美果.3
あれから隼颯君とはよく会うようになった。
私が体調を崩した時には、隼颯君がわざわざ病室まで来てくれた。
隼颯君は学校であった事をよく話してくれる。
学校に行けてない私にはすごく新鮮だった。
隼颯君と話すと、私の知らない世界を知ることが出来てすごく楽しかった。
隼颯君との時間が楽しすぎて、一人で過ごす時が、寂しくなった。
多分隼颯君はモテると思う、かっこよくて、優しいから。
今日もいつもと同じ時間に隼颯君は来てくれた。
今度、友達と遠出するらしい。
美味しいお店を見つけたとか、そこにしかない有名スポットとかを教えてくれた。
遠出なんて私は一度もしたことない。
「いいな。私も行ってみたいな」
声に出ていた。
そんなの無理だと分かっているのに。
「じゃあ今度美果が退院したらどこか行こうよ。近場でも楽しい所をあるよ」
近場なら行けるかもしれない。
自然と涙が出てきた。
隼颯君の前では泣かないって決めてたのに。
隼颯君も私が急に泣くから戸惑っている。
「ごめんね」
「僕は全然いいけど、行きたくないなら僕はそれでいいよ。話せてるだけで嬉しいから」
「そうじゃないよ。二人で今度どっか行こう」
誘ってくれたのが嬉しかった。
隼颯君と二人で出かける日が来るといいな。
私が隼颯君に出会う前は、よく病室で花の絵を描いていた。
小さい頃から描いていたから、看護師さんからは、上手いねと言って貰える事もよくある。
どうしていつも花の絵を描いているのと聞かれる事がある。
7歳の誕生日に両親から花の辞典を貰った。
知ってる花も載っていたけど、知らない花の方が多くて、見るのが楽しかった。
その辞典には、その花の花言葉も載っている。
7歳の頃の私は、花言葉があったなんて知らなかった。
最近は絵を全然描いてないから、久しぶりに描こうかな。
引き出しからスケッチブックと色鉛筆を出す。
パラパラっと辞典をめくって、目に付いた百合の花を描くことにした。
やっぱり絵を描くのは楽しいな。
絵を描いている時は無心になれる。
嫌な事を忘れて、自分の世界にずっと居られるから。
半分ぐらい描き終わった時に、ドアをノックする音がした。
「こんにちは」
入って来たのは隼颯君だった。
「絵描いてるの?」
「うん、病室にいる時に出来るからね」
「そっか。絵上手いね。今までに描いたやつも見せてよ」
「そんなに上手くないよ」
看護師さんたちに上手いって言われるけど、自分では上手いと思った事は一度もないから、人に見せるのはなんか抵抗がある。
「いいから見せてよ」
「そんなに上手くないけど」
私はスケッチブックを渡した。
「すごい。今度僕にもなんか花の絵を書いてよ」
「私いいなら」
「なら約束ね。楽しみにしてる」
どんな花を描こうかな。
人に絵をプレゼントするのは初めてだ。
今思えばら家族にも、さっちゃんにも渡した事がない気がする。
隼颯君にぴったりな花はなんだろう。
私の日常に光をくれたから向日葵とか。
後は何があるかな。
喜んで貰えるように描く練習をしなきゃ。
はやく描かなくては。
小さい頃は、喘息が他の人に比べると症状が重くてよく入院した。
中学三年生の時だった。
絵を描いている時、時々手が痺れるようになった。
最初は特に気にしていなかったが、手の痺れが頻繁におこる様になり、先生に相談した。
結果はALS(
段々手足に力が入らなくなり、最後には呼吸ができなくなって死ぬらしい。
私は幸運な事に症状の進行が遅かった。
今は治療方も進歩しているらしいけど、家族の悲しむ顔や負担をかけるのが嫌だった。
私は治療をせずに死を受け入れることにした。
最近、手足に力が入らなくなってきたし、呼吸もしづらい。
もうすぐ死ぬのかなって思う。
両親やさっちゃんを残して死ぬのも嫌だけど、隼颯君に出会ってしまった。
もっと色んな話をしたかったし、一緒にどっかに行ってみたかった。
結局、隼颯君には詳しい事を話してない。
隼颯君も、気を使ってくれたのか、どんな病気なのかは聞いてこなかった。
これから、症状はどんどん進行していく。
こんな姿を見られたくないから、私は家族以外の面会を拒否した。
隼颯君とも、花の絵を描く約束をした日から、一度も会うことはなかった。
私の小さいセカイで、貴方に会えたと事は、今まで好きじゃなかった神様に、感謝をしないとね。
目が覚めた。
時計を見ると、日付が変わろうとしていた。
普段ならこんな時間には目は覚めないのに。
さっきまで夢を見ていた。
家族とさっちゃん、そして隼颯君と笑い合っている私。
これからもこんな風に笑い合っていたいな。
まだ、隼颯君と二人で出かけてないのに。
すごく楽しみだったのに。
私の頬を涙が伝った。
眠くなってきた。
私は目を閉じて、
ねむった。
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