ミッション24—6 道は自分で作るもの
戦車に乗り込む前に、30体ほどのコピーアレスターを出現させたファル。
相変わらず関節グニャグニャバグによって活躍の期待はできないが、いないよりはマシであろう。
残ったサルベーションとレジスタンスとは、ここでお別れだ。
彼らは全滅するまで、数十万のNPCと戦い続ける。
NPCに殺されログアウトされ、現実世界に戻るのが、彼らの目的なのだから。
「みなさん! 戦車に乗りましたか?!」
「俺は乗ったぞ」
「私も、準備完了だよ」
「ティニーさんと一緒なんだぞ! 嬉しいんだぞ!」
「狭い」
「
LP3戦車の操縦席にラムダ、砲手席にファル、車長席にヤサカ。
ティニーとサダイジン、ミードンは装填手席に詰め込んだ。
「では行きますよ! 出発進行です!」
全員が戦車に乗ったことを確認したラムダは、早速戦車を前進させる。
戦車もラムダに応え、エンジン音を轟かせ、氷の上で
60トンの、金網に覆われた巨体が、銃弾で傷だらけのバリケード戦車を押しのけ、数十万のNPCたちの前に出る。
数百発の弾丸がファルたちの戦車を襲うが、小口径の銃弾など敵ではない。
ファルやヤサカは緊張感に包まれた表情をするが、ラムダはニコニコと笑っていた。
突如、複数のロケット弾が戦車の上空を通り過ぎていく。
ロケット弾はNPCたちを帯状に吹き飛ばし、1本の道を作り出した。
同時に、戦車の無線から力強い合図が聞こえてくる。
《Now! move,move,move!》
上空に待機していたホーネットだ。
ホーネットが、攻撃ヘリを使って道を作り出してくれたようである。
NPCたちは混乱し、彼らの視線は攻撃ヘリに集中していた。
せっかく出来上がった道。
これを無駄にすることはできない。
「ラムダ! 行け!」
「分かってます! 掴まってください!」
真っ黒な排気煙を排気口から噴き出し、戦車は急加速。
氷の粒と水しぶきを巻き上げ、NPCに埋め尽くされた狭い通路に突撃する。
そんな戦車を止められる者はおらず、NPCたちは次々と潰され、あるいは氷の堀に落ちていった。
わずか数秒で狭い通路を突破すると、いよいよ戦車はNPCの海に飛び込む。
いくらホーネットが道を作ってくれたとはいえ、それは他よりNPCが少ない、というだけだ。
戦車は数多のNPCを踏み越えていく。
ただでさえ足場の悪い氷河の上。
加えておびただしい数のNPCたち。
しかし、戦車――ラムダはそんな
「段差です! 乗り越えますよ! 揺れますよ! おお!」
「ラム! もう少し右に行こう! そっちの方が敵が少ないよ!」
「ヤーサよ、どこ行っても敵まみれです! なら、敵が多くても近道に行った方が楽しいです!」
「そ、そんな……ええ……」
「きっと外は大変なことになってるんだぞ。でも、戦車の中も大揺れで大変だぞ」
「背後霊、辛そう」
「にゃ、にゃ、にゃあ!!」
「クソ……ちょっと酔ってきたぞ……」
実のところ、この状況を楽しんでいるのはラムダぐらいだろう。
ファルやヤサカたちは、この状況に耐えるのが最優先だ。
もしラムダ以外に楽しそうな人物がいるとすれば、それはホーネットぐらいである。
《もう1回、ロケット弾攻撃! 30ミリガン掃射! Awesome! 獲得経験値表示が止まらない!》
ファルたちの援護のため、攻撃ヘリを使ってNPCを撃破していくホーネット。
ただし、現在の彼女はファルたちを援護しているというよりは、単にゲームを楽しんでいるだけだ。
地上には、無邪気な笑みを浮かべ戦車で突撃してくる少女。
上空には、凶悪な笑みを浮かべロケット弾と30ミリ弾をばら撒く少女。
NPCからすればたまったものではない。
銃弾を跳ね返し、金網によって不発弾となったロケット弾を引っ掛けながら、戦車はラグナロク山へと近づいていく。
そんな戦車1台すら、数十万のNPCは止められなかった。
《我が信徒たちよ! 我が子たちよ! 何をしているのだ!? 早く、あの悪魔どもを殲滅するのだ!》
もはや焦りを隠せぬカミ。
どうにかしてファルたちを倒そうと必死のようだが、彼の言葉は空虚に響くだけ。
NPCは、カミの感情など理解できないのである。
すべてのプレイヤーとの敵対を宣言し、カミは自ら孤立した。
きっとこれは、カミの望んでいた第2の現実ではないはず。
「数十万のNPCを操って、そのくせ頼れる味方がいないなんて、哀れだ」
「カミは、一体どんな世界を望んでいたんだろうね。サダイジンちゃんなら、それが分かるのかな?」
「あんなダサい格好して、ロン毛にして、付け髭つけて、神様キャラ頑張ってるようなヤツの本心を知るなんて、サダイジンでもお手上げだろ」
「ファルくんは手厳しいね」
「そういうヤサカは、
「ううん……神様ごっこをしてる変態、かな」
「お前の方が手厳しいと思うんだが」
氷河とNPCで揺れる戦車内で、カミを変態とはっきり言い放ったヤサカ。
その無意識毒舌がどうにも可笑しく、ファルの頬が緩む。
《……あの……さすがに傷つくんだけど……》
「うん? なんか
「どうしたんだろうね?」
《……お前らのせいだよ! さっきから、お前らの話は聞こえているんだぞ!》
「「え!?」」
《このロン毛についても、この付け髭についても、この格好、キャラについても、我は散々な悪口を言われ続けた! だが……変態はないだろ! ひどいだろ! ええ!!》
「プレイヤーたちをゲーム内に閉じ込めて神様ごっこしてる人、変態じゃないの?」
「ヤ、ヤサカ……追い打ちを――」
《やめろぉぉ! いいか! サダイジンならまだしも、美人に変態呼ばわりされた時のショックがどれだけのものか、お前らに分かるか!? ああ!?》
「だぞ!
《ガキは黙っていろ! 長い黒髪に凛とした瞳の、天使のような女性と比べれば、お前などちょんちょこりんでしかない!》
「はじめて
「お兄さんまでそんなこと言わないでだぞ!」
《事実であろう! 現実を受け入れるのだ、サダイジンよ!》
「大丈夫。サダイジンの背後霊、可愛い」
「
「だぞ!? 褒められてるのかどうか分からないけど、ティニーさんとミードンは優しいんだぞ! ありがとうなんだぞ!」
「なんだか盛り上がってますね! わたしたちの可愛さで、カミも踏みつぶしてやります!」
「可愛いヤツは『踏み潰す』とか言わないと思うが……」
《あんたら、なんの話ししてんの?》
「私も分からないよ……。でも、なんやかんや、みんな楽しそうだね」
微笑み、そう言ったヤサカ。
戦車の外で繰り広げられる殺伐とした光景など、どこ吹く風だ。
周りはNPCばかりであったが、話をしている間にも、戦車は確実にラグナロク山の麓までやってきている。
目的地はすぐ近く。
ここでラムダが無線機に向かって叫んだ。
「レイヴンさんよ、もうすぐでラグナロク山に到着です!」
《みてえだな。ヘッヘ、お前らが通った場所、やられたNPCの山になってやがる》
「わたしたちを邪魔できるヤツなんて、どこにもいません! さあ! サダが言っていたラグナロク山の入り口、やっちゃってください!」
《はいよ。任せろって》
低く響いた、レイヴンの頼もしい返答。
直後、扶桑の大砲から巨大な砲弾が飛び出し、ファルたちの乗る戦車の上を通り過ぎた。
砲弾はラグナロク山の尾根に衝突、雪煙が立ち上る。
雪煙の向こう側には、痛々しく崩壊した鉄のゲートが。
ラグナロク山への突入は、これで準備完了だ。
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