第4話

明くる朝。


大広間に行くと、戸崎さんと賀代が談笑していた。


旧知の間柄といった雰囲気に見えた。


アクが強い、旅人のリーダー的存在の戸崎さんと、旅人の世界とは縁がなさそうな賀代がなぜ親しげに談笑しているのか、それは少し不自然に思えたが、戸崎さんと賀代が親しいならむしろ好都合じゃないかと脳天気な僕はどこまでも前向きだった。


戸崎さんは頼れる男である。

もう40も半ばを過ぎているのに、夢を追いかける若者のように光を放っている。

僕はそんな戸崎さんに憧れていた。


「おはようございます。ちょっと早いんですけどもう帰りますね。」


「え~、もう帰るのかよォ」


「せっかく小樽まで来たんで、少し海を眺めてから帰りたいと思いまして・・・」


「相変わらずカッコつけてんな、シンちゃんは。まあ、いいよ。気をつけてな。」


「それじゃあ、また札幌か美深で。」


賀代も「またな!」と小さく手を振った。


ランドローバーのキーをひねる。


口笛を吹きながらクルマを走らせる。

他の人に見られたら気味悪がられるぐらいにニヤけながら。


賀代との温泉の約束が、いい加減なものではなかったからだ。


「気が向いたら行く」とか「都合がついたら行く」ならばニヤけたりはしない。


「来週の日曜日の午後1時に、ほらっ!このバス停なっ!ウチ、ここで待ってるから迎えに来てな!」

きのうの晩、地図を指差しながら賀代がそう言ったのだ。


久しぶりに感じた胸騒ぎを抑えながら海を眺めていた。

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