miseria puer

うるち

第1話 転機



これは、怪人と人間のお話。


これは、僕のお話。


これは、絶望のお話。



【久しぶりだね】


キラキラした街、蒸し暑い、真夏の夜の東京。


東京タワーの真下で、黒い影が2つ


1つの影が、もう一方の影に近づく。


「よお、久しぶりだな。元気にしてたか?お地蔵さん」


黒い燕尾服を来た男が、白い軍服を着た眼帯の男に近づき、話しかける。


「…」


眼帯の男は、何の反応も見せない。


燕尾服の男はつまらなさそうな顔をする。


「お前はいつも黙ってばかりだな。少しは喋ろうぜ?なんのために口がついてんだ?」


「…今のお前に私が話すことなど何一つない」


「は?」


燕尾服の男は眉間にシワを寄せる。


「喧嘩売ってんのか?てめぇ?」


「喧嘩を売っているのは、お前の方だと思うが」


燕尾服の男は黒い剣を、白い軍服の男は白い刀をお互いに突きつけた。


そんな殺気立ったところに、


コツコツ、コツコツ


と足音が聞こえる。


「やあ、久しぶりだね」


白髪の黒いスーツを着た男が2人の前に現れる。


男は2人にニコッと笑った


「2人で喧嘩は良くないな」


男はゆっくりと、右腕を天に挙げる


「僕も、混ぜてくれよ」


そう言った瞬間、天から数多の剣が2人を目掛けて降り注いできた。




【おはよう、絶望】



古びたアパートで、独り寂しく少年が、眠っている。


両端のくせっ毛が特徴的な黒髪少年。


その寝顔は彼が童顔なのかとても愛らしい。


彼は夢の中で呟く。





すやすや、すやすや、


1人の空間はいい、睡眠はいい、


現実から、逃げられる。


なにも、怖がらなくていい


何事にも、怒らなくていい


でも、眠りはいつか覚めてしまう。


現実から目を背けられるのは永遠じゃない。


起きたくない、目覚めたくないけどー



あ。



おはよう、絶望。






✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱



僕は、うるさい目覚ましの音で目が覚めた。


でも、まだ眠たかった。


だけど僕はベッドから起き上がり、目覚まし時計の音を止める。


時計を見ると、もう時計の針は9時を回っていた。


「あ……遅刻」


「なんだ、遅刻……か、寝よ…」


僕は再びベッドに身を委ねたが、もう1度起き上がり、再度、時計を確認した。


「…………遅刻!?!?」


僕は焦る。


急いで制服に着替え、顔を洗い、コップ1杯の水を飲み、鞄を持って勢いよく玄関のドアを開け、家を出た。



やばいやばいやばいやばい


遅刻何回目だ!?


今日で4連続の遅刻だ!


まずい!まずいぞ!



僕は運動不足の遅い足で電車へ乗るために精一杯走る。


とにかく走って走って走りまくる。


しかし、足を止めた





あ。



もう遅刻してるんだから急ぐ必要ないじゃないか。



馬鹿だなぁ……


何を急いでたんだか……



✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱

✱✱


【なんですか?】



僕はいつものペースでゆっくりと歩く。


このペースだと、2時間目には普通に間に合うから大丈夫だ。


ホッとしたその時、道の右角から突然人が現れ、その人に頭からぶつかる。



「いって!」


「……」



二人は顔を合わせる。


ぶつかった相手は、ボサボサ頭の茶髪でとても高身長、180cmはありそうな悔しいが美少年って感じだ。モデルでもやってそうな顔立ち。


少年は僕と同じ高校の制服を着ている



「あ、ごめんなさい…」


「……」



綺麗な顔をした少年は僕を見つめたまま無言でぼーっと立ち尽くしていた。


なんでぼーっとつっ立ってるんだ?


僕は少年を避けて電車への道へと歩き出す。



「なぁ」



僕が歩いていると急に後ろから声をかけられた。



「なんですか?」



僕は引きつった笑顔で後ろを振り返る。


なんだよ、ぶつかっただけじゃないか、まだ何かあるのか?ちゃんとぶつかった時には謝ったぞ。



「君の名前を、教えてくれ」



少年は僕にゆっくりと近づき僕の両手をとる。


なんだか少年はまるで天使を見ているかのようなキラキラとした目で僕を見る。


その視線は、なんだか寒気がした。



「か、神崎、神崎 ミコトです」



少年のあまりの気持ち悪さで声が震える。



「そ、そうか、ミコトちゃんか……」



ちゃん……?



「いい、名前だな……」



女みたいな名前でいいとは思わないけど…



「俺の名前は、周 骸 (あまね むくろ)っていうんだ」


骸って凄いDQNネームだ。


……僕が言えることじゃないけど…



「う、うん?」


「ミコトちゃん、俺と……俺と……俺と」



周は下を向き顔を赤らめる。


そして、少年は勇気を振り絞り……



「俺と付き合ってください!」



……は?



「えっと……ごめんなさい!君がつい可愛くて…一目惚れ、しました……はい…えっと、もし彼氏とかいたらごめんなさい…ぐふふ……その、無礼は承知の上で……えへへ」



何こいつ!キモ!



少年はデレデレとニヤつきながら顔を赤らめ下を向いて話す。



どうやら僕の童顔のせいで周は僕のことを女だと勘違いしているようだ。



「あの」


「ん?」


「僕、男です」



ついに周に言ってやった。


少年の表情が一瞬固まるが、また表情が緩くなる。


「んふふ、やだなぁミコトちゃん、嘘が下手だよ……デュフフ……今日はエイプリルフールじゃ……ないよ?んほぉ……」



「きっもちわっ…………じゃなかった!

ちゃんと見てくださいよ!

ほら!

僕男子制服着てるでしょう!?

それに声だって完全に男じゃないですか!

見た目でだけで判断するのはやめてください!」



僕は怒りながら周に思いっきり言い放った。


僕はこの童顔のせいで女に間違えられることがよくある。


僕にとって自分が女に間違われることは、1番の侮辱であり、怒りを覚えることだ。


僕は言い放った後、周の前から走って逃げた。


しかし、周は僕の右腕をがっしりと強く掴んだ。



「なにするんですか!」


「男装なら誰でも出来る、それに、声はただのハスキーボイスだろ?かわいい奴だ!」



周は目を輝かせながらゲッツポーズをする。


うざい、流石にうざい。


日本語通じなすぎて、うざい。


僕は周から逃げるように電車への道を走るが、周はしつこく僕に付きまとう。



「なーあ〜」



うっざい



「俺と付き合ってよー」



キモイ離れろ



「多分ミコトちゃんイケメンパラダイス的な事情で男装してるんだよね、うん。わかるよ俺。なんでも分かってるんだよね、超能力者だから」



僕が男という事実を分かってない以上お前はなんにも分かってないよ。



「ミコトちゃん?ねぇなんで逃げるの?俺まだ返事聞いてないよ?」


「ミコトちゃ……」



僕は左側にあったドブへ周が僕に背を向けた瞬間、

周の背中を両手で押してドブへと突き落とした。



「うおああああっ」



周はバカでかい声をあげてドブへ無様に落ちていった。



「おい!このくそ女!いきなりなにしやがる!くっさ!オエッ!」



周が僕の方へ向いて罵声を浴びせてくる。


僕は周へ冷たい視線を送る。


「男の僕に気持ち悪いナンパを朝からしてきた。僕が男だと言ってもどれだけ逃げてもアンタはしつこく追ってきた。

仕方ないから突き落とした。アンタの自業自得だ」


そして僕は周の顔めがけてそこら辺に転がっていた空き缶を思いっきり放り投げた。


空き缶は周の顔面にヒットし、周は怒りの表情を見せる。



「ざっけんなー!こんのクソビッチー!いつか復讐してやるぞボケー!バーカバーカ!オエッ!」



だから僕は女じゃないっつーの……



✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱


【苦痛の日常】


高校に着いた。


職員室へ遅刻届けを出した後、教室向かう。


教室への足取りが重い。


教室に着いた僕は教室のドアをゆっくりと、恐る恐る開いた。


ガヤガヤとした教室、不快な笑い声が飛び交う空間。気持ち悪い。


女子の陰口大会の盛り上がりよう……


僕は、気持ちの悪い教室へ右足を運ぼうとする。


両足がガタガタする。


教室は嫌いだ。


こわい。


今日は何をされるのか。


こわい。


こわい。


こわい。


こわい


こわー…



ガンッ



いきなり僕の頭を襲ってきた鈍痛。


これは、なんだ……?後ろを振り返ると教室のイスを持った不良生徒がいた。


その不良生徒はイスで僕の左足を叩きつける。



「ああああああああああああああああああ」



あまりの痛さに僕は泣き叫ぶ。


骨に強く響く痛み。


いたい。


いたい。


いたい。


いたい。



「痛えかぁ!?痛えよなぁ!?」



「かわいそうだねぇ~でもお前が悪いんだよ。約束の時間に金持ってこなかったから」


「これは、罰だからな」



僕の元へ大勢の不良生徒が集まってきた。


ケラケラと笑う周りの不良生徒たちは僕を下から見下げ、



僕を殴る不良生徒はドンッドンッドンッと


間髪なく僕の両足をイスで叩きつける



教室の中にいた生徒は僕の叫び声に気づき、教室を出て暴力を振るわれている僕の方へ駆け寄る。



「あいつ、またボコられてるな」


「いいんじゃない、疫病神の神崎だし」


「別に疫病神がボコられてようと私たちには関係ないしね」


「いいぞ!そのままぶっ殺しちまえ!」



誰もこの状況を止めようとしない。


僕がズタボロにされる様をじっと観ている。


ある者はその様を面白んで


ある者は退屈しのぎにその様をずっと観ている


なんで僕なんだ。


なんで僕が……こんな目に合わなくちゃいけないんだ。




僕が殴られる様を観ている不良の1人が僕を殴る不良に話しかける。



「なぁ!尾崎!イスじゃ全然痛くねぇよ」


「これ使えよ尾崎」



1人の不良生徒が金属バットを不良生徒に渡す。



「おお!いいじゃねぇか!隆二!」


「だろ?それでぶっ殺せ」



金属バットを渡された不良は僕の顔をみて、自分の顔をニヤつかせる。



まずい!あんなのが当たったら……


死ぬかもしれない……!




僕は左足を引きずりながら逃げようとするが不良に背中を踏みつけられ動きを封じられた。



「何逃げようとしてんだよ、疫病神」


不良は僕の頭目掛けてバットを振り下ろす。



ああ、こわい。


こわい。


助けて……


誰か……


誰か……!助けて……!










「何やってんだお前ら」



どこからか、聞き覚えのある声が聞こえた。

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