病夢とあんぱん その36
「戦場、か・・・。うーん、どうしようかぁ。僕らは、
言葉とは裏腹に、嬉しそうなトーンで語る、
嘘が大好きで、戦いも大好きな男だった。
「お前らだって、話し合いで全てが解決するだなんて期待していたわけじゃないだろう?」
僕は、ちょっと期待していたんだけれど・・・。
「お前らはあいつを取り戻したい。俺らは、あいつが欲しい。それなら、ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと殺し合おうぜ。そっちの方が、
「その考え方、僕は嫌いじゃないねぇ」
と、氷田織さんが応じる。
まったく。最初は交渉するという段取りは、どこへいったんだ?
結局、全然話し合っていないじゃないか。
そもそも死んだら、後腐れがなくなるどころか、何もなくなってしまうんだけれど・・・。
「そんじゃ、俺の相手はお前な」
「・・・は?」
金髪男は、僕を
いやいや。
今の流れは完全に、氷田織さんと金髪男が戦う流れじゃなかったのか?
何故、僕?
「お前、中学校で俺を
「・・・」
そうか。
それならしょうがない。
って、なるわけないだろ。
そんな理由で殺されたら、たまったもんじゃない。
「・・・氷田織さん、どうします?」
「うん?いいんじゃないかい?」
あっけらかんと、氷田織さんは言う。
・・・この人、戦えれば何でもいいのか?
「それなら、あなたの相手は僕ですね」
と、ここで初めて、もう一人のスーツ男が口を開く。
「同じ場所で戦うのも邪魔になるでしょうから、僕たちは裏庭の方に行きましょう。ついてきてください・・・こっちは任せたよ。
「ああ」
と、彼は背中を向けて歩いて行く。
トントン拍子に、話が進んでいく。
なんだ?
ついていけてないのは、僕だけか?
「それじゃ、こちらの金髪のお兄さんの相手は頼んだよ。
「いやいや、そんな簡単に決められても・・・」
僕の反論を聞こうともせずに、氷田織さんはついていく。
「ちょ、氷田織さん・・・」
「おい。お前にお兄さん呼ばわりされるほど、俺は年じゃねぇよ」
と、引き止めようとする僕の言葉を
「俺はまだ十七歳だ。お前絶対、俺より年上だろ」
・・・・・お兄さんどころか、高校生か。
そりゃ・・・まあ、文句も言いたくなるだろう。
っていうか、僕よりも年下じゃないか。
「さてと・・・そんじゃ、やるか」
仕切り直したように、金髪男(疫芽、と言っていたか?)が言う。
「君・・・まだ未成年だったんだね。全然、見えなかったよ。その身長はどういうことだい?」
「ちょっと訳ありでな。なりたくて、こんな高さになったわけじゃねぇよ。まあ・・・『
「・・・さぁ?どうだろうね?」
一応、
もちろん『病』なんて持っていないのだが、それを知られてしまうのは、ここではマズい。
僕が全然戦えない男である、ということがバレてしまうからだ。
「ふーん。じゃあ、どっちでもいいや」
と、どうでもよさそうに欠伸あくびをする、疫芽という男。
『病』を持っていようがいまいが、自分は勝てるという自信だろうか?
「・・・
「おいおい。そういうのは、勝ってから聞くもんだろうがよ」
と、せせら笑う疫芽。
「っていうか、よくもそんな簡単に仲間が死ぬことを考えられるよな。普通、そういうのを考えるのは、
「・・・僕らが、そんなに冷たい人間に見えるのかい?」
「見える」
即答だった。
そして図星だ。
僕らと莉々ちゃんの間には、仲間意識なんてこれっぽっちもない。
あるのは、利害関係だけだ。
『病』を介した、利害関係。
「まあ、それもどうでもいいか。こっちにも、いろいろ事情があるからな。絶対にお前を殺して、あいつはいただく」
「・・・できれば、やめておいてほしいんだけれどね・・・」
ここで、全てを投げ出して逃げる、という選択肢もなくはない。
莉々ちゃんを見捨てて。
氷田織さんを見捨てて。
敵から逃げ出す。
『
が、これは現実的ではないだろう。逃げ出したとしても、後が大変だ。
そうなった場合、逃げ切る
それならば、今は『海沿保育園』を抜けるべきではないのだ。
なんとかここを生き抜き、『海沿保育園』に戻らなければならない。
「・・・そういえば
「あん?誰だ?そいつ」
キョトンとする、疫芽。
なるほど。それならやはり、粒槍伝治と『シンデレラ
安心して良いのかどうか、微妙なところではあるが・・・。
「そろそろお喋りにも飽きたな。いい加減、殺し合おうぜ」
「・・・そうだね。その通りだ」
と、僕は身構える。
いろいろと考えるのは後回しだ。今は目の前のこと。
彼らとの交渉は、最初から決裂していた。
戦うしかない。
最悪、氷田織さんの戦いが終わるまで生き抜けば、後はあの人が何とかしてくれるかもしれないし・・・。
「先制攻撃は、お前に譲ってやるよ。あんた弱そうだし」
「・・・そりゃどうも」
それなら、お言葉に甘えるとしよう。
くるりと身を
僕は、逃げ出した。
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