第28話 今日のオヤツは飴。ママ味のミルクなのですぅ
村の入口を目指して駆け降りる双子のレイアは姉のアリアに問いかける。
「それはそうとしてさ、なんでさっきの兄ちゃんに触る前に無駄だって分かったんだ?」
「あのお兄さんを見つめても何もない空間を見てる時の感覚しかなかった」
進行方向から目を逸らさずに何でもないと言わんばかりに答えるアリアにレイアも漸く答えに行き着いて納得する。
アリアは、あの青年が現れた時点から相手の心の色を見ようとしていた。
だが、それが空振り、しかも、自分達の間を通るようにして村を見下ろし、解体作業に戻った。
2度も無防備に背中をアリア達に見せた青年の行動と見えない心の色の2つからアリアは目の前にいる青年が幻影などの類と判断したのだ。
そして、村の入口が見えてくるとアリアはレイアに言う。
「多分、大丈夫だとは思うけど、私が先頭を歩いて確認しながら進む。レイアは不用意な行動は慎んで」
アリアは『試練の洞窟』であった事や、レイアがやらかした出来事を適当に上げて声に出して呟く。
いちいち、細かい事を言うアリアに頬を膨らませるレイアは拗ね気味に言う。
「わ、分かってるって! さすがにこんな訳が分からない所で無茶はしないって!」
「お願いね? ダンテがいないから私ではフォロー出来るとは思えないから」
そう言われたレイアは短く声を上げると「ダンテいないんだった……」と頭を掻く姿を見てアリアは嘆息する。
いつもの癖でダンテがフォローしてくれるぐらいの軽さがどこかにあったようだ。
念の為に言っておいて良かったと思うアリアは村の入口の岩で身を隠すように進み、後ろを大人しくレイアが着いて来てるかを確認しながら前に進んだ。
▼
村に入ると丁度、お祭り、と言っても所詮、200人いるかどうかの村なので派手な感じではないが、食べ物を持ち寄って村人が村の中心に向かっている姿があった。
それを村に入った最初にあった家の壁から覗きこむようにして見渡していたアリアが呟く。
「視界に入る限りの人もあのお兄さんと同じで本物じゃない」
そう言うとアリアは軽くふらつき目を片手で覆う。
ふらついたアリアの両肩を後ろから掴むレイアは慌てた風に問いかける。
「大丈夫か、アリア?」
「ん、大丈夫。ここまで一気に心の色を見ようとしたの初めてで眩暈したみたい」
とはいえ、目に疲れを感じるアリアは多用は出来なさそうだとレイアに告げる。
大丈夫と言いたげなレイアがアリアに笑いかける。
「これだけの人数が本物じゃないのなら他もそうだろ? 本物がいたとして、どうやって偽者と触れ合える?」
「そう、ね。レイアの言葉にも一理ある。でも無駄に派手に動かずに行こう」
頷き合う双子の2人は、ソッと壁から離れて、村の中心に向かう人達に紛れるようにして歩く。
そして、しばらくすると少し拓けた場所を中心に村人が囲むようにして集まる場所に出る。
その場所を眺めるアリアが呟く。
「冒険者ギルドが開催した、テツ兄さんが参加した大会を思い出す」
「あん? ああ、確かに感じが似てるな。アレと比べるとだいぶ小さいけどな」
アリアの言葉を聞いて、思い出すレイアは場所の大きさもギャラリーの多さもだいぶ違うと苦笑いを浮かべる。
テツが出場した大会の大きさをリレートラックサイズだとしたら、こちらはバスケットコート1面分ぐらいの大きさであった。
その違いを更に探そうとしているのが辺りを見渡すレイアがある方向を指差す。
「あそこにいる小難しそうな顔したオッサンが座る横のベールで包まれた中に誰かいるぽいぞ?」
「ん、多分、あのおじさんは村長か何かだと思う。そのおじさんが上座を譲ってるベールに包まれる存在……少し気になる」
顔を見合わせるだけで同じ事を考えていると察し合う2人、さすが双子と言うべきか、早速と言わんばかりにゆっくりとそちらに向かい出す。
注意が拓けた場所から外れて進んだ直後、周りから大きな歓声が起きた2人はびっくりしてその場で身を硬くする。
おそるおそる辺りを見渡すが自分達に声を上げた訳じゃないとすぐに気付き、村人が目を向ける先を見つめるといつの間にか、拓けた場所にはアリア達とそう変わらない少年2人が対峙していた。
片方は背中、腰と持てるだけの刀剣を背負う前髪が長くて目元が隠れる少年と短髪で相手を嘲笑うように見つめる無手の少年であった。
そんな2人を見つめるアリア達の耳に向かおうとしてた先にいた偉そうな壮年の男、アリアの見立てで村長が「始めっ!」と手を上げる。
合図と共に刀剣を沢山抱える少年が全ての刀剣を空中に放り投げると驚く事に空中で止まる。
フワフワと浮く刀剣を見つめるアリア達も息を呑む。
「何だアレ!?」
「ん、分からない。でも魔力で行ってる訳じゃないみたい」
それを見つめる先にいる短髪の少年が鼻を鳴らすと手元に薄らと光る剣が現れる。
「ちょ、アイツが持ってる剣、どこから出た?」
「私には手元に急に現れたように見えた」
混乱気味のアリアとレイアを置き去りにして、刀剣を宙に浮かす少年が下唇を噛み締めて悲壮感を滲ませるが気を吐くと同時に特攻する。
踊るように舞う刀剣を短髪の少年の死角から放つが見えない何かに弾かれるが慌てた様子も見せずに宙に浮く刀剣を一本取ると短髪の少年に斬りかかる。
短髪の少年と鍔迫り合いをする間も宙に浮く刀剣で攻撃を入れるが弾かれ続ける。
余裕がある短髪の少年を刀剣を宙に浮かす少年が回転を上げて防戦一方に追い詰める。
どんどん斬り込み速度が上がる刀剣を宙に浮かす少年の攻撃に本当に防ぐのがやっとの様子を見たレイアが口笛を鳴らす。
「あの短髪が死角の攻撃をどうやって弾いてるか分からないけどさ、アイツ、すげー腕してるな、勝負ついたな」
「私もそう思うけど、様子が変」
アリアにそう言われたレイアが眉を寄せて2人を良く見るとアリアの様子が変という意味を理解する。
「あれ? 追い詰められている方が余裕がある?」
「そう、普通に考えれば、攻めてる方が明らかに腕が上」
多彩な攻撃を放つ少年は近接を主とするレイア、ミュウ、ヒースと遜色がない程の腕があるように見える。
むしろ、対人戦であれば巧みなフェイントを織り交ぜる刀剣を宙に浮かす少年に3人は負けてしまうかもしれない。
アリアとレイアが見つめる先では新たな動きが始まる。
短髪の少年は掠める攻撃を貰いながらも鼻で笑い、目の前の刀剣を宙に浮かす少年に話しかける。
「相変わらず、剣の腕は里一番だな? でも、そんなのはこの里じゃ何の意味もないぜっ!?」
その言葉に刀剣を宙に浮かす少年の口許に恐怖が滲む。
短髪の少年が気合いの吐くと手元の剣が輝きを放ち、突然生まれる圧力が刀剣を宙に浮かす少年に向けて放たれる。
それに抗う事も出来ずに地面を転がる刀剣を宙に浮かしていた少年の辺りにコントロールを失った刀剣も転がる。
剣を肩で担ぐようにする短髪の少年が刀剣を操る少年の下に来ると村長らしき人に顔を向けて声を張り上げる。
「長、どうします? このまま終わってもいいんですけど?」
「ふん、想剣も使えんゴミなどいらん」
2人のやり取りを聞いていたアリアとレイアはあるキーワードに眉を寄せる。
「想剣ってなんだ?」
「良く分からないけど、多分、あの短髪が使ってる剣みたい」
あの剣が劣勢の状況を引っ繰り返し、それが出来ると分かってた短髪の少年には余裕があった事を知る。
悩むアリアとレイアを余所に話は進む。
「いらんって……こんなクズでも長のとこの跡取りでしょ?」
「使えんのなら居ても居なくても同じ、始末してしまえ」
自分の息子をゴミ呼ばわりしてた事もそうだが、あっさりと始末するように言う長、いや、刀剣を操る少年の父を目を見開いて見つめる。
周りにいる村人も長の言葉に賛同するように声を上げるのを見てレイアが声音を震わせて呟く。
「こいつ等、狂ってる!」
アリアも辺りを見る目が嫌悪感に染まり、下唇を噛み締める。
刀剣を操る少年は悲しそうだが、父である長がそう言うと分かってたらしく大きな感情の動きを見せない。
村人の声を声援のように感じてるのかオーバーリアクションする短髪の少年は両手を広げて大袈裟に肩を竦める。
「本当にいいんですか?」
「構わん、死の淵を感じて想剣に目覚めれば儲け物、やってしまえ」
短髪の少年が剣を振り被ろうとする動作に入り、無情な父親の言葉に打ちひしがれる刀剣を操る少年を見たレイアが声を上げようとしたが、それより先に声を上げる者がいた。
「待ちなさい!」
その声が響くと声を上げていた村人も剣を振り上げようとして少年も止まる。
先程までまったく表情を変えなかった長も少し動揺したような様子を見せる。
そんな長が見つめる先のベールが押し退けられるようにするとアリア達と変わらない年頃の1人の少女の姿が現れる。
長い黒髪をポニーテールにし、布を体に巻き付けるような巫女を連想させる姿の少女を見つめるアリアとレイアは固まり、口をだらしなく開く。
全員の注目を浴びる少女は、気にした様子も見せずに刀剣を操る少年に近寄り、進路上邪魔だった短髪の少年を押しやる。
刀剣を操る少年と目線を合わせるように屈む少女が土埃で汚れる顔を布で拭いながら「大丈夫?」と笑みを浮かべる。
そんな少女の背後で声音を震わせる長が声を荒立てる。
「お、お待ちください。いくら巫女様と言えど、里の成人の儀を邪魔するのは越権行為でございます。それにこれの意味は巫女様もご存じでしょう!?」
「ええ、良く存じてます。何代と渡って続けられてきた儀式。知らぬ訳がありません」
立ち上がった少女が振り返り、毅然と言い返すのを見た長は怯むようにするが更に言い募ろうとするのを遮るように少女が続ける。
「私が引き継いできてる力を使いこなす者を選定する儀式。ですが、私、そして先代、その前からこの方法は間違ってるのではないかと思い始めてます。何故なら、その力を十全に行使出来たのは最初の1人だけでそれ以降、現れておりません」
「そ、それは確かですが、これは習わしで……」
そう言葉にする長に被り振る少女は力強い言葉を吐く。
「目的と手段が逆転してる事にいい加減にお気付きなさい!」
少女の言葉でそよ風で揺れる木々の音が煩いと感じるほどの静けさが生まれる。
嘆息する少女が目力を強めて続ける。
「そして、私の代で、このやり方を終えようと思います。何故なら」
刀剣を操る少年に振り返る少女は先程までの強い視線から柔らかい笑みを浮かべる。
「私の心が訴えるのです。『この方だ』と」
指し示された刀剣を操る少年は目を見開いて驚く。
少女の笑みを見た瞬間、アリア達の呆けるのから復帰すると形振り構わず、少女の下へと駆け寄る。
その容貌を見つめた2人は信じられないとばかりに震え、口を開くが声が出ない。
刀剣を操る少年に手を差し出す少女を見上げる刀剣を操る少年が呆けるように質問する。
「どうして私なのですか、巫女様?」
「ビビッと来たからかな? 貴方がアタシのパートナーだって?」
声を潜ませる少女が悪戯っぽい表情で砕けた喋り方をするに目を白黒させる。
「今まで思ってた巫女様のイメージとだいぶ違いますね」
「地がこっちなんだ。だから貴方はアタシを刀剣の巫女って言わないでね?」
ニカっと人好きさせる笑みを浮かべる少女が差し出す手に本人も自覚がないように見える動きで手を伸ばす刀剣を操る少年。
その手を自分から動き掴まえる少女を見つめるアリアが震える声音で呟く。
「レイアに瓜二つ!?」
双子と言っても見た目で違いが出始めるアリアではなくレイアに瓜二つの少女は刀剣を操る少年の腕を引っ張って立ち上がらせる。
「アタシの名前はティア! 貴方のお名前は?」
「私の名前は……」
そのやり取りの最中にアリアとレイアが見る景色にモザイクが入るようにブレ出す。
我に返った2人が少女、ティアに駆け寄ろうとするが後ろから抗えない力に引き寄せられて引き離される。
必死に手を伸ばすアリアとレイアは腹の底から声を張り上げる。
「「お母さん!?」」
暗闇に引きずられるようにする2人は意識も闇に落ちた。
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