第52話 脇に魅せられた男


「いやぁー、おかげさまで助かります。」


「ははは、困った時はお互い様ですよ!」


爽やかな笑顔でそう答える後藤さんが能力者を連れて戻ってきた。

さて、どのタイミングで声を掛けるか・・・。


「もう行くかな」


「いや、ちょっと待った方がいいよ」


手で制して言うさやかちゃん。

ふむ、ちょっと待つのか。


「どうしてだい?」


「うーん、その後の事を考えた時にさー、車パンクしたまんまだとどうかなと思って」


「ああ、けどもしも咄嗟に逃げられても困るよね」


「まあ、そこは美味くよういっちゃんがガードすればー」


ヒョロガリの私に出来るのだろうか・・・。

流石にここで変身するわけにもいかないし。


「まあ、何とかなるっしょ」


「何とかねぇ・・・」


そうこうしている内に、パンクしたタイヤがスペアに交換された。

タイミングは今かな。


「行こうか」


「うん」


そうして、二人の前に姿を現そうと移動した。



「本当に助かりました」


「いえいえ」


「あの・・・御礼とかは」


「いやいや、大丈夫ですよ」


ありがちな丁寧な挨拶でお互いに言い合う光景。

これだけ見ていれば何気ない助け合いの風景なのだが・・・さてどう登場するかと思った瞬間に


「そうそう!大丈夫よ!!」


効果音があればドーン!!という効果音と共に現われるかの如く二人の目の前に登場するギャル子。

今日は海仕様の為、上げ底じゃないから身長がいつもよりも低い。

まさに小さいギャル子が現われたのだった。


「えっ、誰ですか?」


キョトンとする能力者。

まあ、そうだよな。

後藤さんもどうしていいのかポカーンとしている。


「ふっふっふ・・・あなたが能力者なのはもう調べが付いているのよ!!」


腰に手を置き、指をビシッと指して言うギャル子。

何故、今日はここまで型にはまった物言いをするのか・・・あー、あれか腋毛生やされた恨みか。


だが、一瞬そのセリフで能力者の表情がピクリとした。


「えーっと、お嬢さん?何を言っているかのかな?」


瞬時に表情を変えて、にこやかに言ってくる。

こう見ると普通の好青年のように見えるが。


「へぇー、あくまでも白を切るつもりね~、よういっちゃん!アレ!!」


「へっ?あれ?」


いきなり指を指されて戸惑う私。

アレって何?


「カメラよカメラ!」


「あー、そうだったそうだった」


手に持っていたカメラをとりあえず上げて見せ付ける。

何かノリノリなギャル子のテンションに付いて行けてない。


「おい、それは私のカメラだろ!! 何勝手に持ち出しているんだ!!泥棒だろう!!」


「まあ、確かに良くは無いけども・・・中身は見せてもらったわ!!」


またもや、ビシッと効果音が出るくらいに指を突きつけるギャル子。


だが、そのセリフの瞬間・・・能力者の表情がスーッと能面のように凍りついた表情になってこちらを見てきた。

そして、感情の無いような声で言った。


「見たのか・・・」


「み、見たわよ! あんたでしょ!腋毛を生やす腋毛フェチな能力者は!!」


「ふぅ・・・、そうかぁ・・・見たのか」


そう言って空を仰ぐ。

そして、私に向き直り一言。


「とりあえず、カメラを返してもらおうか」


「断る!やはりお前が能力者なんだな」


「能力者? この魔法の事か・・・」


「やっぱりお前が・・・どうしてこんな事をしたんだ?」


「どうして?それはそこのお嬢ちゃんが言うように腋毛フェチ・・・と言われると心外だが・・・まあ、好きだから愛しているからとでも言えばいい・・・のかな?」


そうニヤニヤと笑顔が織り交ざったような表情で言ってきた。

うん、これは何か危ない人だわ。


そこで後藤さんが私の前に回りこんで来て言った。


「まあ、何にしてもあんたはやりすぎたんだよ。とりあえず観念してもらうぞ」


「観念? ふんっ、何を観念するって言うんだ」


能力者の男が突然手をかざした。


「私の能力は、ただの能力じゃない!自由自在に出来るんだ!!」



その瞬間、後藤さんの脇がカッと光ったと思うと・・・



信じられないような量の毛が脇から伸びてきていた。



「ぐあっ!? ちょ、なんだこれは!?」


いやもう何ていうか気持ち悪すぎる。

足元が毛だらけ、某ネズミの国の映画であった搭の上のラプンなんとかは髪の毛がとんでもない量なのだが、こっちは脇から異様な量の毛が生えてきている。


ある程度で伸びたら止まったようだが、これは・・・ある意味凄い。


そして何よりキモイ。


「ふふっ、あははははははは!!! どうだ、私の魔法は!!」


「ええぇ・・・どうって言われても」


正直、これはこれでドン引きだ。

反応に困る。

凄いと言えば凄いけども。


「ふん、まあ、特に男にこんなことするは私の矜持に反するし美しくも無い。だがな、こういう風に私はいくらでも調節し能力を使うことが可能なんだよ! さあ、動けばこの男のようになるぞ!! 大人しくカメラを返せ!!」


そう言った瞬間に顔を真っ青にしたさやかちゃんが私の後ろにサッと隠れた。

あらら、さっきまでの勢いは何だったのか。

まあ、女性がこんな事されたら堪らないだろうが・・・。


それにしても、実際問題これは難しいな。


相手の能力をちょっと舐めてたわ。

あれは確かに身動きが取れない。


さて、どうしたものか・・・変身して銃で撃つか?

距離は近いから取り押さえるだけでも大丈夫か?

だが、この人も多い場所で銃で撃ち殺すのも問題だ・・・何とか無力化出来ないか。


あーあ、こんな時にこっちも遠距離の魔法が打てれば・・・それこそさやかちゃんが前に着た雷魔法の制服なんかで無力化出来れば・・・。


あっ、そうだ。


そこで閃いた私。


ちょうど後ろにはさやかちゃんがいる。

そして、私の空間収納の能力で手のひらに呼び出す・・・


そう!! 今こそこれの出番だ!!




******


K県立商業高等学校 女子 スクール水着


能力

筋力:+3000

体力:+3000

耐性:+4000

敏捷:+2500(水中時+3500)

魔力:+2000

魔耐:+1000

技能:水中呼吸、水中高速移動、水魔法


******


手のひらに現われるスク水。

俗に言う新スクだ。

個人的には旧スクが好きだ。

あの水抜き穴があるのと、あの形状が好きだったりする。


どうせならば、使用経験のある雷魔法のついた制服でも良かったのだが・・・今しかチャンスは無い!!行け!!という悪魔のささやきが私の中にあったりした。


そう、計算高い私だったりする。


そして、後ろに居るさやかちゃんに小声で伝える。


「さやかちゃん・・・これをっ!!」


「へっ?・・・え・・・ちょ・・・」


「これの水魔法で制圧すればいい。だからっ!!早くっ!!」


我ながら小声で迫真の演技である。

これならばいけるはず!!



「う、うん!!分った!! 急いでくるから、よういっちゃんも気をつけてねっ!!」


「ああ、大丈夫だっ! 任せてくれ!!」


うん、決まった。

あれだけ色んな人にドン引きされたスク水がこうもあっさりと・・・。


なんだかオラわくわくしてきたゾっと・・・さて、後は問題のこっちをどうするか・・・。


とりあえず、話を引き伸ばすか。


「ふっ、女の子を逃がすか・・・紳士だねぇ~」


「まあな、流石に女の子をそこまで腋毛だらけにするわけにはいかないしな」


「それは同意だ。そういえば思い出したがさっきの女の子は私が能力を使った子だったな。

 あの子も中々良かった・・・」


あれ?何か勝手にしゃべりだしたぞ。


「あのギャルな感じなのに腋毛がちょろっと生えているあれは素晴らしかった」


ふむ、そういえばギャルにスク水なるんだよなぁ・・・。


「私が通常使うのは、相手の本来の生え具合を再現するように魔法を発動しているんだよ」


う~ん、ギャルでスク水だとやっぱり安い風俗感だよなぁ・・・。


「だから、彼女はあれが本来の腋毛となる。ちょろっと程度・・・まあ、個人的にはもうちょっと生えているのが好みだが」


まあ、幼さが多少あるからそのギャルで子供なのにスク水!というギャップもいいかもしれない。


「だからこそ、本人も見覚えがあって余計に恥ずかしがる。この反応がまた良いと思うんだ」


あー、でもやっぱ、メイク無しのすっぴんさやかちゃんに来て欲しかったなぁ。


「そういう女性が気遣うポイント。無いべきところに有るというギャップにエロスを感じるんだ。」


あの状態のさやかちゃんなら正直犯罪だな。あー、一緒に学生時代を謳歌したかった。

学生に戻りたい・・・。


「だから、私はこれがやめられない。そう君達が止めようとしても私は止まらないのだよ!!」


そういえば、さやかちゃんの本当の学生服姿も見たいなぁ・・・。

前に聞きそびれたけど、どこの学校なんだろう?


「さあ、君達に私のこの思い理解出来たかな?」


あー、その制服も鑑定してみたいなぁ。

まあ、普段ギャル子だし意外と校則緩いところなのかな?

それとも逆に厳しいから、普段はすっごい普通なのかな?


「聞いているのか!!!?」


「えっ? あ、ごめん。 聞いてなかった」


「何だ・・・こいつは。

 ふぅ・・・まあ、いい。とりあえずカメラを返してもらおうか」


「いや、悪いがここであんたには終わってもらう」


「あはは、終わり? むしろ、そっちが終わりだろう・・・」


そうして、能力者は私に向けて手をかざした。

はぁ、腋毛ボーボーにされるのか。



だけども、間に合ったようだね。

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