《九月編》百合短編集

いろいろ

①ショートヘア君

荷物の軽いバッグを振って、十歩に一度脇腹に打突させ、小刻みに位置ずれしたシャツを整え。ますわ。高い日射しと湿気で汗が粘着質に思わせても、七月中盤にもなれば季節の印象は全面的に脱色してい。ますわ。

目的地までの道のり、路傍で動けない焼け石に、同情ではなく同感するあたしは放射冷却を頼まず、打ち水も要求し。ませんわ。日課となりつつある空の地図を築き、乾きかけの水溜りを回避しようとしたらソックスが浸水を被り。ましたわ。体の大概が水という科学によって挙げ句水浴びは爽快だと過信しますが、無けなしの手製ボディーブローを喰らった時には、じっとりしていて不快になり。ましたわ。汗も水も塩分しか差はないかと得心の隠微な腑を持って、道も残すところ三割を切り。ますわ。大通りに満たない通り道を、夏の灼熱に負けないよう不退転に行き。ますよ。

すると夏限定の甘味を売り捌く学内喫茶のガラス板が映り。ましたわ。そう言えば朝食はヨーグルトだけ。でしたわ。店に貼った看板の宣伝効果でお腹の減りが到来してき。ましたわ。時刻にはたっぷり猶予があり。ますわ。大人しく店に入ることにし。ますわ。

昼間だからか客が多い。ですわ。テーブルに着いて品書きに目を遣ると、女性限定ランチというメニューがあり。ますわ。その内のフレンチトーストに強く惹かれ、店員を呼び。ましたわ。すると「こちらは女性限定ですので……」と知ったことを忠告され。ましたわ。学生証をご覧に入れさせてご注文を承らせ。ましたわ。快適な店の空調がぎこちなくなり。ましたわ。

「男っぽい」よく言われ。ますわ。会う人会う人に言い告げられ。ますわ。聞き慣れたこと。ですわ。

幼稚園へ収容された時、初めて言われ。ましたわ。

小学校ではクラスの男子に男女とからかわれ。ましたわ。

中学時代の文化祭は王子様役に決まり。ましたわ。

高校の修学旅行で同室の女子に告白され。ましたわ。

今や大学生。ですわ。何も変わらないあたし。ですわ。黒ずんだ帽子を被ったりして、それしか似合わない短髪を生やし。ますの。何日の日か伸ばそうと思いましたこともあり。ましたの。鏡を見れば見るほど絡まる絡まる癖毛はあたしがそうすることを拒み。ましたわ。

顔も髪質もそういう様に出来ているの。ですわ。百七十ある身長も親がくれた贈り物なの。ですわ。部活のミーティングの時やサークルで会話する時などは上から見下ろす日々。ですのよ。見上げれた女の子はキラキラしながら干渉してき。ますわ。高確率で勘違い。ですわ。

性格もあたしのはサバサバしてる。わ。周りの女の子みたいに複数で固まりながら遊んだりできない。わ。女の子の裏にある嫉妬や羨望に巻き込まれたくなくて、避けてしまうの。ですわ。漠然と接するしかできません。ですわ。

本当はあたし、可愛くなりたい。ですわ。さらさらロングヘアをアレンジとかしてみたい。ですの。可愛い服だって着たいし、リボンとか付けられたらいいなと思い。ますわ。表参道の街角をワンピースで振る舞いたい。ですわ。

携帯に素顔を映し返せば、理想はたった近距離で叶わないと知れ。ますわ。愛嬌を持たない馬子のあたしは衣装も選べないん。ですわ。それが染み込んだあたしは相応のジーパンと黒一色のティーシャツで肌を包むの。ですわ。あたしの装飾は身分相応なの。ですわ。

そしたら窓際のカウンターの娘達が噂し。ますわ。

「ねぇ見てあの子、めっちゃイケメンじゃない?」「ほんと、あんなカッコイイ人この大学に居たんだねぇ」「どうしよ話しかけてみよっかな」

耳馴染みの囁き声が炎症を引き起こし。ますわ。いつも通り。ですわ。幼少の教室では嫌味だった言葉が口当たりを濁して、上辺を取り繕ってくるの。ですわ。華の女子大学生があたしを異なる対象と決めつけてくるの。だわ。

居た堪れなくなって、性急にアイスカフェラテを上流させ。ますわ。余った席に浸したアイボリーのトートバッグを掻っ攫い、旱魃のグラスをレジに返却する。わ。

「あぁあの人帰っちゃう」「あらま…………あれ、なんかあの人おかしくない?胸の辺り揺れてない?」「あっ確かに。てか、あの人食べてたのレディースランチじゃ」

語尾を聞き、素早く愛想を払って外に出。ましたわ。逃げるように。ですわ。これ以上あってはならないの。ですわ。

まだ時間はありますが、サークル部屋まで心持ち競歩し。ますわ。途中歩幅の広さに滅入りつつ、サークル棟に着き。ましたわ。間隔塗れの階段を気兼ねなく上がり。ますわ。二階の女子専用部屋に入ると、未だ誰もい。ませんわ。流石に早く来すぎたかしらと思いつつ、ティーシャツを脱ぎ。ますわ。新品だったデニムも爪先より通過させ。ますわ。陸上ユニフォームに着替え。ますのよ。中学の頃から続けて。ますの。

バッグの底を手に吊るした時、他のメンバーが入室してき。ましわ。

「ひゃっ、間違えたっ」「いやあれ、○○君だから」

応用を効かせた挨拶に、早々と切り出され。ますわ。嫌いな名前を確かめられて、凝固した苦笑をテンプレートし。ますわ。先程のこと昔のこと、全てが積み重なっていき。ますわ。事実を継承しない敬称が警鐘を呼び。ますわ。

「何だ○○君かぁ……言われてみればブラ着けてるわ」「男だったら不味いだろ。でも本気、男みたいだよね」「○○君が男だったら絶対惚れてるよぉ」「男だったら良かったのにね」

憧憬が処刑する象形が承継に背中から屠られて、あたしは着ぐるみに居住区を構えるように袖をやり過ごし。ますわ。聞いているのに聞こえないために何気なく地を見。ますわ。発症する寒気は床暖房も採択していない大学側の失策。ですわ。言われ親しんだとは言え傷は新しいの。ですわ。首際で流れる上着の生地に、痣の刻印が出来るよう勢いを増し。ますわ。

「生まれる性別間違えたんじゃない?」

喜色満面に破顔するのが二つ想像でき。ますわ。かつて実親にも与えられた感想が息を吹き返し。ますわ。考えて考えた末考えないようにした事実が今、蘇り。ますわ。間違えたらしい頭を使って解決し。ますわ。そもそも間違いだって何処の誰が決めるの。ですわ。あたしの体のことなのに、あたしが決めないの。ですわ。決められないの。ですわ。ですわ。ですわ。ですわ。頭じゃ解明できま。せんわ。

「言っても私、○○君だったら付き合っちゃえるかもなぁ」「分かるわぁ。『女同士とか、そんなの変だよ……』みたいな?」「百合ってやつ?きゃー、私も当事者だぁ」

声が聞こえ。ますわ。日常会話。ですわ。

あたしを呪い。ますわ。


「そんなの変だよ」


聞き。ましたわ?


「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」


変なんですって。


「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「生まれる性別間違えたんじゃない?」「男だったら良かったのに」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「男だったら良かったのに」「男だったら」「生まれる性別間違えたんじゃない?」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「生まれる性別間違えたんじゃない?」「イケメンじゃない?」「そんなの変だよ」「男だったら良かったのに」「男だったら」「男みたい」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「生まれる性別間違えた」「男だったら」「そんなの変だよ」「男だったら」「そんなの変だよ」「男だったら」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」「そんなの変だよ」


あたし、変なんですって。







変?



へ、へ?

ん?

へへん、へ?

へーへん変へ?へ?へ変変!

へんへんあたしへ?ん、変、んへんヘヘん??、変?ん?

あた?し変、あたしへん?へんへっへへ変、へへへ!へっ変!?変へん?

変あ、たし?たしたし?あし変た?変?変?変?、へん?あたし?あ、あたし?へあたし変、あ、?????、あっ、変???????たし!

???変、へ、へ、へへへ。へー、変、!へんへっんんん変、変!変!変へん、変へ?????あたしへ?

へ、へん変変変、変へー!変!!んへんへ、ん変へ?変へー変へへんへん?へん?へん?へん?????????

あたし変!あたしっ!あたしへ変!あした変へんへ、あたしんへんへへん変へんへ!

あた変しへ、あー変あたしへーん変たしあたし?あたし?へあたし変あへたっへたしした!へんたんあたしへ!

へ、へへへ!あたしへへへ!あたし変へへ!あああ変!たしああああん、変んんあ、たし変た、したへんあ!

変、あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!あへへ!

あたし変あへへ。ですわ。

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