閑話 ジーンとリーガス愛の劇場2

第2話 愛を込めて



「リーガス、はい、これ」

 冬の妖魔討伐の準備に忙殺されていると、愛妻のジーンが何かの包みをはにかみながら差し出す。

「何だ?」

「開けて見て」

「……」

 包みを開けて出てきたのはショッキングピンクの物体。

「……何だ?」

「防寒具。フロリエさんやオリガさんに教えてもらいながら編んだの」

 ふんわりとしたそれは、確かに毛糸で編まれた防寒具だった。ショッキングピンクの地に真っ赤なハートが真ん中にデンッ!とあしらわれている。

 竜騎士が恋人からもらう定番のプレゼントだが、付き合い始めてから5年、編み物などしたことがない彼女から初めて贈られた。

 嬉しいのだが……何故、この色なんだ?

「最初、練習で自分用に編んだの。それで、リーガスにも同じのを編んじゃった。お揃い」

 ジーンは最初に編んだという自分用のそれを取り出して嬉しそうに付ける。

「……」

「あ、似合う、似合う」

 ジーンは固まっている私に防寒具を付けて嬉しそうにしているが、絶対にそんな事は無いだろう。

「いや……その……」

「嬉しくない?」

「……嬉しい」

 無邪気に問われればそう答えるしかない。

「絶対使ってね」

「あ……ああ」

 そう答えたものの、部下たちの前でこれを付ける勇気は無い。もちろん、あの上司2人に見られるなんて、想像するだけでも恐ろしい事態になる。

「かわいいー」

「……」

 厳つい自分が真っ赤なハートが付いたピンクの防寒具を付けているなんて、鏡を見る勇気すら出ない。




 晩秋、リーガスは2人の部下と共に、総督府を離れて西の砦の配属になった事に心底安堵した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る