86 目覚めは熱い口付けで


 悲痛な叫びは何処まで届いたのだろうか。

 少なからず、体育館に集まるゴミ共には聞こえたみたいだ。

 奴等が蔑みの視線を向けてくる。いや、罵りの言葉が飛び交い、嘲りの笑いが零れている。

 だけど、残念なことに、異世界にいる葵香――アイノカルアには届かなかったみたいだ。

 どれだけ願っても、マナゲージの針が動くことはなかった。


 これが報いなのか? 確かに、沢山の人を殺めてきたし、報いを受けるのも当然かもしれない。でも、こんなのはあんまりだよ。報いなら僕が受けるから……いや、ダメだ。報いを受けるのは、このゴミ共を始末してからだ。ここで挫けるわけにはいかない。だって、誓ったんだ。大切な者を守るって……どうすればいい? どうすれば、戦えるようになる?


 今まさに、男が唯姉のローブに手をかけようとしているタイミングなのだけど、いまだ諦めたりしない。

 朦朧とする意識を怒りで奮い起こし、これ以上ないほどに心の炎を燃え上がらせ、必死に打開策を考える。


 おかしい。僕等はマナが尽きて立つことすらできないのに、奴等はなんで動けるのさ。確かに、僕の魔力は乏しくなっている。それでも並大抵のマナ量じゃないはずだ。それを一瞬にして吸収しているのに、奴等が動けるはずがない。いや、それこそ、あの男は、二階から降りる時に魔法を使っていたはずなのに……


 違和感を抱き、周囲に視線を巡らせる。

 バスケットコートのフリースローライン近くで力無く膝を突いたまま、何一つ見逃さないつもりで探るのだけど、無情にも何一つ見つからない。あるのは一般的な体育館の光景だけだ。


 くそっ、そんなはずはない。必ず何かあるはずだ。


 諦めることなく、サングラスを外して目を凝らす。そう、この左目なら何かを見つけられるかもしれない。


 ん? あ、あれは? あれか!?


 特異な能力を持つ縦割れの瞳は、スリーポイントラインの違和感を捉えた。

 エンドラインから繋がるスリーポイントライン、その半円を示すラインが輝いて見える。


 もしかしたら、このツーポイントエリアが吸収範囲なんじゃないのか?


 疑念を抱いた途端、なけなしの力で刀を引き抜くと、すかさず近くのスリーポイントラインを斬り裂いた。いや、そのつもりだった。

 ところが、魔力の無くなった自分の力が、泣きたくなるほどに惨めだと痛感させられる。


 なんて、なんてショボイんだ……くそっ! でも、これでもいいはずだ。


 その力のない一撃は見るも無残であり、それにショックを受けるのだけど、その一振りはラインに辛うじて筋状の切れ目を入れることに成功していた。


「なにっ! くっ、ど、どうやって気付いたのさ」


 床を斬り裂く音に気付いた眞銅が振り返ると、驚きを顔に貼り付けた。

 奴が放った驚きの声は、唯姉に伸びていた手をとめさせ、嫌らしい笑みを浮かべていた男が振り返る。

 ただ、それにホッとする余裕すらない。なにしろ、既にマナは完全に枯渇しているのだ。


「これが魔法陣の役割をしてたんだね」


「くっ、えっ!? なに、その目、その目は――」


 仕掛けられた罠を看破するべく顔を上げると、奴は僕の瞳を目にして驚きを露わにする。

 だけど、そんなことはどうでもいい。いや、この場合は、時間稼ぎをするために、奴との会話に付き合ってやる。

 だって、少しでもマナを回復したいのだ。


「これかい? これはね。神様に授かった瞳さ」


「な、な、なに子供みたいな幼稚なことを言ってるのさ。そんなことがある訳ないじゃない」


 うぐっ……子供の癖して偉そうに……いやいや、ここは我慢だ。


「あれ? こんな世界になったのに、神様がいないとでも思っているのかい? それこそ発想が貧困なじゃない?」


「むぐっ……こいつ、ムカつくよ。ちょっと、早くやりなよ! その女、滅茶苦茶にしていいからね」


「了解っす。じゃ、その大きな乳を拝ませてもらうかな」


 ま、まって! くそっ、裏目に出た……


 怒りを堪えながらも、時間を稼ぐために奴の気を引こうとしたのだけど、どうやら嘲りの言葉を口にしたのがまずかったみたいだ。

 一気に、唯姉の身が危機的な状況に陥る。


 だめ! だめだめ! それは僕のオッパイだ! くそっ、マナが全然回復しない……どうする……


 焦りを募らせている間にも男は唯姉のローブを引き剥がすと、いまだ衣服を着ているものの、明らかになる素晴らしきボリュームに絶句する。


「うひょーーーーーー! こりゃ、すげ~~~~~~!」


 うっさい! 見るな! 服の上からでも見るな! くそっ、その両目を潰してやるからな! いや、どうする。何か方法はないのか……うぐっ! ぜんぜん思いつかない。


「誰でもいいから僕にマナをくれよ!」


 心中で罵声を吐きつつも、必死に打開策を考えた。

 だけど、全くと言っていいほど良案が浮かばず、思わず泣き言を漏らしてしまった。

 その途端、脳裏に浮かぶマナゲージに起こった異変で混乱する。


 なにっ! これって、どういうこと?


 そう、今まで空っけつだったマナゲージが徐々に動き始めたのだ。


 まるで車に燃料を注ぐかのように、徐々にゲージが満たされていく。

 それは、これまで頭打ちになっていた位置を過ぎても留まることなく、さらに満タンに向かって増えていく。


 凄い。身体に力が漲ってくる。でもどうして……


 留まることなく満タンに近づくにつれて、まるで滋養強壮剤でもがぶ飲みしたみたいに、身体に溢れんばかりの活力が湧いてくる。

 ただ、その理由が全く分からない。


 そもそも、マナを吸い取るってことは、それを放出するか蓄積するしかないよね。もしかして、この魔法陣の下には蓄積するための何かがある? 僕はそれを自分の意思で吸い取っているのか? ありえない……でも、それしか考えられないよね。いや、奴等が吸い取るための魔法を編み出したのなら、僕がイメージでマナを吸いあげることも不可能じゃないか……おっと! やばっ!


 己が思考に意識を向けているうちに唯姉の服が剥ぎ取られ、大きな果実を包む下着が露わになってしまった。

 その光景を目にして、猛烈な焦りと危機感に襲われる。


「なにやってんのさ! 汚い手で唯姉に触んないでよ! 風刃!」


「ぐあーーーーーーーーーーーーっ!」


 罵声と共に放った風の刃は、唯姉の下着に手を伸ばそうとしていた男の指を切り落とす。

 絶叫を放つ男を目にして、眞銅が壊れた人形の如くぎこちない動きでこちらに視線を向けてくる。


「ど、どうして、魔法が……」


 魔法が使えることが余程にショックだったのだろう。これまでのように滑らかな口調ではなくなっている。

 別にその理由を教えてやるつもりもない。だけど、自分が何に刃を向けたのかを教えてやる。


「ん? 何言ってんのさ。僕は炎獄の魔法使い黒鵜与夢だよ? これくらいのことでやられる訳ないじゃん」


 静まり返る体育館に厨二的な台詞が響き渡るのだけど、最悪な事態を迎えた彼等は、罵声どころか、嘲りの言葉すら口にする余裕などないみたいだった。









 四本の指を無くした男のうめき声がいつまでも響き渡る。

 だけど、その男の行為を考えれば、全く以て同情する気にもなれない。

 それどころか、ぶっちゃけ、首を切り落としてやっても良かったのだけど、今の気分はそれでじゃ収まりそうにない。

 だって、南千住のショッピングモールの時とタメを張るくらいに、怒りの炎が燃え上がっているのだ。


「ああ、うっさいよ! 指が痛いの? だったら、手が無くなれば痛くなくなるよね? ほら、これで無くなったよ。どう? 痛くなくなったでしょ?」


「うぎゃーーーーーーーーーーーっ!」


 もちろん痛みが無くなる訳がない。だって、痛みが無くなるどころか、今度は手首から先が無くなって、まるで放水するかのように鮮血を撒き散らしているのだ。


 男は左手で己が右腕を押さえて絶叫する。だけど、ちっとも怒りが収まらない。


「だから、うるさいって言ってるよね? じゃ、これでどう? 手が痛くなくなったでしょ?」


 いまや怒りの炎そのものと化しているのだ。そう簡単に許してやる気はない。いや、そもそも許す気がない。


「くかっ!」


 肩から先を斬り飛ばされて、男は絶叫すらあげられないみたいだ。

 だけど、その前の絶叫が気付けとなったかもしれない。


「うっ、ん……ここは? なんだ、これは!? くそっ、クソガキ、嵌めやがったな。その首を引っこ抜いてやる」


 いやいや、まだ嵌められてないからね。僕が死守したから大丈夫だよ。


 意識を取り戻した唯姉は、自分の置かれた状況を理解したのか、まなじりを吊り上げて奴に毒を吐く。

 そんな彼女を安心させるために、優しく声をかける。


「来るのが遅くなってごめんね。でも、大丈夫だよ。唯姉、まだ何もされてないからね。僕がいる限り誰にも指一本触れさせないから。風刃!」


「あ、与夢……うん。ありがと。あなたって最高よ」


 いまだ清き身体であることを伝えつつ、十字架にくくりつけているロープを風の刃で斬り裂く。

 当然、彼女の身に毛ほどの傷もつけたりしない。怒りで燃え盛っていようと、ここに居るのは最高の魔法使い、そう炎獄の魔法使いなのだから。


「ごめんね。少し立て込んでるんだ。だから、愛菜と萌をお願い。風刃!」


 他の者達の戒めも斬り裂き、薄っすらと涙を浮かべる唯姉に世話を頼む。


「うん。こっちは任せて! でも、魔力がないから……」


「そうだね。直ぐに行くから、少しだけ待ってて。てか、あんた、なに逃げてんのさ。いや、もういいや。逝っていいよ。炎撃!」


 唯姉と話し込んでいる間に、右肩から先を無くした男が弱々しい足取りで必死に逃げようとしているのを見やり、生きたまま火葬にしてあげる。


「ぐがっ! ひっ! ひっ! ぐぎゃーーーーーーー!」


「うぐっ!」


 燃え盛る男がもがき苦しみながら絶叫をあげる。それを見やった眞銅が絶句する。

 その隙に始末してもいいのだけど、そう簡単に逝かせてやる気にはなれない。今はそういう気分なのだ。そう、とことん後悔させてやるのだ。

 ただ、奴が燃え盛る男に意識を奪われているのは好都合だった。


 さて、マナが戻ったのはいいけど、みんな動けないんじゃ辛いよね……でも、今ならやれるような気がする。氷華、ちょっとだけいいよね?


 隣で倒れている氷華を抱き起し、強引に彼女の唇を奪う。


 きっと、これでマナが回復するはずだからね。


 いつもなら、とても出来そうにない行動なのだけど、自信の塊となっている今なら何も恐れることなど無い。


「う、ううん……むむむ。ん? む~~~~~~」


 目を覚ましたところで、口づけされていると知った氷華が驚きを露わにするのだけど、なぜか直ぐに落ち着きを取り戻すと、両腕を首に回してきた。

 どうやら、口づけのお目覚めに満足しているみたいだ。

 だけど、いつまでも熱い口付けを交わし合っている訳にもいかない。


「ごめん。氷華、少し敵の攻撃を食い止めてね」


「う、うん。まかせて。って、これくらい強引な方がいいかも……」


 いまだ敵の攻撃はないものの、奴等がいつ正気になるかも分からない。だから、先に氷華のマナを回復させたのだ。

 そんな事情があるとは思ってもいないのか、彼女は少しウットリした表情で頷く。なにやらとても満足そうなところを見ると、今日は完全にデレモードに突入しているみたいだ。


 そんな彼女に後事を託し、今度は一凛を抱き上げる。


「一凛……」


 彼女の名を口にするのだけど、全く反応がない。

 やはり、マナの枯渇で完全にダウンしているみたいだ。

 ぐったりとする彼女を見やり、少し焦りを感じつつも唇を重ねる。

 その途端だった。一凛はまるで万力のように僕を締め付けた。


「うぐぐぐぐぐっ~~~~~~」


 必死に彼女から離れようとするけど、あまりに強く抱きとめられている所為で、全く身動きできない。というか、唇すら離せない状況だ。


 くっ、こいつ、死んだふり作戦か……


 そう、多分、一凛は意識を失っていなかったのだ。そして、氷華が口づけされているのを知り、自分の番がくるのを今か今かと待ち構えていたのだ。


「一凛! いい加減にしなさい! 少しは空気を読みなさいよ」


 熱い口付けを続ける一凛の頭を氷華が遠慮なく叩く。

 その一撃で、やっと一凛の唇が離れたかと思うと、彼女はすかさず異議を申し立てた。


「ぐおっ! 氷華! お前だってやったじゃんか。ズルいぞ!」


「それはそれよ。今はそれどころじゃないでしょ。さあ、愛菜達のところへ行くわよ」


「ちぇっ! あっ……でも……」


 正論を食らった一凛が不服そうにするのだけど、どうやらやるべきことは理解しているようだ。

 ただ、彼女は視線を横に向けて絶句する。


「ん? どうしたの? うぐっ……ごめん。それは無理……」


 彼女の視線を辿ってみると、そこには床に横たわる祭の姿があった。

 だけど、さすがに男と口づけをする気にはなれない。だから、即座に拒否するのだけど、一凛は半眼を向けてきた。


「うんじゃ、どうすんだ?」


「放置でいいんじゃない?」


「いや、それは可哀想だよ」


 さすがに氷華の発言は、あんまりだと思う。

 少しばかり同情してしまったのだけど、途端に一凛が話をぶり返した。


「じゃ、黒鵜が口づけをするか?」


「ちょっと、そ、それは勘弁して! それとも、僕が男と口づけをしてもいいの?」


 やはり、自分の彼氏が男と口づけすることに抵抗を感じたのだろう。二人は渋い表情を見せた。


「じゃ、放置するか、一凛が引きずっていくしかないわね。氷壁!」


「ちぇっ、しゃ~ね~な~。おいっ、変なところを触ったらあの世送りにするからな!」


 結局、氷華が敵の攻撃を防ぎつつ結論を口にすると、一凛は意識のない祭に毒を吐く。

 あまりの仕打ちに、少しばかり同情したくなるのだけど、その途端に話が接吻に戻るかと思うと、僕はそれ以上何も言えなくなるのだった。









 狭い体育館の中は、いまや完全に冷蔵庫と化していた。

 放たれた氷結魔法の影響で、窓は開くどころか、割ることすら困難な状況となり、入り口も固く閉ざされてビクともしないようだ。

 恐怖に駆られた者達が必死に窓を割ろうとし、出入り口から逃げ出そうとするのだけど、それが不可能だと知って、必死に逃げ惑う。


 死に直面した者達が顔を引き攣らせて右往左往しているのだけど、氷華は容赦なく氷の矢を放っている。

 ただ、その攻撃はいつもよりも決定的ではない。


「お~、怖い女! 奴等を簡単に始末する気がないんだな。完全に甚振るつもりだぜ」


 氷華を盾にしてステージへと向かっているのだけど、彼女が放つ魔法を見やった一凛が肩を竦める。

 だけど、呆れつつもそれをダメだとは言わなかった。


 意識を失っていたと思っていたのだけど、多分、氷華もあの下劣な発言が聞こえていたんだね。まあ、僕も反対する気はないし……


 二人の言動から、自分と同じ心境であると感じる。もちろん、いまさらそれを止める気もない。

 それどころか、大いに応援したい気分だ。


 周りでは悲痛な叫びが轟いているのだけど、その間にステージの上へと辿り着く。

 どうやら、眞銅はどこかに隠れているみたいだ。ざっと見回してみたけど、その姿を見つけることはできなかった。

 でも、別に気にしていない。どこに逃げようと、必ず始末すると決めているからだ。


 さて、それよりも……


「唯姉、大丈夫だった?」


「うん。私は大丈夫よ。ただ、みんながまだ目を覚まさないのよ」


「多分、マナ枯渇だと思うよ」


「くっ、あのクソガキ、絶対に許さないわ」


 声をかけると、唯姉は仲間に目を向けて心配そうにするのだけど、直ぐに怒りでまなじりを吊り上げた。

 本当は、何があったか聞きたいところだけど、それを後にして、まずはマナの回復を優先させる。


「遅くなってごめんね。愛菜、直ぐに回復してあげるからね」


 横たわる愛菜を抱き起し、口づけと言う名のマナ回復を実行する。

 既に、氷華や一凛と交わしているのを見ていたのか、唯姉は不服そうな表情をしつつも、文句を言うことなく眺めている。


「ん、んん……ん!? う~~~~~」


 意識を取り戻した愛菜の反応は、どちらかと言えば氷華に似ていた。

 ただ、首に腕を回すことはなく、両手を優しく胸に押し当ててきた。

 その表情は、とても満足そうだ。


「大丈夫?」


「はい! 黒鵜さんが来てくれるって信じてましたから」


「そっか。遅れてごめんね」


「いえ、大丈夫です。もう全開です! よし、私も少しは仕返しするかな?」


「いやいや、愛菜は暴れなくていいからね。その役目を奪うとあの二人が怒るよ?」


「それもそうですね。あはっ。というか、萌さん」


「あっ、そうだね」


 一気に元気を取り戻した愛菜が、視線を萌に向ける。

 何と言っても、異世界アイノカルアでも長い間寝たきりだったのだ。

 いつまでも起こさないと怒られるかもしれない。

 心配そうにする愛菜を離し、今度は萌に口付けする


「むにゃむにゃむにゃにゃにゃにゃ……ぬぬぬ……むむむむむ~~~~~~~~~ん」


 なんとも眠り姫とは雰囲気が異なるのだけど、萌は口付けされていることに気付くと、一気に抱き着いてきた。

 彼女は、一凛の反応に類似しているように思う。


「萌、大丈夫? どこか痛むとかないよね?」


「ううん。大丈夫。てか、またダーリンの口付けで起こしてもらっちゃった。うふふふ」


 この状況に至るまで、何が起こったのかは知らないのだけど、萌はとても満足そうにしている。

 それを考えると、この子はとても辛抱強い性格なのだと思う。

 だって、きっと恐ろしい目に遭っているはずなのだ。だけど、それを見せることなく、とても幸せそうにしているのだ。


 ほんと、萌と一緒に居るといつも明るくて楽しいよね。君は僕を幸せな気分にしてくれる天使みたいな存在だね。


「ねえ、与夢~」


 嬉しそうな萌を見て、とても幸せな気分に浸っていると、なにやら恥ずかしそうにしている唯姉が話しかけてきた。


「ん? どうしたの?」


 様子がおかしいと感じて、少しばかり心配するのだけど、彼女は両手の人差し指と親指を交互にくっ付けながら話を続けてきた。


「その口付けで目を覚ましてるってことは、魔力が回復してるんだよね?」


「ああ、そうだよ。僕が彼女達にマナを送り込んでるんだよ」


「やっぱりそうなんだ……」


 彼女は口付けをしている理由を知ると、恥ずかしそうに俯いた。


 まさか……


 彼女のらしからぬ態度を見やり、すぐさま嫌な予感に襲われる。

 ただ、それは唐突にして、素早く、迅速に起こった。


「んんんーーーーーーー!」


 そう、唯姉は回避する暇も与えてくれず、その柔らかい胸を押し付けながら力強く抱きしめてくると、猛烈な勢いで僕の唇を奪ったのだった。

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