『無題』

『無題』と書いてある。


僕はその『無題』をじっと見つめた。


何も描かれていない。真っ白なキャンバス。


僕はただそれをじっと見つめる。


何も描かれていない、真っ白なキャンバス。


何の意味があって、のか。


僕には意味が分からない。


その『無題』の隣に座っていた、売り子と思しき老人に尋ねる。


「すみません、は、何の意味があって描いたんですか?」


老人は、ただ僕を見つめて呟いた。


「あんたさ。このキャンバスを捨てるのもあんた。描くのも見るのもあんた。買うのも売るのもあんた。はそういう意味がある」


ますます分からない。


僕はただ、何も描かれていない『無題』を、見つめ続ける。


何も描かれていない『無題』に何かが映るように――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る