第94話 out-of-place artifacts

俺達は1日目は、一睡もせずに走った。俺は背中にアスカを背負い、頭にはアーサーを乗せた状態だった。カインとミネットとゼロの3人の足は速かったが、この状態でも難なくついていくことができた。

場所までの道はカインが先導した。どうやらカインは匂いで危険を嗅ぎ分けて、時々迂回したりしながら目的の場所まで危機を回避しながら走っていた。

遺跡に到着したのは、次の日の朝で、日の光が地平線から覗かせていた。そして、そこには何人かの人たちがいた。屋台のようなものも出ていたのだ。


「ちょっと待ってろ。」

カインはそう言って、人のいる方へと向かっていった。

「ミネット様、着きましたよ。」


「んにゃ。もう食べられないにゃ。」

ゼロに途中から背負ってもらい、背中で寝ていたミネットは目をこすりながら地面へと着地し、大きな欠伸をした。


「アスカ、アーサー、着いたぞ。」

俺にしがみついた重り達は一向に目を覚ます気配はなかった。

やはり連れてくるべきではなかったかと後悔の念が強まり始めていた。

アスカを連れて行く事については出発の時にかなり反対されたのだが、俺が責任をもって守るからということでなんとか連れてくることができた。内心では俺もアスカは来ないほうがいいとは思っていたのだ。しかし、アスカに言いくるめられて渋々了承してしまったのだ。


「どうやら、まだ二階層の途中までしか攻略できていないらしいぞ。」

情報を仕入れて戻ってきたカインが俺達に遺跡の説明を始めた。

「この遺跡に眠るお宝は薬品系のものが多いらしい。一階層では回復系のアイテムがいろいろあったそうだ。」

「そうなのか。じゃあ、浮遊石とやらはなさそうなのか?どうする?」

俺はカインに聞いた。目当てのものがないのであれば入る意味はあまりないように感じた。


「浮遊石はなさそうだが、賢者の石はあるかもしれん。それに回復系ならば、アギラの求めているものがあるかもしれないぞ。」

たしかに俺の欲する『呪いを解く何か』はある可能性があるかもしれない。しかし、俺一人のために皆を危険に晒すことは躊躇われた。

「賢者の石が何故あると思うんだ?」

「賢者の石は、その昔、薬品に使われていたと聞いたことがある。」

「石をか?」

「いや、賢者の石は常温では液体の状態なんだ。摂氏ー10℃以下で固体の状態になるんだが、特定の温度に保たれた状態のものは風魔法と光魔法に対して『魔法感応素材』としての効力を発揮することが近年発見されたんだ。」

「へえー。」

「一階層の難易度から考えて、二階層以降にはもっとすごいアイテムがある可能性があるかもしれないから、賢者の石も大量にストックされているかもしれないというわけだ。」

なるほど。それなら、カイン達も遺跡に入る理由があるわけか。それにしても難易度が高いとはどれほどなのだろうか。この世界の俺の実力はかなりある方だとは思うが、まだまだ未知の部分が多いので慎重を期すに越したことはない。今回はアスカも連れてきているので、安全を第一に考えなければならない。

「かなり危険なのか?」


「一階層のトラップはほぼ解除ができている状態らしいから今は危険はないらしいが、かなりの人数が帰らぬ人となったらしい。さらに、この遺跡は死者を吸収して、エネルギー源を作りだしたり、不死者アンデッドを作り出しているそうだ。二階層ではそういった不死者アンデッドが徘徊していてなかなか進めないという事だ。」


「アンデッッド・・・」

俺は呟いた。


「だが不死者と言っても、炎で焼き尽くせば消滅させることができるし、光魔法で昇天させることもできる。だから、俺の炎の魔法があれば心配することはない。」


カインは恐れた様子をまるで感じさせず自信満々な態度だった。それを見ると俺の不安は和らいで、なんとかなるかという気持ちになった。このメンバーはアスカとアーサ以外は魔導士学園の特別クラスの生徒なのだ。


「それじゃあ、行くとしますか。」

俺はカインとミネットとゼロの顔を見回した。


「そうですにゃ。でも、その前に少し腹ごしらえをして行きますにゃ。ちょうど屋台に怪鳥の焼き鳥が売ってますにゃ。」

ミネットは屋台の方へふらふらと歩きだした。そして、焼き鳥を数本買って戻ってきた。


「美味しいにゃ。美味いにゃ。」

朝から実に美味しそうに焼き鳥をほおばっていた。


俺はアーサーに食糧をかなり預けてあるので、遺跡の探索の途中ででも食べればいいかと思った。カインも今はまだ食べなくても大丈夫そうだった。ゼロに至っては何か物を食べているところを学校でも見た事はなかった。


俺達は不安と期待の入り混じる気持ちで、遺跡の入り口へと向かった。入り口からは入れ替わりで三人の冒険者が出て来た。男二人と女一人のパーティーだった。すれ違う時に大柄な男がミネットとぶつかり、ミネットは手に持っていた焼き鳥を地面へ落とした。


「あー、やってしまったにゃ。もったいない事をしてしまったにゃ。」

ミネットは地面に落ちた焼き鳥を見て落胆した。


ぶつかった男がそこで謝れば、それで済んだ事かもしれなかったのだが、その大柄な男は謝るどころかその逆のことをし始めた。


「けっ、焼き鳥なんか持ちながら遺跡に入ろうなんて、なめすぎだぜ。そんなピクニック気分じゃ、すぐに死んじまうから、やめときな。・・・いや、すぐに死ぬだけならまだいいが、せっかく解除した罠が起動しちまったらたまらねぇ。お前らみたいな子供ガキが来るところじゃねぇんだよ。」

大柄な男は俺たちを威嚇し始めたのだ。


俺は最近の戦闘で少し自信をつけていたので、目の前でオラついている男くらいは簡単に気絶させることができる自信があった。ミネットが落胆している様子を見ると少しは謝ってもいいのではないだろうか。俺は懲らしめてやるかと思い男の方へと一歩踏み出した。


「食い物の恨みは恐ろしいにゃ。」

ミネットは顔をあげた。


「何だ。やろうっていうのか。」

大柄な男は斧を構えた。


「おい、やめとけって。」

「そうよ。まだ子供の獣人じゃない。」

仲間の男と女は大柄な男を止めようとしていた。


「中で死んで不死者アンデッドとなって襲い掛かられても面倒だろ。ここでリタイアさせてやるのも冒険者の務めだろう。ここで腕の一本くらい失っても、中で死ぬよりはマシだろう。」

大柄な男はミネットにかなりのダメージを与えるつもりだった。俺が代わりに戦おうとすると、カインが俺の歩みを止めた。


「大丈夫だ。あれくらいならミネット一人でも何とかなる。」

そうなの?と聞き返したくなったが、俺は闘いを見守る事にした。ミネットに何かあれば師匠にもらった薬でなんとかすればいいのだ。


二人は距離をとって対峙した。そして、その他の者達は少し距離をとった。


「 風精よ 我が体を纏いて 鎧と化せ 風鎧ウィンド・アーマー

ミネットは風魔法で自身に身体強化を施した。

「ふん。魔法使いか。しかし、子供の魔法では俺の強靭な皮膚すら切り裂く事はできんわ。」

わ大柄な男は斧を構えた。


そして、勝負は一瞬で終わった。瞬きをすれば見逃してしまうほどの一瞬の事であった。

両者が一歩前に踏み出したと思った刹那。ミネットは相手の背後まで移動していた。そして、すれ違いざまの一瞬で大柄な男に六回もの手刀による攻撃を両手で行っていたのだ。


大柄な男はその動きを捉え切れていないようだった。大柄な男が一歩を地面に着地した時、目の前のミネットが消えたように映っていたのかもしれない。頭を動かしながら前方を探していたが、後ろを振り向きミネットの姿を捉え驚愕した。

そして、男の着ていた鉄の鎧が切り裂かれ地面に落ちた音で、自分の体に目をやると再び驚いた表情をみせていた。


「また、余計なものを切ってしまったにゃ・・・」

ミネットが大柄な男に背を向けたまま呟くと、ミネットの前方で見物していた二人の衣服までもが刻まれて地面へと落ちていた。


「まだまだ、自分の風魔法の威力を制御できてないようだな。」

カインは帰ってきたミネットに反省を促した。


「でも、流石です。ミネット様。」

ゼロはミネットを褒めた。ゼロはミネットを事あるごとに褒めていた。


「食べ物の恨みはこんなものじゃないにゃ。」

ミネットは三人の方へと振り返ると、裸同然になった三人はどこかへと走り去って行った。


「なにはともあれ、遺跡へと入るとするぞ。」

カインは意気揚々と遺跡内部へと入った。俺たちもそれに続いた。


遺跡内部に入って俺は驚いた。土で掘られた洞窟のようなものを想像していたのだが、壁は金属で覆われていたのだ。そして、ところどこには液晶モニターのようなものが壁にあった。

俺が驚いているのを他所にに三人は特に驚く事もなく、どんどんと歩を進めて行った。あの液晶部分が何か分かっていない可能性もあった。と言っても、俺も正確にあれが何かという事は分からないのだ。一度、俺が液晶部部へと手を伸ばそうとした時に、ゼロが俺の動きを止めた。

「アマリ触らない方がイイデスよ。罠が起動するカモシレマせん。」

俺は素直に従って、先を急いだ。


通路にはいくつか扉のようなものがあったが、その中は荒らされた後があり、持ち出せそうな薬品や道具はなさそうだった。どうやら先に来た者達がいろいろ持ち去ってしまったのだろう。


何回かの分かれ道の後、俺の背中と頭で眠っていたアスカとアーサーが目を覚ました。

「あれ、ここってどこなの?」

「マスター、朝ご飯はまだですかにゃ。」

こいつら・・・・

「やっと起きたか。もう遺跡の中に入ったぞ。」


「どういう事なの。遺跡の中って・・・それはダメだわ。引き返すわよ。」

「どうしたんだ。」

俺の背中から降りたアスカは俺を後ろへと引っ張ろうとした。


「遺跡の近くに屋台が出てたでしょう。そこでご当地料理が食べれるはずだわ。」


「それは大変にゃ。今すぐ引き返すにゃ。このままでは飢えて死んでしまうにゃ。」

起きるなり二人は騒ぎ始めた。


「食べ物ならこの日のためにアーサーに大量に預けてあるだろうが。それにご当地料理は帰りに食べられるから我慢しろ。ここは危険な遺跡の中なんだからちょっとは緊張感を持て。油断していると命取りになるぞ。」

俺はアスカのためを思って注意をした。しかし、アスカはあまり気にする様子もなかった。


「仕方ないわね。じゃあ、帰りにいろいろ買って帰りましょう。アーサーに預けておくこともできるわね

「それはいい考えですにゃ。あっちに任せるにゃ。」


「お前たち。本来の目的を忘れちゃだめだぞ。今回はこの遺跡でいろいろと役に立ちそうなものを持って帰ることが第一だからな。」


「分かってますにゃ。あっちに任せておくにゃ。あっちはこう見えて目利きのプロにゃ。いいものはだいたい見ただけでピンくるにゃ。」


「私も、そうね。あれなんて、いいんじゃないかしら。」

指さした先を見ると通路の横にある直方体のオブジェだった。その直方体の物体は自分の胸のあたりまである大きさだった。一見すると直方体の鉄の塊であるが、上の面には違う素材が使われているようだった。

俺は恐る恐る直方体の横の部分を触り、物体を観察した。すると、地面と一体化していると思われたその物体はよく見ると動かすことが可能そうであった。


しかし、これが持ち去られなかったのにはいくつか理由が考えられた。かなり重い物質でできていたのだ。わざわざこの遺跡から訳の分からない重いものを持ち出そうとするものがいなかったのだ。中には地面と一体化していて持ち出そうとすら考えなかったのかもしれない。


けれども、俺にはアーサーがいる。アーサーの時空間に放り込みさえすれば持ち出し可能なのだ。

「あっちもピンと来ましたにゃ。これはいいものにゃ。」

アーサーは早速、時空間を開く詠唱を開始した。

俺は自分に身体強化をかけて、その訳の分からない直方体の物体を持ち上げた。そして、アーサーの時空間の中にその物体を投げ入れた。

その時である。けたたましい警報音が鳴り響いた。


『 シンニュウシャヲカクニンシマシタ シンニュウシャヲカクニンシマシタ タダチニハイジョシマス シンニュウシャハ フクスウ タダチニ フェーズツー ヘ プログラムニモ シンニュウヲ カクニン ケイカイレベルA タダチニ フェーズスリー ヘ』


警報音だけでなく機械音によるアナウンスも通路全体へと鳴り響いていた。


「なんだ。」

先を進んでいたカイン達はアナウンスのする上方を見上げて、辺りを見回していた。

俺達もカイン達のそばへと走り寄った。俺はこの原因がさっきの物体のせいではないかという思いで、少し申し訳ない気持ちだった。


「どういう事にゃ。何があったにゃ。」

アーサーはカイン達に叫んだ。俺は憎かった。アーサーの鈍感さが。微塵もさっきの直方体の物体が原因だとは思っていないようだった。


「これはアーサー様、お目覚めしていたんですかにゃ。お目覚めのところ悪いですにゃ。いきなりピンチのようですにゃ。どうやら、どこかの馬鹿な冒険者が解除した罠を起動させたようですにゃ。」


「馬鹿な冒険者がいたもんにゃ。そんな馬鹿なやつは入ってきてはダメにゃ。」

憎い。憎すぎる・・・俺もアーサーのような鈍感さが欲しいと願った。俺が罪悪感と羞恥心でもだえ苦しんでいると、カインが叫んだ。


「なんだアレは?」

カインが指さした前方には、格子状になった光が形を変えながら俺達の方へと近づいて来ていた。


「どうやら、アレハ光魔法を応用したレーザーの一種デス。アソコを通過するとバラバラに寸断されてしまいマス。」

ゼロが冷静に分析を始めた。


後ろを振り返ると、後ろからも格子状の光の線が俺達に迫っていた。

カインは魔法の詠唱をはじめ、炎の魔法を横の壁にぶつけた。どうやら通路の横に穴をあけて難を逃れようとしたようだった。


「むだデス。どうやら隣が通路ではないようデス。それにこの金属は魔法がとおりにくい素材でできているようデス。」

「くそが。」

ゼロの説明を聞いたカインは悪態をついた。


「マスター。どうしますにゃ。ひとまずあっちは時空間の中に逃げ込みますにゃ。」

アーサーは時空間の中に逃げようとした。

「ちょっと私もその中に入れなさいよ。」

アスカはアーサーを掴んだ。


それだ。全員アーサーの時空間の中に入ればいいんじゃないか。

「ダメにゃ。あっち以外の生物はあっちの時空間の中では生きることができないにゃ。時間の流れが止まるから、心臓の鼓動も止まってしむにゃ。だから、無生物しかあっちの時空間の中に入れないにゃ。」

何ですと。それは初耳学である。


ではどうするか。俺のありったけの魔力で壁に穴をあけるしかないか。そう思ったとき、アスカが行動に出た。

「仕方ないわね。私が何とかするしかないわね。感謝しなさいよ。」

アスカは魔法の詠唱を開始した。その詠唱方法はいままで聞いたことのない詠唱の仕方だった。出だしは普通だったのだが、途中から2重に音が重なっていたのだ。どのように発声させているのかわからなかったが、2つの詠唱を同時に行っているようだった。何なんだそれは・・・・


詠唱が終わると無数の水で作られたレンズのようなものが空中を漂っていた。そして、そのレンズは前方のレーザーの射出口の周りを飛び回っていた。レーザーの周りで起きた変化はそれだけではなかった。霧でレーザーのある部分が覆われていたのだ。

「なるほどにゃ。」

ミネットは納得した。

「そういう事か。」

カインは冷静に戻った口調で同意した。

『どういう事だってばよ。』

俺は心の中で疑問を口にした。


その俺の心の中の疑問を解決するようにゼロが解説をした。

「水の絶対屈折率は1.3デス。空気中の屈折率よりも0.3ポイントも高い。射出口から出たレーザーの軌道を水のレンズで歪めて、なおかつ水蒸気によって威力を弱めているという事デス。あの水蒸気の量であるならば、レーザーの威力を無効化しているハズデス。」


俺はアーサーに鍛冶屋でもらった鉄の塊を出させた。俺はその鉄の塊を前方のレーザーに投げ込んだ。

その塊は無傷でレーザーを通過して地面へと落ちた。

俺達は鉄が無傷である事を確認してから、レーザーを通過した。アスカのおかげで全員無傷で事なきを得る事ができたのだ。


「私を連れて来てよかったでしょ。もっと感謝してくれてもいいのよ。」

アスカは調子に乗っていた。出発時に連れて行くのを反対していたカインもアスカの事を認めて謝っていた。

しかし、俺はある事に気が付いた。


アスカを連れて来ていなければ、あのが直方体の物体を持ち帰ろうとは思わなかったのではないだろうか。そうすれば、こんなピンチになる事もなかったのでは・・・


俺はふとよぎったその考えを振り払った。いや、あの直方体の物体が原因ではないかもしれないのだ。他の冒険者が何かへまをしたという可能性だってあるのだ。そう百に一つ・・・いや千に一つ・・・いやいや万に一つ・・・

俺は心の中で誓った。もし遺跡でピンチになるものがいたら全力で助けることを。それが俺にできる唯一の贖罪なのだから・・・・・・





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る