第1話 トトランタにやって来て8年が経ったのですぅ
最強の守護者、雄一が姿を消してから1年が過ぎた。
各地で雄一を恐れてナリを顰めていた者達が顔を表せて、ナイファ国、パラメキ国、ペーシア王国の3カ国はその対応に追われているが今の所、小康状態で落ち着いていた。
国単位で考えればそうだが、民レベルとなると山賊やゴロツキなどの被害が多発していた。
ペーシア王国はこれに加えて海賊までも横行を始めて、民の為に各国も騎士などを派遣はしているが追い付いてないのが実情であった。
そんな民を守るのは冒険者の存在であった。
そして、山賊、ゴロツキに加え、海賊にまで頭を抱え、国として弱体化したペーシア王国にとあるパーティの姿もあった。
▼
ペーシア王国の港まで船で2~3時間といった沖合で海賊船に拿捕された商船の姿があった。
半裸と言って過言ではない男共が商船の船員を斬り殺し、乗船している者達にはシミタ―を突き付けて金品を出させていた。
その中でリーダー格ぽい男が声を張り上げる。
「金品だけでなく、若い女もしっかり積み込め!」
「当然でさぁ!」
リーダーにそう返事する声と共に男共から下卑た笑い声が響く。
そして、泣き叫ぶ少女達の声と男のどうする事もできずに悔し泣きから漏れる声と海賊の笑い声に支配されてる中、幼い声が響く。
「ママを連れて行くなっ!?」
4歳程の男の子が10代の見目麗しい少女、どうやら、この男の子の母親らしいが海賊に連れて行かれるのに耐えれずに抱き抱えてた父親の腕から飛び出したようだ。
「ポップ! 戻りなさい!!」
叫んで手を伸ばす父親ではあったが出遅れただけでなく足下のロープに躓いて転んでしまう。どうやら運動などが出来ないタイプのようだ。
父親が追い付かずに男の子が母親を掴まえる海賊のズボンを力一杯引っ張って母親を行かせまいと涙を滲ませながら頑張る。
「ママを返せぇ!」
「このクソガキがぁ、死にてぇーのかぁ!?」
「坊や、逃げなさい。ママは大丈夫だからっ!」
幼いながら母親が嘘を言っていると分かったようで鼻水を垂らしながら被り振ると鼻水が海賊のズボンに付いた事で海賊が激昂する。
「何しやがる、このクソガキがぁ!!」
ポップが殺されると分かった母親は海賊に抱き着くようにして止めようとするが歴然の体格差があり、腕で振り払われるだけで吹き飛ばされる。
吹き飛ばした海賊が壊れた笑みを浮かべてシミタ―を振り被る。
「無駄な事してんじゃねぇ、このアマがぁ。待たせたな、クソガキ、死んどけぇ!」
「全然、無駄じゃないの! おかげで間に合ったの!」
海賊の言葉に返事するように別の少女の声が上の方から聞こえ、振り返ると足裏が視界を埋める。
海賊の男はその一発でノックダウンさせられる。
降り立った少女は、フワフワの赤髪にやや垂れ目をキッと眉尻上げて小柄な体格には似合わない盾と長剣を構えて辺りにいる海賊達を睨みつける。
吹き飛ばされた母親がポップを抱いて立ち上がるのを見た赤髪の少女は捲し立てるように指示を出す。
「シャキっとするの! すぐに後ろの人達と一塊になるの!」
「は、はい!」
驚いた様子を見せる母親が慌てて背後に行くのを横目に見ながら海賊の動向を睨むように見る。
突然の登場で驚いた海賊であったが1人と分かると落ち着きを取り戻し、小馬鹿にするようにリーダーが赤髪の少女に言ってくる。
「騎士ゴッコか? 1人でなんとかなると思ってるのかよ? 俺達にすりゃ、別嬪さんの戦利品1個追加って具合だがよ?」
「別に騎士なんかになろうと思ってないの。貴方達の相手ぐらい私1人でも問題ないけど……」
長剣をリーダーに突き付けると剣先から小さな光が生まれる。
それに海賊達がビビったように後ずさるが赤髪の少女は相手にせずに長剣を振るようにすると光で線を描いていき、ある程度、長くなったところで強く引っ張るようにすると描いた線が動き出す。
光の線が動いた事に海賊達が更に驚くが相手にしない赤髪の少女はその光の線を新体操のリボンのように操り、後ろで怯える乗船してる人達を覆うように三角錐状に固める。
「そこでおとなしくしとくの。5分ぐらいならアイツ等の総攻撃でも耐えれるの」
ポップがキラキラした目で赤髪の少女を見つめて「凄い、凄い」と連呼するのに柔らかい笑みを浮かべる。
「女、何者だぁ!!」
「どこまで話したのでしたっけ?」
リーダーの言葉に驚いた様子も見せない赤髪の少女は顎に指を当てながら考える。
「そうそう、私1人でも問題ないの。でも、私は1人じゃないの」
「何っ!?」
そう叫んだ瞬間、リーダーの後方から悲鳴が響き渡る。
振り向くと部下達のど真ん中を突っ込む栗色の髪の少年が剣1本で斬り込み、赤髪の少女を目指して駆ける。
まったくスピードを落とす事なく、突っ込んできた栗色の髪の少年は赤髪の少女の前で旋回するようにしてリーダーと向き合う。
驚くリーダーと不満そうな赤髪の少女は栗色の髪の少年を見つめる。
「遅いの、ヒース!」
「おそ――ッ!? 待って、ダンテを急かしたから僕達の段取りが無茶苦茶になったせいで、その原因はス……」
「緊急事態だったの! 男ならグダグダ言わずに女の子の我儘に笑って対応が紳士の一歩目なの!」
そう赤髪の少女に黙らされた栗色の髪の少年、ヒースは「僕には一生、紳士にはなれなさそうだよ……」と項垂れ気味に溜息を吐く。
呑気に漫才をするようにする様を見せつけられたリーダーは激昂して叫ぶ。
「ざけんなっ! 2人になったからどうだってんだぁ!」
そう叫ぶリーダーからお互い、赤髪の少女とヒースは見つめ合い肩を竦める。
赤髪の少女が再び、長剣で光で線を描くと前方にいる海賊達を覆うようにすると光の線を手前に引き寄せる。
すると10人程の海賊を1つ縛り上げる。
それに驚いて暴れる海賊達を相手にしない赤髪の少女は目の前のヒースに頷いてみせるとヒースは光の線を握る。
「ハウリング」
そう呟くと囚われた海賊達が感電した人のように声を震わせて叫ぶと最後には白目になって倒れる。
「普通に武力で訴えてもいいんですが、こんな風に無力化するのは簡単です」
「拘束するだけなら私だけでも簡単なの」
目の前の2人はヤバいと理解したリーダーは後ずさりながら叫ぶ。
「鉄砲隊、女共に当たっても構わねぇ! あのガキ共をぶっ殺せ!!」
リーダーは暗い笑みを浮かべて手を上げると振り下ろす。
しかし、1秒、2秒、そして10秒経っても銃撃の一発も音がしない。
徐々に驚愕な表情になっていくリーダーに赤髪の少女は会心の笑みを浮かべる。
「私は2人だけとも言ってないの」
その言葉に弾けるようにして振り向くと自分達の船の縁の上で両手両足を付けて犬のような仕草をしながら眠そうにするピンク色の髪の少女がいた。
少女とは言ったがもう成熟した女性と言って良いプロポーションとバンドゥビキニの上を着け、短パンに小さなベストを羽織っているという扇情的な格好をしていた。
だが、幼い子犬を思わせる素振りとピンクの髪の隙間から可愛らしい耳とこちらからでは見えないが短パンからも可愛らしい尻尾がある事からビーンズドック族である事を示す。
だから見た目の年齢と中身が一致しない事を意味していた。
「ミュウ! 無力化はしたの?」
「完璧」
赤髪の少女に言われたピンク色の髪の少女、ミュウはドヤ顔で言ってくるが、背後で起き上がろうとする海賊を発見したヒースが声を上げようとするが、その前に足下に立てかけてあった銃を取ると起き上がった海賊に投げつけて失神させる。
「完璧」
「ふ、不安だ……」
頭を抱える2人にガゥガゥと笑って見せるミュウ。
その3人を見つめるリーダーは本格的にヤバいと、ゆっくりと後ずさって逃げようとすると自分が斬りつけた船員を踏んだ事で呻き声を上げられる。
船員の声に3人の目が集まる。
それに気付いたリーダーがヤツ当たりに傷ついた船員に当たろうとした時、トゲトゲがついた鉄球付きの杖で殴り飛ばされる。
「邪魔、次はその人を治療予定」
「アリア、対応が雑過ぎるよ……」
ふんぬ、と鼻息を吐くアリアは大きな胸、同じ年頃の子には大抵は勝てるという胸を逸らした後、足下で苦しむ船員に回復魔法で血止めしていく。
かけ終わると苦痛に歪んでた顔が和らいだ船員に「命の危機は去った。後は陸のお医者さんに」というと次の傷が酷い人を捜しに行く。
アリアのモーニングスターに吹き飛ばされたリーダーは震える足で立ち上がると無事な船員に叫ぶ。
「捨てれるモノは捨てて海に飛び込め! 戦って勝てる相手じゃねぇ!!」
そう言って我先にリーダーが飛び込むと残る海賊達も飛び込む。
この辺りにはサメもいるが船上にいたら間違いなく殺されると判断した結果であった。
後は泳いで逃げ切るだけだと思っていると泳ぐ先から水飛沫を上げて、こちらにくるモノに気付く。
一瞬、モンスターが現れたのかと思ったが視認できる距離に来るとそれは人である事が分かり、安堵する。
だが、そんな事ができる人がまともじゃないとすぐに気付き、思考が止まりそうになるリーダーの前方で震える海賊に気付く。
震える海賊が振り返ると捲し立ててくる。
「俺、アイツを知ってる。白髪、赤目のアルビノエルフ、昔の通り名は『戦神の秘蔵っ子』。逆刃刀を振る青き風、『青い旋風のテツ』!」
良く見ると人の周りには青く見える風のようなモノを纏う白髪のエルフ、テツが腰だめに構えながら滑るようにやってくる。
「悪いがお前等を逃がす訳にはいかない!」
海賊達の真ん中を突っ込む中央に来た瞬間、逆刃刀を抜刀すると旋回するように一周させるとテツを中心に青い竜巻のようなものが起きて、海に居る者達が引きずり出される。
引きずり出された海賊達は吹き飛ばされるようにして元いた商船の上に叩き付けれる。
それを追うようにしてやってきたテツも商船に飛び乗ると海賊達に逆刃刀を突き付ける。
リーダーは絶望的な状況だと理解するが、なんとか、船を取り戻して逃げれないかと必死に頭を捻る。
その様子に気付いたテツが薄い笑みを浮かべる。
「隙を見て、船を取り戻して逃亡かい? 残念だったね、ウチの司令塔はそういう考えに至ると先読みをしていたよ」
「な、なんだと……」
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テツが海を疾走してきた方向にある10人ぐらい乗れる小舟の上には金髪の少女のように見えるエルフの少年が知らなければ男が惚れてしまうような笑みを浮かべる。
「そろそろ頃合いかな? 準備いい?」
「おう! いつでもイケるぜ、ダンテ」
カンフー服をコートのように羽織る長い髪をポニーテールにする少女は育ての親を連想させる口の端を上げる笑みを浮かべる。
「できるだけ派手にね?」
「いいのかよ、大得意だぜ?」
更に口の端を上げる少女は屈伸しながらダンテを見つめると苦笑いしたダンテに「やっぱり程々で?」と言われる。
そのダンテの言葉に答えず、船の淵に足をかける少女は振り返る。
「行ってくる」
「お願いね?」
そう言うと少女は海に足から飛び込むようにするが落ちる前に水柱が立ち上がり、少女を持ち上げるように上空へと運んで行く。
水柱で付けられた勢いで上空に飛び上がる少女はカンフー服を纏う自分の体を抱きしめるようにして呟く。
「オトウサン、アタシ、頑張ってくるね……」
カンフー服に残る男の匂いを捜すように目を瞑る少女が上昇するのが終わったのを感じると目を開く。
先程までの大人しげな表情を一転させ、獰猛な笑みを浮かべ、足下に見える海賊船を見据える。
生活魔法の風で作った足場を蹴って、海賊船を目指して飛びながら叫ぶ。
「キタガワ ユウイチの娘、レイア、推し通る!」
足に赤いオーラを纏わせながらポニーテールの少女、レイアは海賊船に飛び込んでいった。
▼
海賊のリーダーがテツの言った意味を聞き返そうとした時、海賊船から爆音が響いてくる。
振り返ったリーダーの耳に続いて、また違う派手な音がすると船が真ん中で真っ二つになって沈んでいくのを見て呆然とする。
「相変わらず、やる事が派手だな、レイアは?」
「いい加減、細かい事ができるようにする必要があるの!」
「まあまあ、今回に限ってはレイアの行動は合ってるからね?」
苦笑するテツと文句を付ける赤髪の少女にそれを宥めるヒースの3人は隙だらけのように見えるが逃げる隙など見せてこない。
沈み行く船から飛び移ってくるミュウは振り返り、船底の方にいったレイアを捜すようにキョロキョロすると海からドボドボになったレイアが飛び込んでくる。
「あぶねぇ! 思いっきりいったら上からの逃げ道が塞がれたから遠回りして溺れるかと思った!」
長い髪が吸い込んだ海水を絞るようにするレイアに3人は苦笑を浮かべ、ミュウは欠伸を噛み締める。
遅れて、ダンテも海から商船に上がってくる。
「無事、終わったようですね?」
「ああ、後はこいつらを海の真ん中に捨てるだけだ」
テツにそう言われたダンテは海水で作った巨大な手で全員掴む。
掴んだ海賊達を5mの高さまで吊るし上げる。
「テツ、この依頼は始末で放逐じゃないさ。生き残れる可能性を高めるような事をしてどうするさ?」
「しかし……」
背後から現れたモデルのようなスタイルをする少女というより女性寄りに見えるがまだ19歳の少女、頭にはカチューシャ、勝ち気な瞳をする少女に睨みつけられたテツはバツ悪そうにする。
「どうせ、アンタは無事に生き残ったら更生するチャンスを、と考えてるだろうけどね。そうならなかった時の責任が取れない以上、諦めな?」
「――ッ!」
テツを沈黙させたカチューシャの少女は掴まっている海賊を見上げる。
海賊のリーダーがカチューシャの少女を見た瞬間、叫ぶ。
「ああっ!? お前は『火薬庫のホーラ』!」
「その二つ名を広めたのは、お前かっ!!」
神速の動きで懐から魔法銃を取り出すと躊躇せずに海賊目掛けて照準を合わせると引き金を引く。
ダンテに込めさせた水球が放たれて海賊達が吹き飛び、星のように消える。
それを見ていたダンテがホーラにボソッと言う。
「あのぉ、ホーラさん? あの魔法は殺傷能力は高いとは言えないので、海に落ちた時点では、それなりに生き残ってる可能性ありますけど……」
「……弟の意気を汲むのも姉としての務めさ?」
適当なホーラの言動にテツとダンテは顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
ヒースも苦笑いを浮かべるが他の少女達には日常だとばかりにたいして注意を向けるに値しないようである。
赤髪の少女は、自分が作った三角錐を解除する。
解除が済むと我先とばかりに飛び出してきた赤髪の少女が助けたポップが足に抱き着いて見上げてくる。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
それに優しく笑みを浮かべる赤髪の少女。
えっと、えっと、と必死に言葉を捜すポップは目をキラキラさせながら言ってくる。
「お姉ちゃんのお名前は? お姉ちゃんは騎士様なの? 勇者様なの?」
矢継ぎ早に質問するポップに軽く目を見開く赤髪の少女はどんどん母親に似て美貌が増す表情に母親のようにチャーミングな笑みを浮かべながら頬に指を当てる。
「お名前はスゥというの。お姉ちゃん、お姫様なの」
そう答えられたポップが目を丸くするのを見つめる赤髪の少女、スゥは会心の笑みを浮かべた。
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