第21話「地下への門」
白い雲の層を抜け、青空の上へと舞い上がる。白い雲の層を抜けた先――進行方向に白い永久凍土に覆われた竜骨山脈の頂が見えてくる。
標高10000ftを超える高地、夏でさえ氷点下を下回る事あるほど非常に寒いこの場所では、出発前に用意していた防寒具がなければ凍死の危険性さえあった。
山頂から吹き降ろしてくる冷たい風が、山の斜面に沿って飛ぶアーネスト達の肌を撫でる。痛みを感じるほどの冷たさに、アーネストは身体を震わせる。
「さ、寒な……。ハルヴァラスト。無事か?」
竜騎士でもまず飛行する事のない高さの環境から、アーネストは騎竜であるハルヴァラストの安否を確認する。
「貴様の尺度で測るな。この程度の気温変化など何ともない。俺より、貴様の後ろを気にしろ」
アーネストの言葉に、ハルヴァラストはそう強く答えを返した。
飛竜はその体の大きさゆえに代謝はそれほど良くはなく、寒さに弱い。そのため、寒い高硬度や高地の山岳地帯での行動の際は、騎竜の体調管理に細心の注意が必要とされていた。
その事を思って確認したことであったが、竜であるハルヴァラストには当てはまらなかったようだ。
ハルヴァラストから視線を外し、アーネストは自分の直ぐ後ろ、アーネスト共にハルヴァラストの背に乗る女性――イリシールへと目を向ける。
「大丈夫ですか? 寒くは無いですか?」
「大丈夫ですよ。そのまま飛んでください」
イリシールはアーネスト達の様に、この高さまで来ることを想定した旅路を取っていた訳では無く、それ用の装備は持っていなかった。一応、横転した荷馬車の荷台から防寒具として使えそうな物を拝借してきたが、それで万全というわけでは無いため、彼女の状態を確認したが、イリシールはこの寒さを苦にする様子はなかった。
『アーネスト。無事か?』
耳に付けた魔導具からディオンの声が届く。向こうもこの寒さを心配して声をかけてきたようだ。
「こっちは問題ありません。そちらは大丈夫ですか?」
『今のところは問題ないが……少し急いだ方が良い。騎竜達が音を上げ始めている』
「了解です」
ディオンの言葉に、アーネストは少し表情を顰める。
高高度の寒さは思いのほか強い影響を見せているようだった。
「速度を上げます。付いて来れそうですか?」
『そうしてくれると助かる』
「分かりました。ハルヴァラスト、少し早く飛んでくれ」
ハルヴァラストにそう指示を飛ばすと、大きく舌打ちが返ってきて、羽ばたきと共に加速した。
速度が増すと共に、身体に吹き付けるかぜが強くなる。
岩肌が剥き出しの山の斜面を登り切り、頂上を通過すると、その先にさらに高い山々が見えてくる。
山頂を越え、それらの気高い山々の山間を抜けていく。
そうしてしばらく進むと、一際大きな山の山頂付近に巨大な人工物が見えてくる。
山の岩肌を削って作られたと思える巨大な城塞。繋ぎ目一つ見せる事は無く、山の岩肌と一体になったような、巨大な建造物。高い城壁に囲われ、左右に巨大なドワーフの石像を並べた巨大な石門。その巨大な姿は見るものを圧倒させ、近寄りがたい畏怖の念を抱かせる。
目の前に聳えるその巨大な建造物がフロスト・ゲートと呼ばれる、ドワーフ達の王国フロストアンヴィルへとつながる地上の門だった。
『
距離感と現実感を失わせるような巨大な建造物に目を奪われていると、耳に付けた魔導具からダインの声が届く。
今まで会話に入ってくることは無く、通信用の魔導具を持っていなかったために、唐突に声をかけてきたダインの言葉に、アーネストは少し驚く。
「分かりました」
ダインに返事を返すと、アーネストはハルヴァラストに指示を出し、降下を開始する。
ドワーフの石像と石像の間、石門の前の前に騎竜達が降り立ってもなおあまりある様な空間が広がっている、その場所へとアーネスト達は降下していく。
そして、アーネスト達がその降下場所へと近付くと共に、巨大な石門がゆっくりと開かれていく。
目測で高さ50ftはあるだろうという石門が稼働し開かれる様は、言葉を出す事さえ出来ないほどの驚きを見せられた。
さらに、石門が開ききると、巨大な地響きのような足音が響き、石門の奥から日の光を浴びて輝く金属鎧を着こんだドワーフ達の隊列が、一糸乱れぬ動きで進み出て、降下してくるアーネスト達を迎える様に並び立つ。
騎竜達が降下を終え、地上へと着地するとドワーフ達は一斉に手にした
乱れないドワーフ達の一連の動き、それはそれだけのドワーフ達の練度の高さを示され圧倒させられる。
ハルヴァラストが着地を終えると、アーネストはハルヴァラストの背から飛び降り、地上へと降り立つ。それを確認すると、ドワーフ達の一団から一際意匠の凝らされた鎧に身を包んだドワーフが進み出て、アーネストの元へと歩み寄ってくる。
「我らが嘆願を聞きうけ、よくぞ参られた、竜殺しよ。我らフロストアンヴィルのドワーフ一同、貴殿の招集に感謝し、歓迎する」
その言葉と共に、アーネストの前に進み出たドワーフは跪き、深く礼を返した。
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