第17話 約束の消滅


 大学に入って、2年目の夏休みを迎えた。


 一年の夏は忙しくて帰ることが出来ず。正月は帰ってきたが親戚との挨拶やら家族との初詣やらで忙しく。そして春休みは海外研修で戻って来られず。これらの理由により、僕はグリ活メンバーに会うことはできなかった。だが、それも今日で終わり。やっとのことで、長い休みを取り、地元に戻り、部活メンバーで集まることができた。


戸塚とつかくん、久しぶり!」


 まず初めに会ったのは冴島さえじまさんだった。僕は一眼彼女を見るなり、ドキリとする。元々綺麗な顔立ちだったけれど、化粧をしているからなのか、より一層美しくなっていた。ミディアムくらいだった漆黒の髪も、今は背中いっぱいに広がっている。


 こんな美女、高島じゃなくても心を射抜かれる……!


 幸い、部活仲間というスタンスのおかげで僕は大丈夫だったが、たとえばこれが大学で初めて出会った人とかだったら、正直どうなっていたかわからない。そのくらい、冴島さんは変わっていた。女の子って、なんかすごい。



「冴島さん、久しぶり。髪、伸びたね」

 出来るだけ自然に話を振ってみた。緊張して少し声が上ずる。

「うん、伸ばしてるの」

「あれ、でも高校のときはあんまり長すぎても邪魔だって言ってたよね?」

 普通に話していたつもりだったのだが、なぜかそこで冴島さんの様子が変わった。その先を言うか言わぬか迷っている、みたいな。でも、すぐに彼女は口を開いた。


「……和也かずやくんが、ロングの方が似合うって言ってたから」


 え。ちょっと待て。冴島さん、頬染めてる。え。ナニコレ。ナニコレ!? まさか、いやまさかね。ないない。それだけはさすがにない。……とは思ったが、念のため僕は聞いてみた。というか好奇心で半ば無意識に聞いていた。

「あの……も、もしかしてだけど、冴島さんと高島って、付き合っ……」

「ち、違う違う! これは、その……私の一方的な思いであって……向こうは何とも思ってないだろうし……」

 和也くんには言わないでね、と冴島さんが口元に指を当てて内緒ポーズをしてきた。うわ、顔近づけるのやめてくれ。そりゃ反則だ。


 にしても。

 高島、よかったな。






 数分後、高島も来て、僕ら3人は行きつけのファミレスに向かった。結局、ここが一番落ち着くのだ。

「戸塚くんは卒業式ぶりだね」

「高島たちは、そのあと会ったりしてたの?」

 すると、高島が頭をポリポリと掻きながら「まあな」と笑った。うわぁ、すげぇ初々しい。恋愛経験ゼロの僕が言えたことではないけど。

「もう卒業してから2年も経ったのか。……俺、グリ活、つばさに誘ってもらえて本当良かったなって、今更ながら思うよ」

「私も! 戸塚くんがいたから勇気出せた」

「な、なんだよ、今更。ていうか、僕にお礼言うなら、もっと言うべき人がいるだろ?」


 そこで異変が起きた。

 2人が首を傾げたのだ。


「言うべき人?」

「あ、アレか? 佐上さがみセンセのことか?」


「え、あ、まあ先生もそうだけど……」


 そうじゃなくて。


「誰だよ? 後輩か? まあ後輩いなかったら俺たち部活できなかったからな。人数不足で」

「うん! 感謝しなきゃだよね!」


 違う。後輩じゃない、その逆だ。僕らには、もっと大切な人が…………。


 いた?




「そうそう! 後輩たちにもちゃんと感謝しろよ。僕、グリーン活動部部長からの命令です」


「こういうときだけ部長ヅラすんじゃねぇっつーの!」

「和也くんのその台詞、なんかデジャヴ……」


 その後も、僕らの会話は続いた。あのときの高島はダサかったとか、翼は意外とボケが上手いとか、冴島さんは綺麗になったとか……昔話から近況まで、全部。



 楽しくて笑い合っていた、その視界の外れで。




 暗闇の中、ひとりぼっちの松の木が小さく揺れているのが、ぼんやりと見えたのだった。








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