紫光狼・アーデルベルト




 やばいヤバイヤバイヤバイ!

 とりあえず身体は動かさずに、アイテム欄から''赤のポーション''とMPを5%回復する初心者用MPポーション10個全部を緊急使用。


 その瞬間、狼が咆哮し飛び掛ってくる。

 狼は間にあった岩を軽々と越え、前足をこっちに向けてくる。


 転ぶように前足から大きく避けると、さっきまでいた場所にクレーターが出来ていた。

 迸ほとばしる電がクレーターを縦横無尽に駆け巡り消えていく。


 威力もさることながら問題なのはその速さだろう、今までのエネミーとは文字通り格が違う。これは今まで以上に頑張らないとな。


 全身に魔力付与15を掛け気持ち身軽にする。

 狼はまたもこっちに飛び掛ってき、これも大きく転んで回避する。

 そのまま剣を持って切りかかろうとしてまた大きく横に跳ぶ。瞬間元いた場所に光線が通り過ぎた。


 冷や汗が止まらないが……敵は待ってくれない。


 そして放電してる光の玉が狼の周りに幾つも浮かび雨のように降り注ぐ。

 あいだを縫って避ける中、狼が向かってくる。


 飛び掛ってくる狼を回避すると目の前には光の玉が――


 【条件を満たしました】

 【スキル 魔法切りを取得しました】


 ギリギリで光の玉を切りつけ体制を立て直した。

 向かってくる光の玉には線が見える、おそらくそこを切ればいいんだろう。


 狼が吠えると辺りに紫電がはしる。……これはまずい。

 その瞬間、狼は雷のような速さで走ってくる。


 巨大な槌のような前足が眼前に迫った。

 考えるより先に身体が動いた。巨大な足の指先に合わせるように剣を振る。剣は折れたが、反動により身体は吹き飛ぶように前足から離れる。


 吹き飛びながら折れた剣を狼に目掛けて投げる。


 ――グゥォーーン!


 狼の左目に剣が刺さるのを見ながら空中で一回転して地面に着地した。


 狼が仰け反っている間に魔法の魔力玉MP2を10個作り、半分を狼に向けて放ちもう半分を周りに浮かせておく。


 狼の左目から血が流れているが、HPは合計0.5割ほど減った程度だった。

 厳しくなってきたな。剣は無くなり、狼は激怒してこっちに狙いを定めている。

 電がドームのように激怒した狼を徘徊し、近づくことも難しくなった。


 狼が凄まじいスピードでこっちに向かってくると、その巨体が急に横回転して尻尾がとてつもない勢いで振るわれた。


 しゃがんでやり過ごすとすぐにその場から待避する。横目で見ると尻尾の通った場所全てに雷が落ち、地面にクレーターが出来ていた。


 狼の周りに発せられる電から逃げるように狼から距離を取る。

 そしてまた雨のように降る光の玉を避けながら突破策を考える。途中やってくる光線は跳んで回避し、しゃがんだまま回るように光の玉から避ける。

 避けきれない時は浮んでいる魔力玉をぶつけて一瞬均衡している間に避ける。



 攻撃方法が少なすぎる。剣は無くなってしまったし、そもそも近づくことが容易じゃない。魔法……といってもMP的に削り切ることは出来ないだろう。


 「チッ」


 飛び掛ってきた狼の右足から転んで逃げると、狼は右足を軸に回転し強烈な体当たりをカマしてきた。


 軸にしてる右足目掛けて走り、暫くしたあとで後ろから轟音が響き渡る。……もうほんとどうにかしてくれ。

 その場に留まると狼の周りにある電にやられるから走り続けないといけない。走って距離を取ると光の玉と一緒に狼もやってくる。


 魔力付与が切れたからすかさず魔力付与MP15をする。これで残りMPは10くらいだ、初心者用ポーションをもう10っ個緊急使用する。残りあと10個。


 兎にも角にも攻撃が出来ないと意味がない。魔法はジリ貧だし素手で殴るなんて持ってのほかだ、魔法で剣が作れたらいいんだけど。……やってみるか。


 狼の攻撃を避け、周りの電も避け、光線も避け、光の玉も避けながら、頑張ってメニューの魔法製作を開きボタンを押す。

 魔法作成には声を出さないといけない。キツいけどやるしかない。


 「魔法名、魔法剣。効果、魔法の剣を、作る」


 【効果が曖昧です】


 聞こえてくるシステムの声は製作失敗の知らせだ。


 「魔法名、魔法剣。効果、地水火風で剣を作る、属性は、任意……で決めれる、MPの消費量により威力...が変わる、効果時間は10分!」


 【その魔法は存在しています】


 くっそ!

 考えながら避け続けるの大変なのに!

 しゃぁない、やるしかない。


 「魔法名、剣作成。効果、剣を作成する、MP消費量により威力が変わる、効果時間10分」


 【その魔法は存在しています】


 失敗。


 「魔法名、剣創造、効果、剣を創造する、剣の、強さや内容により...MPの消費量が変わる」


 【その魔法は存在しています】


 失敗。


 「魔法め、い! 魔力剣。効果、MPを固め剣として活用する」


 【効果が曖昧です】


 失敗。いや、既存の内容じゃなかったらいいのなら。

 光線を少し体をずらして避ける。そのままターンするように光の玉を躱し、狼の飛び掛かりを跳んで回避する。そのまま手を地面に当てて前転、光の玉が背中を通るのを確認しないまま走る。

 ……動きが洗練されていくのを感じる。


 「魔法名、魔力剣。効果、MPを固め剣として活用する。工程として魔力玉を使い剣の形に伸ばす。そこから魔力玉を複数使いMP量を増やすことによって強化される。大きさや剣としての形状を変化させることが可能。その場合、魔力剣の威力は固めたMP量と剣の大きさにより決められる。剣の面積が大きいほ…どMPは薄く威力が下がり、面積が少ないほどMPが圧縮され威力が上がる、魔法……を!切った時に、その魔法のMPから1割を魔力剣に取り込み強化される。衝撃によりMPが霧散していき剣の形を維持出来なくなると破壊される、霧散するMPは衝撃の強さと魔力剣の威力により決定される」


 ハァ、ハァ……言い切った。

 これでどうだ!


 【確認しました。消費MPと威力を設定してください】


 よっしゃ! キタっ!

 嬉しいが動きは鈍らないように注意する。一つのミスが命取りだ。


 「消費MPは10固定。魔力玉による強化は魔法の魔力玉に依存している」


 【確認しました。威力を設定してください】


 よし!


 「威力は10から強化の度に上がり上限は無し。魔法[魔力玉]のように13にならないのは、剣の面積によるものである」


 【確認しました。

  必要SPは55です、製作しますか Yes/no】


 迷わずYesを選択。

 飛び掛ってくる狼は跳んで避ける。


 「魔力剣」


 右手に青白い塊が浮かび、次第に青白く光る剣の形に変わっていく。降り注ぐ光の玉を避ける為に動き続けているが、動きに合わせて着いてきてくれている。


 魔力玉による強化はしない、ここには強化の源がわんさかあるから。

 電を纏った光の玉が降り注ぐ中で飛び掛ってくる狼を躱すと、表示されてる線に従って光の玉を切る。剣の重さは無いに等しい。


魔力剣 MP30


 凄い……元々のMPが10だから20増えてることになる。20で1割ってことは、狼はMP200で発動する光の玉を湯水の如く使っているのか。狼の総MPどれだけだよ!

 とか考えながら光の玉を無理のない範囲で切っていく。

 時折来る光線は線が見えないから回避する。無茶をやって死に戻りとか目も当てられない。


 光の玉を切っていくにつれ、向かってくる量が増えていく気がする。その中で飛び掛ってくる狼を躱した瞬間に、辺りに紫電がはしった。

 ふと見つけたのは狼の真後ろ、そこだけ紫電が走っていなかった。

 急いで駆け込む。着いた瞬間、狼は消えるように姿を消し、気付くと僕の真後ろで前足を振り下ろしていた。くそっ! 罠かよ!


 1拍遅れて剣を振りかぶり、剣と足が交じり合う。少し均衡した瞬間に体を足の隙間へと潜り込ませ、剣をナイフくらいの大きさまで縮小化させる。

 後ろから聞こえるドンッという音を聞きながら、ナイフサイズの剣で一太刀いれてその場から離れる。魔力剣のMPは今ので減ってしまったけど仕方が無い。


 ある程度離れながら狼を見ると、今までより大量の光の玉が狼の周りに浮かんでいた。

 一斉に光の玉が向かってくる中で。僕は深呼吸をして身体の力を抜く。


 ……見えた!


 剣を10倍にまで拡大化、上に向かって左から右に振るう。

 線が横一列になったのを見逃さずに切り。すぐに元の形に戻す。10個以上切ったけどそれでもまだまだ残っている。


 一つを切る、切り返しでもう二つ、踏み込んで一つ、そのまま剣の届く距離にきた玉を全て切っていく。捌ききれない時は体をずらし躱す。


 【条件を満たしました】

 【スキル 剣技を取得しました】


 一直線でも速い光の玉は厄介だけど対処出来る。

 剣を水平に振るいながら拡大化。向かってきていた狼は剣の当たる一歩手前で止まり、また向かって来る。

 1番厄介なのはやっぱり狼だ。ここ街から100mくらいの場所なんだけど……配置場所絶対おかしい。


 剣を戻して光の玉を切っていく。いつのまにか魔力剣は青白い光から深い青色に変わっていた。


魔力剣 MP2230


 飛び掛ってくる狼、振り下ろされる巨大な右足。


 ……いけると思った。

 体を左に動かしながら狼の右足を受け流すように剣を当てる、右足が顔の横を通った瞬間に体を浮かすように剣に力を入れる。

 残った衝撃を逃がすように回転し剣を払う。衝撃波となって狼の周りの電を切るが関係はない、どうせMPにはならないし。

 今いる場所は狼の横腹の前、後ろから狼の足が地面を抉る重低音が聞こえる。


 「我流・一太刀!」


 剣の大きさを倍にして剣を振り下ろす。補正はかからない。


 「二太刀」


 体全身を使った切り返しだ。これも技製作してればよかった。


 「三太刀」


 剣を振るったあと、そのまますぐに狼から逃げるように離れた。

 離れてすぐに尻尾が辺りを蹂躙する、ほんとに紙一重だった。


魔力剣 MP1910


HP1/253


 マジか......。

 衝撃を逃がしきれなかったのだろう。剣も壊れていないし、受けに徹していたから相殺も出来なかった。すぐにHPを5%回復する初心者用ポーションを10個緊急使用。

 緊急使用という機能には色々制限があって、使用後3分はアイテムが使えない。この狼の前ではあってないようなHPだけど……ないよりましだ。

 魔力付与15をかけ直して狼をみる。

 狼のHPはこれで残り9割、まだまだ先は長い。

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