せる。
「あはは……こんなところで会うと思ってもいなかったよ。ただいま、レイア、みんな」
「「「「「ヒース!!??」」」」」
まるで別人のように幼い少年から大人に仲間入りするような体躯をした少年になったヒースの突然の帰還にレイア達は目を丸くして声を張り上げた。
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