第30話 持ち帰り:鮭のオニギリ
「? 何だ?」
アルフレッドは今でも月に1度くらいはメニューを開く。この店は久しぶりにメニューを見ればたまに新メニューを追加している事があるのでそれ目当てである。
彼は前回見た先月まではなかったメニューに気づく。
「持ち帰り:鮭のおにぎり(2個1セット)」
「ほぐした鮭の身をまぶして形を整えたライス」
というものに。
(持ち帰りメニューか……珍しいな。こういうきちんとした店を構えている店ならありうるが……)
王都では飲食店のおよそ半数は屋台でその場で食べきる、あるいは飲みきることを前提とした飲食物を販売しており、持ち帰り料理はまず出されない。
残りの半分であるしっかりとした建物に店を構える所も持ち帰りメニューは常備されていないのが普通だ。
「店主! とりあえずチャーハンをくれ。それに持ち帰り用のシャケのオニギリも頼むわ」
「はいかしこまりました。オニギリは帰る際にお出ししますね」
いつもの料理に追加する形でそれを頼んだ。
メシを食って会計を済ませる時に、それは出てきた。
「お待たせしました。持ち帰りの鮭のおにぎりになりますね」
出てきたのは見たことも無い植物の葉で包まれ、さらに黒い紙状の何かで包まれた三角形のライスらしきもの。
角の黒い何かで覆われていない部分からは赤みがかったピンク色の鮭の身が見える。
「これは
あと黒いのは「
あまり日持ちしないので、遅くても明日の夕方までにお召し上がりください」
「分かった。じゃあな、また来るよ」
こうしてアルフレッドはシャケのオニギリを持ち帰った。
翌朝……アルフレッドが目を覚ますと寝室のテーブルには昨日買ったシャケのオニギリが置いてあった。
(ちょうどいい。朝飯はこれでいいか。確かササとか言ったか? これは
彼は
「おっ」
まず感じるのは冷めたとはいえあの店特有のけた外れに美味いコメ。
さすがに炊き立ての温かい物には及ばないものの、十分に美味い。それがほぐして混ぜ込まれたシャケのうま味と塩気をまとって、美味となる。
さすがに港町で揚がったばかりの新鮮なシャケには劣るものの、その辺の店ではまず出せない十分一流と言える味だ。シャケにしみ込んだかすかな塩気がまた美味い。
しかもそのシャケの身は骨が丁寧に取られていて、小骨の一本たりとも混ざっていない。こういう細かいところで心遣いが出来るのもいい店の証だろう。
朝になり十分腹が減っていたのもあって、バクリバクリと口に入れるとあっという間にオニギリは胃袋の中へと消えていく。
5分もしないうちに2個あったオニギリは両方と食い尽くしてしまう。
(足らねえな。屋台でスープでも頼むか)
騎士の称号を持つとはいえ基本独り暮らしで従者も持たず、まともに自炊もしない彼の日常であった。
はたから見れば独身の一人暮らしをしている平民にしか見えないが、その地域では最も腕の立つ元傭兵であり現在は騎士として王国のために剣をふるう男であった。
【次回予告】
いつも2人で来るお客さん。今日は1人でやってきた。2人の時では食べられないメニューを求めて。
第31話「豚の角煮」
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