第64話 蠅の王・前編

俺は朝早くに、王都の城門前で2人と待ち合わせをした。

依頼の鍛冶の工房のある場所は少し離れた山奥にあるという事だったので、城門で集まってから3人で行くことにしたのだ。


ドロニアはほうきを手に持ち登場した。

『その箒は何に使うの?』

なんて野暮な質問を俺はしなかった。魔女に箒といえば、それに跨って飛ぶためだろう。


「そ、その箒は何ですか?」

クロエが質問する。


「これは、飛ぶための魔道具。魔力が通りやすいように作られている。」

ドロニアは箒に跨った。


「そ、そんなものが、あるんですね。」


「あなたも、後ろに乗って。」


「い、いいんですか。」

クロエはドロニアの後ろに乗った。


『 風の精霊よ 銀礫の鎖を断ち切り 飛翔せよ 物質浮遊マテリアル・フローティング 』

箒に風と火と土の3種類の魔力が流れるのが見えた。


クロエとドロニアを乗せて箒が浮き上がる。


「あれ、俺は?」


「走って、ついてきて。」

2人は空高く舞い上がる。


ひどい。しかし、返事が返ってきたのは大きなる一歩だ。


竜になって飛ぶこともできるが、それは驚かしてしまうだろう。だから、俺はドロニアと同じことをしようと考えた。俺の作ったお玉やしゃもじには、俺の魔力を流すことができたのだから、同じことができるのではないかと思った。ただ、お玉やしゃもじに跨ったら、尻が裂けそうな気もする。


俺はまな板で試してみることにした。まな板が汚れないように、ロープをまな板に巻き付けた。

そして、その上に立って、風と火と土の3種類の魔力を流しながら、まな板が飛ぶイメージをした・・・


俺は飛び上がる事に成功した。バランスが難しかったが、慣れれば自由に飛ぶことができた。俺はまな板の上でまっすぐに立ち、腕組みをした状態で、2人を追いかけた。

2人に追いついた俺はスピードを落とし、並走した。


「・・・・・・」

ドロニアはちらりと俺の方を見て、すぐに前を向いた。


「す、すごいです。アギラさんも空を飛べるんですね。と、特別クラスの生徒はやっぱりすごいんですね。」

クロエは俺の方を見て驚いていた。


到着するのに昼くらいまでかかる予定だったが、この調子であればすぐに到着しそうだった。

「それで、詳しい依頼内容はどうでした?」

クロエは冒険者ギルドから、依頼を受理すると同時に詳しい内容を聞いていた。


「そ、それが、何でも悪魔族アクマの一人が工房を占拠して、結界を張ったそうです。」


「何で悪魔族アクマが・・・?」

悪魔族は基本的に北の大陸から東にある大陸に生息していると習っていた。南の大陸にも悪魔族がいるのだろうか。


「そ、それは分かりません。悪魔族は北東の大陸に住まうと言われてますが・・・」


「たぶん、人工の魔装造りに失敗した。」

ドロニアが何か知っているようだった。


「魔装は悪魔族を召喚して、鎧に憑依させれば、人工で作ることが可能。でも、召喚した悪魔を従わせられなければ、暴走する。」

ということは、今回の鍛冶工房では魔装造りが行われていて、悪魔の召喚をしたが、その悪魔が工房を乗っ取ってしまったという事だろうか。


「けど、それだと、呪術研究会に何で依頼が来たんだ?呪いと関係ないような・・・」


「そ、それは、悪魔族は魔法以外に呪いの類を使うものが多いからです。ほ、他の種族でも呪いを使う種族はいるのですが、悪魔族は基本一人一つの固有呪術を使うと言われています。だ、だから、お二人とも気をつけてください。」

悪魔族にそんな能力があるのは知らなかった。


「私には呪いの類は効かない。だから、大丈夫。」


「「えっ」」

ドロニアの発言に俺とクロエは驚いた。


「そ、そうなんですか?」


「私の師匠が言うには、私の体は呪いを受け付けないらしい。」

そんな体質の者がいるのか・・・・


「だから、工房の中に入るのは私一人の方がいいと思う。」

ドロニアは俺の方は見ずに、そう言った。


俺は、呪いにかかってしまうのは不安であったが、南の大陸へ来てから自分の力に自信があった。それに、ここまで来て、女の子1人だけで危険な所に行かせるよううな事はしない。


「心配してくれてありがとう。呪いにはかからないように、気をつけるよ。」


「・・・・・・」

ドロニアは無言のまま、前を向いて飛行を続けた。


俺たちは空の上から、山の中にある鍛冶工房を見つけることができた。

俺たちは、その近くの木々の中に降り立った。そして、鍛冶工房の近くまで近づいた。

鍛冶工房の周りには半球状に薄い光の膜が張られていた。これが結界だろう。

クロエが結界を調べ始めて、結界の前に立った。


「 臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前 」

クロエは声を出す度に、手で印を結んだ。


「 滅 」

右手の2本の指を結界に向けると、結界に人1人が通れる穴が空いた。


「こ、これで、気付かれずに中に入れます。わ、私はこの近くで待っています。」

ドロニアを見ると、地面に召喚陣を描いていた。


「 出でよ フギン 」

召喚陣の中央からカラスが出てきた。


「何かあったら、このカラスが私に知らせてくれる。」

クロエに何かあった時のためにカラスを召喚したようだった。


「あ、ありがとうございます。2人とも気をつけて。む、無理はしないでください。」

俺とドロニアは結界の中へと侵入した。


工房の扉を開ける時に、ドロニアが呟いた。

「魔力の反応が2つあるわ。」

悪魔は1人ではないようだった。


「どうする?」


「気づかれる前に同時に2人とも始末した方がいいわ。1階と3階にいるから、あなたは3階に向かって。少ししたら私は1階の方を始末するわ。」

2人で1人ずつ始末すると、音でもう1人にばれるから、同時に始末しようという事だろう。


俺たちは二手に分かれる事にした。俺は3階に向かった。3階には1つしか部屋がなかった。ゆっくり扉を少し開けて中を見ると、サッカーボールくらいの蠅が部屋の中を飛んでいた。


こちらには、まだ気づいていなかった。俺は、その蠅に狙いを定めて、『 地獄の火球ヘル・フレイム 』をいつでも撃てるように準備した。


俺の魔法で下の階の悪魔に気づかれてもいけないので、下で音がした瞬間に魔法を放つことにした。

少しすると、下の階で破壊音が鳴り響いた。その音で部屋の中を飛んでいた蠅の動き止まった。

俺はその瞬間に魔法を放った。


『 地獄の火球ヘル・フレイム 』

黒い炎の塊が蠅に命中した。驚いたことに蠅はすぐには死ななかった。燃えた状態で部屋の中を飛び回っていた。


しかし、俺の黒い炎は対象者を跡形もなく消滅させる威力がある。俺は何もせず燃え尽きるのを待った。

少しすると、力尽きて蠅は地面に転がった。黒焦げにはなっていたが、消滅してはいなかった。あの大きな蜘蛛の魔物を跡形もなく消滅させた魔法なのに、この蠅は吹き飛ばなかった。もしかすると、結構強かったのかもしれない。そう考えていると、階下でまたも破壊音がした。どうやら、奇襲攻撃で始末するのは失敗したようだった。

俺はドロニアを助けるために階下に急いだ。


2人が戦っている部屋はなかなか広かった。

ドロニアの周りは風の防御が張られていた。そして、部屋中にはひょうが無数に浮いていた。その雹はドロニアに向かい飛んでいく。そして、ドロニアの風の防御はその雹を全て防いでいた。

しかし、雹は無くなった場所にまたも無数に出現していた。そのため、ドロニアは悪魔に近づけないでいるようだった。


「おや、もう1人、侵入者がいたようですね。しかし、たった2人でベルゼブブ様に仕えるこの上級悪魔であるこの私、フルーレティに挑むとはとんだ命知らずがいたものです。」

俺はその悪魔の姿を見て、これはまずいと感じた。


その悪魔の姿は、人間の女性の姿をしていた・・・。





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