82 想いは1つ7


「お見苦しい所を失礼いたしました」

「いえ、構いません」

 広間がようやく静かになったところでヒースはアルメリアに頭を下げる。気付けば集まった有力者全員が彼女に頭を下げていた。

「改めて皆様にお願いいたします。どうか、叔父上を救出し、この国の正義を取り戻すためのご助力をお願いします」

 アルメリアが改めて助力を請うと、集まった一同から大きな歓声が上がる。彼女が彼等の心をガッチリと掴んだ証だった。

 この様子ならもう後顧の憂いなくロベリアを空ける事が可能だろう。後は総督を初めとした文官達に任せ、竜騎士達はエドワルドの救出に向けた最終的な打ち合わせの為にヒースの執務室に移動する。

「お手柄でございます、アルメリア様」

 ヒースは大役を終えたばかりのアルメリアをねぎらう。だが、彼女は寂しそうに微笑む。

「まだ、これからです。皇都を解放するまでは気を抜くことはできません」

「おっしゃる通りです」

 揃った竜騎士達は彼女に同意してうなずいた。するとそこへ慌ただしい足音が聞こえてくる。扉を叩く音が聞こえ、返答を待つのももどかしい様子で部屋に飛び込んで来たのはルークだった。

「ウォルフから情報が届きました」

「本当か?」

 ルークは握りしめていた手紙をヒースに渡す。彼はそれを読み進めるにしたがってだんだんと青ざめ、やがて怒りに代わる。

「ヒース卿?」

「あの、能無し殿下! よりによって叔父に集団で暴行を加えるとは……」

「え?」

 怒りで手紙を持つ手が震えている。ヒースから手紙を受け取ったアルメリアはその内容に眩暈めまいを覚えそうだった。

「あの野郎、どんな神経をしてるんだ……。前祝に処刑だなんて……」

 今にも倒れそうなアルメリアを支え、その手紙の内容を呼んだユリウスの声も怒りで震えている。

「もう、遠慮はいらないだろう。明日の夜、強行突入する」

「今からじゃないんですか?」

「殿下からのご指示だ。出来るだけ多くの者にその瞬間を目撃させ、彼等の非道な振舞を見せつける狙いがあるのだろう」

 逸るルーク達若い竜騎士をヒースは冷静に抑える。

「殿下は怪我をしておられる可能性がある。皇都まで飛竜で移動するのは難しいかもしれないな」

 手紙を読み、渋い表情のリーガスが呟く。グランシアードの怪我は随分と良くなってきたが、体力が回復していないので長距離の飛行はまだ難しいと彼は判断していた。別の移動手段を手配しておかなければならない。

「ウォルフの提案通り、あの船を奪いますか?」

 ゲオルグが皇都から乗ってきた船である。彼の手紙には、船が停泊している桟橋の警備状況も記されていた。

「そうだな。元はと言えば皇家の所有する船だ。殿下が使うのに何の問題は無い。2手に分かれよう」

 ヒースがそう決断した時に、どこからか風が吹き込んだ。そして、低く抑えた笑い声が聞こえる。

「誰だ!」

「なかなか、物騒な計画を立てているじゃないか。私も混ぜてくれないか?」

 重厚な机の奥、タペストリーがかけられた壁際に隻眼の男が立っていた。


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