09-1《着せ替え人形病》

5月6日 日曜日 12:00


「……ここは?」


ん?…あぁ………僕の部屋…か。

部屋を見渡し、自分の部屋であることを確認する。


「…制服のまま眠ってたのか?…ん、でも……」


確か僕はあの戦闘の後、クレ…くれ…く?…うん?んん??何……だったっっけ?あれ、思い出せない。

確かに戦闘の後、何かがあった気がするんだけど……


「夢…だったのかな……?」


…分からないけど、思い出せないからそんな大事なことではなかった…のかな?

いつまでも頭を抱えているわけにはいかないので、僕はそういうことにしてさっきからブルブルと震えている生徒手帳を手に取り、画面を確認する。


竜華さんからか…何の用だろう?

僕は受話器マークに触れて着信許可にした後、手帳を耳にあてる。


「もしもし?」

『あ、慧君?今日は休みだったけど、今来れるかな?』

「構いませんけれど…何かあったんですか?」

『ちょっとね……実は最近同好会から部に昇格したところがあってね。ここは愛好会の時からちょこっと問題があって……でもそれがその人の仕業ていう証拠が無くてね…生徒会と風紀委員会(わたしたち)でマークしているところだったんだけど…今さっき証人が委員会室に逃げ込んできてね。委員会と協力して捕まえよう……ってなったんだけど、逃げ足が速くて更に隠れるのも上手いときたもんだから。なかなか捕まらなくて少しでも人手がほしいんだ。…来てもらっていいかな?』

「分かりました。行きます」


僕はすぐに答える。


『有り難う。それじゃあ詳しい話は委員会室でするね』

「はい」

『あぁ後それから動きやすい服装で来た方が良いと思うから…』

「分かりました…それじゃあジャージに着替えていきます」

『有り難う。ごめんねせっかくの休みに』

「いえ、気にしないでください。今、せっかくの休みなのにやることなくて外でも走ろうかなって思ってましたから…」


むしろ今は、おもいっきり走りたい。

何でだろう?


『そう。それじゃ、また後で』

「はい、それじゃまた…」


僕は通話を切り、手帳をベッドに置いて立ち上がる。

制服をハンガーにかけてクローゼットの中にある引き出しから学校指定から一切手を加えていないごく普通のジャージを取り出して手首の光牙が引っ掛からないようにそれを着る。

跳ねている髪をスプレータイプの整髪剤で軽く直してからベッドの上の生徒手帳をスボンのポケットに入れて部屋を出る。



「ん?」


…誰かの視線を感じる。

そんなことを思って振り返ると鮫の歯のようなギザギザがプリントされたベレー帽を被り、左右の腕と脚にバンダナを巻いていて口元を同様のバンダナで覆っているなんというかすごく特徴的な奴が立っていた。


怪しい、とてつもなく怪しい。

ここはもしもの時のために設置されている監視カメラから丸見えだから何かされるということはないと思う。

だけれど見なかったことにしてここから立ち去ろう。

そう思ったその時、突き通るような風が吹く。

開いた窓から木の葉が1枚、目の前を舞って僕の視界から彼の姿を消す。


「あれ?…あいつ……どこ行った?」


木の葉が通り過ぎたというのに彼の姿は未だに消えている。

キョロキョロと辺りを見回すが姿はない。


「…気のせい…だったのかな?」


時間もない。

僕はそう呟き、そう思うことにして風紀委員会室に向かう。


「あれが……サキモリ………平和そうな面だ……気に入らない。気に入らない。………あんな奴に…昔、あいつは負けたのか……」


しばらくしてシンとした廊下に低い低い男の声が響いた。

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