第37話  増長の果てに


無敵と思われた鋼鉄の兵士にだって、ものの造りを知れば付け入る隙がある。

こちらの仕掛けが働くのが遅すぎて焦ったけど、ギリギリで間に合ったようだな。

今も仰向けになって横たわる巨体は動くこともできずに、破損した両手からも煙が上がっている。



「空の魔緑石は元の状態にもどろうとして魔力を吸うようになる。それを活用してみた」

「素人である私の見識ですが、そのような使用法は初めて目にしました」

「こいつは魔力を籠めれば再利用できる。つまり強い魔力が側にあれば吸収する代物ってことだ」

「では突然倒れたのも」

「動力となってる石の力を吸い付くしたか、四肢に命令を出す指揮系統を寸断したか、どっちかかな」



ガコン、と物音がした。

まるでドアでも開いたように、胴体部分が開放された。

そこも魔力で制御していたんだろうか。

開かれたきり動きはなかった。



警戒しつつ中を覗くと、若い男が椅子に腰かけていた。

目に怒りと困惑の色を宿した人間。

危うく皆殺しにされかけた、この騒動の張本人。

睨み付けるオレの目に力が籠る。

イリアの方からもギリッと音が上がった。



「こんな事が有り得るはずがない! 私は最強の力を手に入れたんだ!」

「知るかよ、負けた方が弱いんだろうが。調子にのってタラタラ戦ったお前の作戦ミスだよ」

「こんな結末認められるか、下郎め! この世で最も優れ、崇高なる存在に向かって無礼であろうが!」



随分と滑らかに動く口だな。

こいつは言葉だけでケリをつけようとするタイプか?

居るんだよな、口先だけ動かして体を動かさないヤツってさ。

身を危険に晒すことなく戦場で暴れまわるような人間なんて、所詮はこの程度の人間性なんだろうな。



「こいつさえ動けば貴様らなんぞ! 動け、なぜ動かん! 魔力は十分に残っているだろうが!」



半狂乱になって男が足元の大きな石を叩き始める。

叩いて直そうとするのは万国共通だったりするのか?

その石が動力源なのか、魔緑石とは比較にならない程巨大だった。

手のひらサイズの魔緑石とは違って人間の胴体くらいの大きさがある。

もしかして、女神が言ってた『力を吸った石』とはこれの事か?



何はともあれ、幕引きだ。

これ以上コントに付き合う義理もない。



「もう気は済んだよな? じゃあ死ね」

「何だと?! 私は王だ、相応の待遇で迎えろ!」

「あ、そうなんだ。王様なんだねすごーい。じゃあ殺しまーす」

「ま、待て……」

「穿て、炎龍!」



こんな幼くて向こう見ずな王が居るわけ無いだろ。

せいぜい武将が良い所だ。

仮に王だったとしても、こんな危険思想を持ったヤツを生かしておけるか。



怒れる龍が内部を燃やし尽くし、巨大な魔緑石をも破壊した。

パリンっとガラスが割れる音がし、残されていた魔力が解放され、光の筋が天に昇っていった。

その光に連れられるようにして、炎龍も並走していく。

そして空高くまで昇ると盛大に弾けた。



地上には熱線と轟音が降り注ぎ、防御の姿勢を余儀なくされた。

結果的に被害は無かったんだが、さすがに冷や汗が流れたぞ。

向こう見ずな行動は慎まんといかんね。



「タクミ、大丈夫?!」

「お怪我は、お体はご無事ですか!」



レイラとアイリスが駆け寄ってきた。

オレの腹にダイビングしながら。

疲れてんだからやめろ!



オレたち、勝ったんだよなぁ。

こうしていると実感が沸いてくる。

気が抜けて腰を着いて倒れてしまう。

勢いに任せて仰向けになり、空を下から眺めた。

うーん、雲ひとつ無い晴天であるな。



「敵が逃げていくけど、どうするの?」

「ほっとけ、アイツらには何もできん。それに疲れた」



青空を眺めながら答えた。

女神は無事だろうか。

消えてしまうと言っていたが、どうなったんだろう。

お前の力はこの通り返したからな。

だから早くお礼の一つも寄越せよな。

だがここまで考えてふと気づく。



ーーあれ、女神への力の返し方って、これで合ってたのか?


なんか爆発してたし、もしかしてマズイ事した?

喜び手を取り合うみんなとは対照的に、オレの笑顔は固くひきつってしまうのだった。

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