ミッション24―16 <最終ボス戦>邪悪なるカミ IV

 江京でもNPCを吸収するカミは、着々と力を蓄えつつある。

 カミを倒す方法を話し合っている時間はあまりない。


「どうします!? どうやってカミを倒すんです!?」


「目玉、潰した」


「きっと魔王カミは、目玉を潰され弱っているはずなのだ! にゃ!」


「弱点がそれだけとは思えん」


「ガロウズの言う通りだ。他にも弱点はあるはず」


「あの触手の付け根、少し怪しい気がするよ」


「確かに。見た目的にもゲーム的にもな」


 カミが持つ数十本の触手は、その全てが背中に集まっている。

 そして触手の付け根は、いかにも柔らかそうな見た目をしていた。

 ファルのゲーム感覚が直感を告げている。


「よし、ヤサカの言った通り、きっと触手の付け根が弱点だ。そこを狙おう」


 危機を感じれば、カミはすぐに逃げてしまうだろう。

 そこでファルたちは、確実に触手の付け根を破壊する方法を考え、実行に移した。


 幸いなことに、カミの居場所は江京駅前の広場。

 こちらの位置がバレやすい代わりに、こちらも狙いがつけやすい。

 

 早速、ファルとヤサカ、ガロウズ、ミードンはビルを上った。

 ラムダは最速の車ヴェノムを用意し、ティニーはSMARLスマールを準備。

 そしてラムダとティニーはヴェノムに乗り込んだ。


「ヴェノムです! 久々のヴェノムです! おお! このエンジン音……震えます! 最高です!」


「ラムダ、出発」


「フッフッフ、行きますよ! ティニーよ、ヴェノムの加速に耐えてください!」


 江京駅前の高層ビル群にヴェノムのエンジン音が唸る。

 まさに猛獣の鳴き声。

 当然だが、カミもヴェノムの存在に気づいたようだ。


 江京駅前は広場であり、辺りを警戒する触手から隠れるのは困難。

 ならば最初から、凄まじい速度の持ち主ヴェノムで堂々とカミの背後を狙えば良い。

 何より、こうした正面突破作戦はラムダの得意とするものだ。


 たった2秒で時速100キロに達したヴェノムは、カミへと突撃した。

 超高層ビル群に囲まれた道を、化け物スーパーカーが走り抜ける。


 それを黙って見過ごすカミでもない。

 カミは触手を操り、あっという間に接近してくるヴェノムを止めようとした。

 だが、ファルたちはこちらの備えもできている。


「撃て撃て! カミの触手をタコ焼きにしろ!」


「了解!」


 ファルの合図とともに、ビルの中から次々と飛び出すコピー兵士NPCの集団。

 コピー兵士NPCは一切の恐れも抱くことなく、カミの触手めがけて銃を撃った。

 数え切れぬほどの弾丸が乱雑にカミの触手を傷つける。


 コピーNPCの制圧射撃によって、カミの触手の動きが鈍った。

 これこそがファルたちの狙い。

 本命は、制圧射撃に紛れ確実にカミの触手を貫く、ヤサカとガロウズの攻撃だ。


 2人のスナイパーが放つ弾丸は恐ろしい。

 弾丸は寸分狂わず、吸い込まれるように、動き回る触手を貫いている。


「いいぞいいぞ。行けラムダ!」


 ヤサカとガロウズ、コピー兵士NPCのおかげで、ヴェノムはまっすぐとカミのもとへ。

 触手も負けじとコピー兵士NPCを真っ二つに裂いていくが、その度にファルはコピーNPCを増殖させていく。

 カミはファルたちによって、ラムダへの攻撃を封じられたのだ。


 この状況に、カミは戦術を変えた。

 彼は近くの車やバス、木などに触手を巻きつけ、それらをヴェノムに投げつける。

 放物線を描き、ラムダとティニーが乗るヴェノムめがけて空を飛ぶバスや木々。

 

 ラムダは急ブレーキとサイドブレーキ、巧みなハンドルさばきを駆使して、カミからの攻撃を避け続けた。

 地面に叩きつけられたバスの破片がフロントガラスに当たり、コンクリートに突き刺さる木にサイドミラーを擦りながら、ヴェノムは走る。

 スキール音を響かせ左右に車体を振りながら、ヴェノムはカミの足元に向かう。


 何を投げつけようとヴェノムは止まらなかった。

 ビルからの銃撃により触手での攻撃もできず、カミはついにヴェノムの接近を許す。


「背後に回りますよ! ティニーさんよ、準備はできてますか!?」


「これで、大丈夫」


 シートベルトを目一杯伸ばし、窓から体を乗り出したティニー。

 箱乗り状態の彼女は、当然のごとくSMARLを構えていた。


 江京駅前、ターミナルの歩道に乗り上げ、ヴェノムはカミの足元を素通りする。

 カミの背後にヴェノムが到着すると、ラムダはサイドブレーキを利かせヴェノムをスリップさせた。

 

 スリップし停車したヴェノムからティニーが狙うのは、もちろんカミの背中にある触手の付け根。

 丸見えの標的に向かってティニーは迷わずSMARLの引き金を引く。

 発射されたロケット弾は、標的に命中した。


 触手の付け根を炎が覆い隠し、体液と触手の肉片がヴェノムに降りかかる。

 数本の触手はその場に崩れ落ちた。

 やはり背中の触手の付け根は弱点だったのか、十数メートルの大きさまで巨大化したカミは膝をつく。


「やったぞ! カミに大打撃を与えたぞ!」


「ティニー! ラム! すごいよ!」


「1発で魔王カミを……女神ティニー様たち、恐るべし! にゃ!」


「妖退治は、専門」


「やりました! カミを弱らせてやりました! だけど、体液でヴェノムがヌメヌメです! 童貞のヌメヌメです! 気持ち悪いです!」

 

 素直に喜ぶファルとヤサカ、ミードン。

 無表情のドヤ顔をするティニー。

 喜んでいるのか気持ち悪がっているのか分からないラムダ。


 しかし、ガロウズは沈黙しカミを睨みつける。

 彼はまだ警戒を解く気はないらしい。


 戦場ではガロウズの行動が正解だ。

 ガロウズの隣に立ちカミを眺めていたティニーが、カミを指差して言う。


「見て。カミ、震えてる」


「カミはいつもプルプルしてる変態だろ」


「知ってる。でも違う」


 ではどういうことなのだろう。

 ファルもティニーとともにカミを眺めた。


 江京駅前で膝をつくカミは、ティニーの言う通り小刻みに震えている。

 同時に、力なく垂れ下がった触手ものたうち回っていた。

 今度は何が起きるというのか。


『愚カ者メ、素晴ラシイ。我ヲココマデ追イ詰メルトハ、驚キダ。汝ラガソノ気ナラ、我モ汝ラトノ戦イ、受ケテ立トウ』


 口から漏れ出す空気に混じり、低く響くカミの言葉。

 直後、彼の背中から生えていた触手がまとまりだした。

 ただでさえ太かった触手は、巨木のような2本の触手に生まれ変わる。


『汝ラヨ、来イ。コノ創造主ガ、汝ラト戦ッテヤルノダ。光栄ニ思エ』


 カミのその言い草は、今までの戦いは本気ではなかったとでも言いたげだ。

 それがどうにも瀬良カミらしく感じられ、ファルは小さく笑ってしまう。


 新たに生まれた2本の触手を動かし、立ち上がったカミは、言葉を続けた。


『ダガ、ココハ汝ラトノ戦場ニ相応シクナイ。汝ラ、我ハ多葉デ待ツ』


 相変わらずの仰々しい言葉の後、カミは光に包まれ消える。

 おそらくファストトラベルを使い多葉へと向かったのだろう。


「よりにもよって、多葉を戦場に選ぶのか」


「ファルくん、みんな、行こうよ。多葉で――私たちの街で、全てを終わらせよう」


「ああ」


 力強く頷き、ファルたちはメニュー画面を起動。

 ファストトラベルを使って、本拠地である多葉へと出発した。


 約2分間、『TIPS 世界を自由に旅しよう』という表示を前に待ち続けるファル。

 光が消え視界に広がったのは、見慣れた廃墟の街。

 いつか見たような夕日が街を照らしている。


「いないのだ! 魔王カミがどこにもいないのだ!」


「逃がしません! 絶対に見つけ出します!」


 カミの姿を探すため、辺りを見渡すファルたち。

 数秒して、ヤサカがカミを見つけた。


「いたよ。海の方向。私たちの家に」


 ヤサカが指差した先に広がる大海原。

 オレンジ色の空と夕日を反射する海に浮かぶ、座礁した軍艦。

 護衛艦『あかぎ』の甲板上で、カミは触手を振りファルたちを待っていたのだ。

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