第6話 定例パレードでの報告1


「……で、これからどうするの。マスター?」

「……いつも通り、媚売りに行くんだよ。売れないとは思うが……な」

「結構いい商品だと思うんだけどなぁ~」

「魔法具とは言いすぎな、気もするけどな」


 誰にも聞こえない脳内会話を繰り返し、俺達はいつもの通りへ足を進めていった。




 サン・カレッド王国のメインストリート。

 そこでは、毎月開催されるパレードが開かれていた。


 特別に創り上げられた山車フロートの上には煌びやかな衣装を身に包んだ女性が一人、絢爛豪華な玉座に座り、群がる民衆に手を振り続けている。


「女王様、サン・カレッドをお守りいただきありがとうございます」

「貴方様のご加護のおかげで、我が家にも新たな命が誕生しました。感謝いたします」

「我らの王に、精霊様の祝福があらんことを……」


 時に歓声を上げて、時に手を合わせて祈りを捧げて、パレードの主役たる女王と呼ばれる彼女に、サン・カレッドの民衆達は感謝を述べる。

 それを微笑ましそうに、見据えながら、女王は今日も手を振り続ける。


 ——女王、アルカナ・レティア。


 それが彼女の名であり、現サン・カレッド王国を統べる存在である。

 娘であるクレアに似た美しい金色の長い髪を白い紐で一つ束ねて、後ろに流しているポニーテールをしている。そして、クレアよりも統率者という言葉が似つかわしいキリリと芯と筋が通った端正な顔立ちは常に愛する民衆の元へと向けられている。

 スラリとしていてもどこか気高く、高潔な彼女が放つオーラはまさに国を守る女神や英雄のようなそれであり、誰しもが彼女を敬っている。


 玉座に座るアルカナのすぐ後ろ、同様の山車フロートに乗り合わせていた女性が二人いた。


 その片翼は目に隈を表出させ、疲れの色を見せる王女クレア・レティア。

そして、その横には母に倣い白い紐で髪を結びあげ、左右両方に流した短めのツインテールの髪形の女性が立っていた。

 クレアとよく似た顔立ちで、やや温和そうな彼女は第二王女、リラ・レティアであった。


「お姉様、大丈夫ですか。お顔が優れないようですが……」


 近くにいるアルカナ女王に聞こえないようにひそひそと姉であるクレアの耳にリラ自身の声を響かせる。


「……あぁ、リラでしたか。今は話してはなりませんよ」


 少し立ちながら眠りに就いていたクレアは誤魔化すようにそう答える。


「……それはそうですが……最近、少しご様子が……変というか……不思議なところがございましたので……」


 リラは心配していた。

 自分に親しくし、自分が敬う姉の普段見ることのない疲れ切った姿を憂慮することはリラにとって当然のことであった。


「……あなたが心配することではありません。私事なので……」


 目を擦りながら、クレアはさらりと受け流す。

 というか……愛する妹に厄介ごとに関わらせたくないのである。


「そうですか。どうか……お体にお気をつけて」


 リラは姉の言葉に従い、黙ることにした。でも、もちろん、心配も拭えないのは変わらない。


 山車フロートが人の群れの中央を堂々とまかり通って行き、透明度の高い水と巧緻に彫られた聖女の彫刻が見事にマッチングした噴水が象徴シンボルとなっている、サン・カレッドでも名の知れた広場で停泊する。

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