第26話  フワッと始まる、第一次アシュレリタ戦役

フワ、フワ、フワリ。


ーーとうとうニンゲンが本腰を入れてきたわよ。今回は前ほど楽に勝てないと思うけど。


女神様直々のクソ有難いモーニングコールだ。

窓からはか細くも、新しい1日の到来を告げる明かりが差し込んでいる。

どうやら早朝の時間帯のようで、他に起きているヤツは一人もいない。


オレは盛大に欠伸をしてから、オレの右手を握りしめているアイリスの手を解き、左手を掴んでいるレイラの手を振りほどき、オレの足を枕にしているシスティアをどかし、腰にタックルするようにしがみ付くイリアを跳ね除けた。


……跳ね除けた。


放せよイリアこの野郎。



ドアを開けると、朝焼けがキレイだった。

あの女神には時間の概念が無いのかよ、寝かせろっつの。

オレは道の端っこまでタラタラ歩き、いつものように返事を書いた。


『本腰って事は、ここに攻めてくんの?』


ーーそう。アンタも聴いたことあんでしょ。機鉱兵っていうらしいけど、それが攻めてくんの。こいつはさすがに手強いわよ。



そうですか、ご忠告どうも。

まぁこれで済ます訳は無いよな。

きっとこの後何らかの提案があるんだろう。

朝食の焼きヘビを賭けてもいい。



ーー力を返してよ。そうしたらニンゲン達に便宜を図ってあげるから。アシュレリタは放棄せざるを得ないだろうけど、殺さないようには出来ると思う。


『この前のアンケートの中身見てなかったのかよ。あれ読んだ後に受けられる提案じゃない』


ーーアンケートって……アンタがそんな面倒くさいことを?! 嘘でしょ?



コイツは何故知らないんだ?

書かれた回答の詳細を知らない事は有りえても、アンケートを取っていた事自体を知らないのはおかしい。

ひょっとして、屋内の様子は見る事ができないとか?

万能のようで力の行使に制約が多いのかもしれない。


考えてみれば、オレは女神についてほとんどの事を知らない。

今どこに居るのかという基本的な情報でさえ。

まずは相手を知ろう。

受けるかどうかはさておき、今後有利な条件での交渉も可能となるだろう。



『お前は今どこに居るんだ。父さんだけにでもコッソリ教えなさい』


ーーだから誰なんだよ。ちょくちょく家族ネタ放るなよ。ふざけるなら話はお終いだからね。



シレッと居場所を聞き出そうとしたが失敗だ。

アホの子のクセに、こういう時にはノリが悪い。

それからもアプローチをしてみたが返事は無かった。

協調性の無い奴め。


それから昼まで何事もなく過ぎていったが、太陽が中天を過ぎた頃に報せは届いた。



「陛下。敵影を確認しました。鋼鉄の兵3体、騎兵10、歩兵300程です」

「わかった。みんなを呼んでこい」

「はい、ただ今」



いつもの表情で報告してきたイリアだが、少しだけ影が差していたようにも感じた。

やはり機鉱兵には思うところがあるんだろう。

笑顔で感情を隠している分凄みが滲(にじ)み出ていた気がする。


ほどなくして、家の前に全員が集められた。

やはりここは指導者らしく演説とかすべきだろうな。

ーーコホン。



「えー、ニンゲンどもが攻めてきた。だから迎撃する。ドーンとやってパパッと散らすぞ。以上」



よし完璧。

微妙に士気が上がったところで、戦えそうな面子だけ引き連れて防壁の裏手まで移動した。

ちなみにこの防壁は人の頭くらいの高さまで積みあがっており、街を半周だけ囲んだところまで建設は終わっていた。

完了しているのは北・東・南の方向であり、今回の敵は東の小高い丘から攻めてくるようだ。

西の方は海があるだけなので、海軍がやって来なければ守る必要は無い。


その東側を見ると確かに物々しい一団が見えた。

2?3人分の高さのある鉄の塊が見えるが、あれが機鉱兵か。

人型で2足歩行だなんてロマンがあるじゃないか。

テンプラ好きの男の子の夢が詰まっているな。



「さぁさぁ、ニンゲンども。この地に攻め入った事を後悔しなさい! 四天王筆頭、魔導将軍レイラ様が相手になるわよ!」

「何言ってんだアイツ?」

「四天王って……他の三人は誰なんでしょうか?」



防壁の上で仁王立ちになったレイラが吠えた。

この距離じゃ敵に聞こえてないだろうに。



「レイラ様、矢面に立たれては危険です。どうぞこちらへ」

「あ、スイマセン」



おいしっかりしろ、四天王筆頭。

はしゃいで叱られた子供みたいじゃねえか。

戦意を下げるような真似は慎めって。


遠くに陣取る敵方からも、なぜか爆笑の声が聞こえてきた。

なんとも気の抜ける戦場だな。

これから殺し合いをする自覚はあるのか?

オレはさっきから気になっていることをリョーガに問いかけた。



「リョーガ、ふと気になったんだが」

「ハイ、なんでしょうか?」

「これから戦闘だってのに、なんでレイラは短いスカートを着てるんだ?」

「スイマセン、私は見ません。変な目で見たりしませんから!」



リョーガ君、オレの意図する答えから大分遠い回答だったぞ。

「レイラには戦闘意欲が無いから」とか、単純に「見られる事が好きな目立ちたがり屋だから」とか、そんな意見が聞きたかったのに。

オレが余計な事言ったばかりに、リョーガの顔の向きが不自然な方向を向いてしまった。

西側に敵は居ないんだって東なんだって。


魔人側も人間側もフワッとした空気の中で衝突したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る