第28話  男性読者必見のお風呂回だよ!※挿絵ナシ

なんという失態!

なんという恥さらし!

禁忌の機鉱兵まで持ち出してこの有り様か!

敵方の桁外れの強さと、味方の不甲斐なさには驚くばかりだ。


あの勇壮だった兵たちはもはや見る影もない。

目は虚ろで口はだらしなく開き、槍を支えにしながら歩いている。

さながら流浪の軍ではないか。

一体だけ残った機鉱兵も左腕がなく、まっすぐ歩くことすら困難だった。

時折進路を修正しないと道から外れてしまうほどに。



押して押されての接戦の果てであればまだ良かった。

勝敗は兵家の常と言い、戦ってみるまでどちらが勝つかはわからないものだ。

だが今回は、ぶつかり合いの前の敗走だ。

もはや言い訳のしようもない。


ーーせめて各隊で連携が取れれば。


いや、それも無駄だろう。

あの真っ赤な顔をしたヒグマのような怪物。

あやつが居る限りは何度挑んでも結果は同じのはずだ。


ーーこうなれば、奥の手を使うしかない。


私は心を鬼にした。

例え誰に罵られようと、悪鬼の如く呼ばれようと構わない。

必ずや魔人どもを根絶やしにしてやる。

せいぜい首を洗って待っていろ。



ーーーーーーー



うーん、体が痒い。

水浴びはしているが、あちこち痒い。

もう少し丁寧にケアしないとマズイんだろうか。



「どうしたの? そんなにボリボリ掻いちゃって」

「いや、なんか首がかゆくて」

「そっか、じゃあキレイにしないとね」

「そうだな」



お湯にでもゆっくり浸かりたいけど、そんな設備はもちろん無い。

そんなもん完備してるのは都の金持ち連中くらいだ。

オレたち貧民は川で洗うのが普通だ。



「ねぇ、少し遠いんだけど……東の方には温泉があるの! ちょっと行ってみない?」

「行かないの」

「そう言うと思ったわ。興味ないの?」

「めんどくさいの」



レイラは聞く前からわかってたと言いつつも、大袈裟にうなだれた。

早くその絶望を友としなさい。


でもひょっとして、アイツならやれるかも。

オレは期待半分の気持ちでイリアを見た。



「広場に風呂を作れ」

「はい、ただ今」

「ゆったり入れるヤツな。足伸ばして寛ぎたい」

「承りました」



え、できんの?

言ってみるもんだな。

コイツはやると言ったらやる女だ。

期待して待つことにしよう。


それからその日の建設の作業を始めた。

天気が良いからか、体中にそこそこの汗をかく。

程良く疲れた頃にイリアはやってきた。



「陛下、ご所望のものが完成いたしました」

「もうできたのか?!」



朝頼んで午後に出来るっておかしいだろ。

突貫工事でももう少しかかるだろうが。

まぁ、その辺はイリアだし……普通か。



早速風呂に向かうと、物珍しさからか皆集まっていた。

特に女性人の喜び様がすごい。

身綺麗にすることはストレス発散になるんだろうか。



「陛下、中を改めなさいますか?」

「じゃあちょっとだけ」

「畏まりました。どうぞこちらへ」



入り口は木造で木の薫りが味わえる。

少し入り組んだ通路を歩くと脱衣所になっており、外から覗かれる心配もない。

脱衣所を出ると、木の板の囲いのなかに岩石が歪な四角形をかたどっており、そこには湯が張られていた。

所々花や苗木も植わっており、目を楽しませる配慮もされている。

クソッ、癪だが完璧な仕事だ。

非の打ち所がない。



「ところで、男湯と女湯はどう分けるんだ?」

「なぜ分ける必要があるのでしょう?」



質問を質問で返された。

まぁいいか、時間帯で振り分ければいい。

早めが男、遅めが女とか。

日替わりで順番変えるとか、やりようはいくらでもある。



「陛下、まずは御身から愉しまれてみては」

「そっか、悪いが一番風呂をもらうか」



他の皆には出て行ってもらって、オレは脱衣所で服を脱ぎ始めた。

うん、皆には出て行ってもらって。

……オゥ出ていけよ。


当然の権利のように四人娘は居残っている。

さらに迷いなく全員が脱ぎ始めた。

アホかお前ら。



「何やってんだ、出ていけよ!」

「一番風呂なんてズルい、私だって入りたいもん」

「タクミ様が湯浴み中に倒れたらと思うと心配で心配で!」

「いやぁー、裸の付き合いが仲を深めるって言うでしょう? これを期に親睦を深めようかなぁーって」

「私は陛下の専属メイドです、片時も離れる訳にはいきません、フフ」



イリア笑うなおっかない。

ほぼ力づくで追い出して、オレはゆっくり風呂に入った。

やっぱり湯はいいな、体の芯から休まるし。



ちなみにオレがのんびりと入浴している間のこと。

結局あの4人はオレがあがるのを待たずに入ってきた。

それから色々あったが、オレは無事に風呂から出る事ができた。



全く、こんな時くらい一人にして欲しいもんだ。

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