第18話 使命
「竜の呪いはどうしたら治るのですか。」
「それはまだわかっていない。しかし、その原因の目星はついている。」
「それは、何ですか?」
「魔の森の北にある禁忌の洞窟に何か鍵があるのじゃないかと踏んでいる。」
「何故、その北の洞窟が怪しいのですか?」
「昔、その洞窟に入ろうとした竜人がいたのは知っているか?」
「授業で聞いたことがあります。確か、洞窟に入ろうとしたら倒れて、その直後命を落としたとか、だったと思います。」
「そうだ、だがその竜人はすぐになくなったわけではないそうだ。その後、何十年か生きて倒れたらしい。そしてその症状が竜の呪いに近いことが10年前くらいにわかったのだ。」
「確か調査隊が派遣されたのは1000年前じゃないですか?その後から竜の呪いが広まったのなら、その原因が洞窟だとすぐに辿りつくのではないですか?」
「いや、調査隊の竜人は隔離されて療養していたために、幸いにも同じような症状になったものはその後300年くらいはでなかったんだ。そして、このルード皇国に呪い持ちがちらほら出だしたのは、672年前の戦争の後だと言われている。だから、その戦争に原因があるのではと考えられていて、今もその方面で調査は進められている。調査隊と呪いが広まった時期がかけ離れていたので誰も北の洞窟を結びつけることをしなかったんだ。」
「では、何故父さんは北の洞窟に目を付けたのですか?」
「城にある調査隊の記録を読んだからだ。そこには体調を崩した竜人の療養記録というものがあった。そこに書かれた症状は、母さんの症状に似ているものが数多くあった。そして、『最後を迎えるとき黒いオーラに包まれたように見えた。』という記録も残されていた。俺はそれを頼りに北の洞窟を調べることにした。しかし、洞窟の入り口の100m手前から嫌悪感、不快感が襲ってきた。言い伝えの通りだったので、入り口に入ることはしなかった。そこで、洞窟に動物を放ったりとしてみたが、その動物は帰ってこなかった。試行錯誤を繰り返して2年くらい経ったころ、森でオークに襲われそうになっていたお前を見つけたんだ。」
そこでいったん言葉を切り、何か言うことをとまどっているようだった。
「全部教えてください。学校で私には使命があるといわれました。それと関係があるんですか?」
アギリスは何か決心した面持ちで教えてくれた。
「最初この魔の森に何故人間の赤ん坊がと訝しんだ。しかし、ふと考え付いた。洞窟の結界は竜族にしか発動しない。この赤ん坊を育てれば洞窟の調査に使えるんじゃないかと。俺は皇帝にその案を申し出た。何人かの竜人は反対したが、話し合いの結果、その案は採用されることになった。だから、俺はその洞窟の調査ができるようにお前を強く育てるように勅命がくだされた。そして、お前は俺の養子になったのだ。」
そこまで話して、俺の様子を伺っているようだった。そして続けた。
「しかし、1つ問題が起きた。ルーラは呪いの影響で子を産めない。産んでも呪いを受け継いでしまうからだ。だから、お前のことを本当の我が子のように育て始めた。すると、危険な洞窟には行かせられないと言いだすようになった。人間は竜族に比べて、かなり脆弱だったからだ。だから、その時俺はルーラと約束させられた。アギラが洞窟に行きたくないのであれば強要しないこと、力が足りない場合は洞窟の話をしないということを・・・」
それじゃあ、今話をしてくれったって事は・・・
「強くなったな・・・」
俺はアギリスに認められたということだった。
「しかし、洞窟へ行くかどうかお前が決めてくれ。ルーラもそれを望んでいる。学校卒業までにどうするかを考えておいてくれ。皇帝との期限が学校を卒業するまでなんだ。それを過ぎると、この国からは出ていかねばならなくなるかもしれない。だけど、もしそうなったとしても、お前の強さなら外の世界でもやっていけるはずだ。」
卒業まで考える必要がなかった。俺の答えは決まっていた。
「もっと力をつけて、その洞窟の調査には必ず行きますよ。」
「そうか。ありがとう。でも無理はするなよ。こんな話の後だが、俺もお前を本当の息子だと思っている。」
2人が俺を本当の息子として育ててくれているのは十分感じていた。
前に書斎に入った時に感じたことだった。背が高くなってから、書斎を利用した時のことだ。上の棚に他の本より新しい背表紙の本が何冊かあった。その本の中には重要と思われるところに手書きで線がひいてあった。その内容は人間に関することばかりだった。人間の食事や人間の生活習慣。人間の発育。など人間に関することにたくさん線がひいてあった。それに、魔力に関する本もあった。幼少期に魔力は鍛えた方がいいとか、魔力の鍛え方とか、昔アギリスに教わった内容があった。2人は、俺を育てるのにかなり苦労したんじゃないかと思う。周りからも嫌がられていたかもしれない。それでも俺に愛情を注いでくれたのだ。そして俺に使命を果たさなくてもいいとまで言ってくれた。俺はこの2人に恩を返したかった。俺の使命というのがルーラを救うことができることにつながっているのなら何も迷うことがないのだ。
こうして、俺は使命を必ずやり遂げることを決意したのだった。
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