『団扇を動かしたのは、僕!』

怖いものが苦手な私の勝手な妄想

実は団扇は齢百年を超える付喪神で……



 置いて行かれた付喪神はえいっと一声。すると団扇の柄から可愛らしい手足がにょきにょきと生えてきました。

 大丈夫。

 何回も繰り返したので、何処に居ればお迎えが来るのかはちゃんと分かっています。付喪神は顔を巡らせて祠を見上げました。


  3メートル。ちょっと遠いけど、頑張ろう。


 付喪神はとてとてと駆けてゆき、よいしょ、よいしょと高い台にもよじ登りました。

 ふう。これで安心。後はお迎えを待つだけです。

  暫くすると話し声が聞こえてきました。団扇に手足が生えていたら、きっとびっくりさせてしまいます。付喪神はぶんぶんと手を振りたいのをぐっと堪えて手足を仕舞い、じっと待ちました。



 ところが。



 うわあああああぁぁぁぁっっっ

 ぎゃあああああぁぁぁぁっっっ


  ただの団扇に戻った付喪神を見て、子供たちは泡を食って逃げ出してしまったではありませんか!


 え? 何で?


 付喪神は何が何やら分かりません。


 おーい。僕はここだよー。

 一緒に連れて帰ってよぅ。

 ねえ。何でーーーー?






 月に照らされた祠に、付喪神の嘆きが響いたとか響かなかったとか。

 結局翌朝楠さんが迎えに来てくれるまで、付喪神はひとり寂しい一夜を過ごしたのでした。






おしまい。

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