補遺として…

@y5yk

第1話

亡母の兄弟も先に皆亡くなっています。母と兄、弟の3人でしたが

一番年下の弟(私の叔父)が最初に癌で亡くなっています。

その、叔父のエピソードです。

叔父は生後すぐに体調を悪化させたりして、元々虚弱でしたが、晩年

にはお酒や煙草の所為もあり、肥満していて活動的な人でした。


まだ少年期の虚弱だった頃のお話です。

消化器に膿が溜まるという、重篤で死亡率も高い症状で市内の医院に

入院していました。助かる可能性はかなり低かった様です。

激戦地帰りの、元軍医さんが適切な緊急治療をして下さり、幸いな事に

命を拾う事が出来ました。戦地風のイレギュラーな措置でしたが…。

退院後、彼が両親に語ったお話です。

病室で寝ていると、ベッドの脇の椅子に小母さんが座っていて、頻りに

話しかけて来たそうです。ここは一人部屋なので入院していたのも叔父

一人だったんですが、ずっと「さあ!坊ちゃん家へ帰りましょうや!」

と繰り返し言っては覗き込むそうです。一晩中これです。「起きて帰り

ましょうや!」とそれはしつこく勧めるんだそうで、本人はこの小母さん

どっかで見た事あるような気もするけれど思い出せずに、うんうん唸り

ながら横になっていたと言います。一見小母さんの言葉には、励ましの

意味があるようにも思えますが、よくよく考えると生死の淵を彷徨って

いる子供にとって不可能で、死に直結しかねない勧めです。

一人部屋のベッドの脇はすぐ壁で、椅子を置く様な空間は無かったのです。

この話を聞いた後両親は、嘗てこの病院にすぐ近所の商店の奥さんの一人

息子さんも入院したことがあった事実を思い出しました。店のたった一人

の跡取り息子でした。後で、入院していた部屋も叔父の病室と同じだった

と分かりました。ここで、息子さんは亡くなっていたのでした。

奇跡的に命を取り留め、帰宅出来ました。上記の様な事実を話したところ、

ああ、あの小母さんだったよ、と思い出しました。

但し、この商店の小母さんとはその時点でも付き合いがあり、何と言っても

御近所ではあるのでこんな話はしていません。

小母さん本人にも何の自覚も無く、一種の残存思念的なものによる現象では

なかったのだろうかと思います。





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