第69話 ティーエ

~魔法使い・ティーエの視点~


 私には魔力の察知だけでなく、その大小もおおよそなら感知することができます。天才魔法使いのこの私にとっては当たり前のことですがね。


 私は、新魔術の研究のために魔導士学園で勉強し直す事にしたのですが、折角だからと、特別クラスの先生を頼まれることになりました。


 特別クラスは元々、国王の娘であるカトリーヌを治すという目的のために集められたクラスでした。しかし、私達によってその目的を達せられた今、学園は特別クラスの扱いに戸惑っているようでした。


 集まった生徒達は、皆優秀で、中には先生達より魔法の技術が高い者達もいるようでした。その危うさから特別クラスを廃止するという案もあったようです。しかし、その高い魔法の技術はこれからの学園の発展のためになるという判断により、存続する事になったそうです。


 この特別クラスの生徒達の何人かは、凄まじい魔力を持ったものが何人かいます。私の魔力量すらも上回っています。


 そんな中、後ろの席で顔をあげず縮こまっている生徒がいました。その生徒からは魔力がほぼ感じられませんでした。何故、この特別クラスにいるのか不思議です。


 その横には、妖精族がいました。あの子は妖精族の里で伝言を頼まれた、リーンという子に違いありませんね。


 私は、学園長に魔力の少ないアギラ君という少年について尋ねました。すると、学園長は生徒の個人情報は明かすことはできないが、アギラ君は我々では理解できない存在であるという事と、魔法に関しては優秀であるという事を教えてくれました。


 しかし、私には魔力の多寡を測る事ができます。その情報は誤りであるのではと思っています。

授業中も、最初は縮こまっていると思っていましたが、単に寝ているだけのようでした。一度、話し合う必要があるようですね。


 そして、私が新魔術研究室で無詠唱で魔法を撃つ術を研究している時の事です。扉が開きました。何人かがそちらの方を向きました。私もそちらを見ました。


 その扉の向こうにはアギラ君がいました。私は彼と目が合いました。すると、彼は静かに扉を閉めて、どこかへ行ってしまいました。


 私は、扉の方へ行き、彼の後を追いかけました。人生の先輩として、一言言わなければならないようです。


「あなたの事は、学園長から聞いています。変わっているが、とても優秀だ、と。しかし、私の授業をいつも眠って、聞いてないようですね。私の授業ではためにならないかもしれませんが、そんな態度で過信していると、いずれ皆と差がついてしまいますよ。」

私の言葉は彼の心に届いたでしょうか。


「すいませんでした。これからはちゃんと聞くようにします。」


 意外にも素直な反応でした。これなら、大丈夫そうですね。優秀だと聞いていますから、新魔術研究室に勧誘してみるのもいいかもしれません。そうすれば、本当に優秀かどうか見る事ができます。

 確か、アギラ君は呪術研究会というところだけしか所属していないはずです。

 それに、新魔術研究室は魔導士学園の花形ですし、魔法使いなら無詠唱で魔法を撃つという事に憧れないはずはありません。

 しかし、その提案は断られました。そして、あろう事か無詠唱で魔法を撃つことができるなどと法螺を吹いていました。私に何か頼みたいようですが、何故そんな嘘をつくのでしょうか。


「無詠唱で本当に魔法を撃てるのですか?」


「できますよ。」


「やって見せてくれれば、考えます。」

天才魔法使いの私を欺くことはできません。


「わかりました。じゃあ、外に出ましょう。」

私はアギラ君についていくことにしました。


着いた場所は、人がいない広い場所でした。


「では、今からやってみますね。」


 アギラ君は右手を前にかざしました。すると、今まで感じられなかった凄まじい大きさの魔力がアギラ君の体から発せられました。そして、空が暗雲に包まれて、数十本の雷が空からおちました。


こ、この魔力は・・・


 前にも感じたことがある魔力です。そうです。北の大陸で感じた魔力に非常に似ています。1度目は北の大陸の洞窟の中で感じた魔力。そして、2度目である砂漠で感じた正体不明の魔力の方がより近い気もします。


 あの時は薄暗かったのと、恐怖であの変態悪魔の顔をよく見ることができませんでしたが、アギラ君に似ていたような気もします。


 私の足は震えて、その場に座り込みそうになりました。しかし、私は必死に耐えました。

 どうやら、私があの洞窟で出会ったという事はバレていないようです。バレるわけにはいきません。もし、あの場にいたとばれたら何をされてしまうのか・・・・


 そこで、私は全ての事が合点がいきました。悪魔族というのは、怠惰な種族だと聞いたことがあります。授業中に眠るのは当たり前の事だったのです。それを私は・・・


「ティーエ先生、無詠唱でも魔法を撃てたでしょう?」

私は必死に恐怖を抑え込み返事をしました。


「ほ、本当ですね。ど、どうやって、するのですか?」


「それは、先生が俺の頼みを聞いてくれたら教えます。」

ああ、私は何をされてしまうのでしょうか。今は普通の恰好をしていますが、この悪魔族は裸でいるのが普通のはずです。私も裸にされてしまうのでしょうか・・・私のこの貧相な体を見て激高してしまうのでしょうか・・・


私は冷静に聞き返しました。この百戦錬磨の天才魔導士はこういう時にも冷静さを失うことはないのです。

「な、な、な、何を、し、し、し、したら、いい、いいんですか?」

少し、どもってしまいましたが、仕方がないでしょう。


「呪術研究会に入って欲しいんですが。」

はい?それだけでいいんですか?それだけで、無詠唱で魔法を撃つという魔道の深淵に触れることができるのですか・・・


 その時私は、呪術研究会のある噂を思い出しました。

 その噂を聞いたときは、この魔導士学園に入ってまで、そんな事をする者がいるとは思わず、「そんな事はありえません。」と一笑に付しましたが、この変態悪魔ならありえるのかもしれません。


 その噂とは、呪術研究会でハーレムを作っているという噂です。

 どうやら、私はハーレムの1人とされてしまうようです。

 しかし、私にNOと言う事などできるはずがありません。この悪魔族の恐ろしさを知っているのですから。


「わ、わかりました。呪術研究会に入ります。」


「本当ですか?ありがとうございます。・・・あ、あと無詠唱で魔法が使えることは秘密にしてください。」


「そ、それはもちろんです。」

喋ったら殺す。つまりは、そういう事ですね。

私1人ではどうにもなりません。


 私はジーク達に相談しに行く事に決めました。もしかしたら、私の勘違いという事も考えられます。アギラがあの時洞窟で会った変態悪魔とは違う可能性もあるのですから・・・




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