第34話美食家男爵

我輩の事はモルガと呼んで欲しい。

王家より爵位を頂戴する、男爵である。

爵位は低いが、我輩美食家としては少しは名が知れている。


王都に屋敷を持ち、我が屋敷の料理人は王宮料理長にも劣らぬ腕を持つ各地方の料理人を高給にて召し抱えている。

そのため毎日地方各地の料理が堪能できるのだ。出向いて食べるのも良いものだが。


昼食前になりお腹が空いてくる頃、我輩が2階の書斎にて書類仕事をしていると何やらスパイシーな匂いが漂ってきた。

いままでに嗅いだことの無い組み合わせである。

コリアンダーにターメリック、クミンにパクチー、この辺りでは珍しい香辛料。他にも微かにシナモンとクローブの香りも、思わずはしたなくも舌舐めずりしてしまう。

料理人達の新作料理か、執事が昼食の用意が出来たと呼びに来たときには心踊るように階段をかけ降りた。


しかし目の前には先程の香りたつふんだんな

香辛料が使われた料理は最後まで出てはこなかった…。何であったのだろうか。

しかし、次の日も次の日も昼食時にはあの香りが、もしや料理人達がまかないで食べているのではと厨房を覗いたこともあったが、

厨房にはあの香りの正体は無かったのだ。


翌日もまた、窓の外を覗くと空き家であった隣の家の煙突からモクモクと煙が出ている。

直ぐに執事を呼ぶ。なんと数ヶ月前に商人が

買ったと言うではないか、我輩の居ぬ間に

挨拶があったと言うが平民の商人であるため

我輩には特別報告するようなことではないと報告しなかったようだ。しかし、今回は違う

あの香辛料の香りが隣の家から香っているのだ!


我輩は直ぐに支度をし、止める執事を振り切って隣家の戸を叩いた。


ドンドン

「誰か居られるか!」


少しの間があり中から一人の男が出てきたのだ。


「ここの主人は居られるか?」


その男は自分がそうですと返す。

我輩はこの香りの正体がこの家の台所から

であると確信し何を作っておるのかと問いただした。


早口で捲し立てる我輩にどうやら怒っていると思ったのか何度も申し訳ありませんと口にする男。


アルバイと言う商人で料理の研究のために

家に籠っているらしい、我輩は身の上話よりも、この香りが何かしらの料理であることが気になりどうにか食べさせて欲しいと頼み込んだ。


出てきた料理は何とも言えないドロリとした

茶色の何かであった。

焼いた肉の上に茶色のドロリとしたソースが掛かっている。我輩は少し眉をしかめたが

匂いはあの香辛料の香りである。先ずは一口



辛いが旨い!そして肉は鳥と牛を合わせて捏ねているのか!ドラゴン肉を食べた事のある我輩であるが、それにも負けず劣らぬ。

違う種類の肉を混ぜ合わせるのはコーラム地方の手法であろう。しかしコーラムで食べた物よりも洗練されている、

細かく分量を決め捏ねているに違いない

それに繋ぎに何やら入っている。

パンの粉か!なるほど肉の味を邪魔せず

ボロボロと崩れぬようにするうえにパンの粉が肉汁を吸い旨味閉じ込めているのだ。

水では味が薄まるために卵も使用している。


そして何よりもソースであると思っていた

ドロリした物が旨い!今までに食べた事の無い味であるが、肉と一緒に食べても旨いが

パンと食べても、いや何にでも合う!


「旨い!」


我輩がそう言うと、いきなり押し掛け困惑していたアルバイ殿は笑顔で喜んでくれた。


我輩は礼を言い、アルバイ殿の家を後にした。


我輩は直ぐに格が我輩よりも随分上ではあるが仲の良い友人に話をした。

その友人は羨ましそうに、我輩の話を聞く


いつもであれば我輩の話を聞き終わった友人は食べてみたいと散々駄々を捏ねるが

遠い地方であったり隣国であったりと到底行けぬため、諦めてくれるのだが今回は我が屋敷の隣であるため、明日共にアルバイ殿の家に押し掛ける事になってしまった。


翌日の昼になり友人と共にアルバイ殿の家の戸を叩く。


アルバイ殿は連日訪問した上に人数が増えていた事に驚いてはいたが快く招き入れてくれた。大変申し訳無い。


やはり何度食べても旨い!!


この料理名は、かれーはんばーぐと言う。

昨日あまりの驚きの旨さで聞くのを忘れていたのだ不覚。


しかし、アルバイ殿はまだ完成では無いのですとため息をついておられた。

まだ旨くなるのか!!恐ろしい。


今回はお代わりをし、友人も3回お代わりしていた、大満足のようだ。


わが屋敷に帰り料理人達にアルバイ殿の話をした料理人達もあの香りには気付き、気になっていたようだ。


翌日は料理人達を連れて、アルバイ殿を訪ねた。料理人達も目を輝かせかれーはんばーぐに舌鼓みを打ち、配合香辛料とかれーの可能性に心踊らせている。夕食に期待だ。


屋敷に戻って直ぐに1人の料理人が

申し訳無さそうに私に暇を出して欲しいと

願い出た。一番若い料理人である。

いきなりで驚いたが、どうやらアルバイ殿の

手伝いがしたいと言うのだ。

我輩はその申し出を快く受け入れる。

支度金と調理器具等もアルバイ殿の家に運び込む。


至高のかれーはんばーぐが完成した暁には

直ぐに我輩を呼んで欲しいものだ。

まぁ、昼食は毎日アルバイ殿の家に訪ねて行くのだがな。

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