ミッション19—2 〝ゲーム〟本編
この殺戮ゲームを早く終わらせたいという思いもあって、ファルはボタンを連打した。
おかげで隣の部屋から、複数の凄まじい悲鳴がこだましている。
そして、ディーラーはさらに喜ぶ。
《ハッハッハッハッハ! その〝調子〟だ! 敵であるNPCを〝殺してこそ〟の〝ゲーム〟だ! ファル、君は今、その〝ゲーム〟を、この〝ゲーム世界〟で楽しんでいるんだ! この〝光景〟、是非とも〝ゲーム心〟をなくしたカミに見せてやりたいね》
「黙ってろって言わなかったか?」
《ああ、それは〝悪かった〟な。〝面白かった〟のでつい》
笑いが収まらぬディーラー。
彼の手のひらの上で転がる気分は良くないが、他に選択肢はない。
ファルは耳を塞ぎ、ただ無心にボタンを押しまくる。
悲鳴が響き、ディーラーの笑い声が踊る部屋。
もう何度ボタンを押しただろうか。
もう何人のNPCを殺したのだろうか。
しばらくの間、ファルはボタンを押し続けていた。
だが、隣の部屋から聞こえきた1人の悲鳴を耳にして、ヤサカがファルの手を掴んだ。
「ヤサカ、どうした?」
「ファルくん、さっきの悲鳴……たぶんレジスタンスメンバーの1人だと思う」
「は? 聞き間違いじゃないか?」
「ううん、あの声は間違いなく、アマモリさんの声だったよ」
「いやいや、そんなはずは……」
ヤサカの言葉を完全に否定することはできない。
無心でボタンを押していたため気がつかなかったが、もしかしたらヤサカの言う通り、アマモリの断末魔が聞こえていたのかもしれない。
何より、レジスタンスメンバーをよく知るヤサカの指摘は、無視できないのだ。
気になることがあれば、答えを知っている人間に質問する。
ファルはディーラーに聞いた。
「おいディーラー! 100人の人間って、本当に全員がNPCなのか?」
単純かつ直球の質問。
これに対し、ディーラーは大笑い。
《全員が〝NPC〟だって? 誰からそんな〝偽情報〟を仕入れたんだ?》
「はあ? お前はさっき、ボタンを押して死ぬのはNPCだって言っただろ!?」
《確かに〝言った〟な》
「お前、ふざけてんのか!? 俺に偽情報を与えたのは、お前だろ!?」
《オレが〝言った〟のは、〝最初の1回目〟のボタンを押して〝最初に死ぬ〟のはNPCだと〝言った〟んだ。実際、君が〝最初に殺した〟のはNPCだったぞ。誰も〝100人全員〟が〝NPC〟だとは言ってない》
「騙したのか!?」
《〝人のせい〟にしないでくれ。〝勘違い〟した君が〝悪い〟んだろ?》
「お前……!」
ボタンを押すことでファルが殺していたのは、NPCだけではなかったのだ。
ヤサカの指摘は正しかったのだ。
今頃、隣の部屋ではアマモリが死亡エフェクトに包まれていることだろう。
《たまには〝仲間〟と〝PvP〟も悪くないだろ? どうだ? 〝仲間〟を殺した〝気分〟は?》
「仲間を殺した気分? 別に、なんとも思わないが?」
「ファ、ファルくん!? なんとも思わないの!?」
「ああ」
《これはこれは、〝想定外〟の答えだ。ファル、君は〝冷たい〟な》
「俺を冷血漢みたいに言うな。俺は相手がプレイヤーだと知らずに殺した。ってことは、俺に殺されたヤツがチートを使ったことのあるヤツなら、無事にログアウトされてるはずだ。少なくともアマモリさんは、今頃現実で目を覚ましてる」
《なるほど、〝そういう〟ことか》
「俺はプレイヤーを殺したんじゃない。むしろ救ったんだ。このゲーム世界からな。俺に殺されたプレイヤーには、殺されたことを感謝してほしいぐらいだ」
「ファルくんはすごいね。この状況でもその言葉を口にできるんだから、冷血漢なんて甘いものじゃないよ」
「おいヤサカ、それは俺を褒めてるのか?」
堂々としたファルの答えに、ヤサカは半ば引き気味。
一方でディーラーは、ますます笑いが止まらなくなってしまったようだ。
《ハッハッハッハッハッハ! 〝最高〟じゃないか! やっぱり〝君〟をオレの〝ゲーム〟に参加させて〝正解〟だった! 君のような〝価値観〟を持ったプレイヤーを、オレは〝待って〟いたんだ! さあ! 残った〝人間〟も〝皆殺し〟だ!》
楽しいおもちゃを前にして、子供のように無邪気な興奮を隠さぬディーラー。
もっと楽しい展開を見せてくれと、ディーラーの能面が語りかけてくる。
だが、ファルはそこまでディーラーの期待通りの人間ではない。
ファルは赤いボタンから離れ、2度とボタンを押そうとはしなかった。
この行動に、ヤサカは疑問を抱く。
「どうしたの?」
「いや、ふと思ったんだ。ディーラーは紛らわしい言い方で、100人全員がNPCだと、俺を騙した。となると、俺が100人の人間を殺したところで、ディーラーがシャムを助けてくれる保証はない」
「そうかもしれないけど……じゃあ、どうするの?」
「……ディーラー!」
声を張り上げ、ディーラーに語りかけるファル。
果たしてディーラーが約束を守る気があるのか、聞かねばならない。
「俺が100人全員を殺したとして、お前は本当にシャムを助けてくれるのか?」
《オレを〝疑って〟いるのか? ああ……それは〝困った〟な……。どうすればオレが〝約束を守る男〟だと〝証明〟できるのか……》
顎に手をやり、ディーラーはやや考える。
10秒程度、ディーラーは考えていた。
そして彼は指を鳴らし、言った。
《そうだ! オレは〝君たち〟が100人の人間を〝殺さない〟という選択肢を〝選んだ〟時には、この〝いたいけな少女〟を〝殺す〟と約束した。この約束を〝果たせば〟、オレは君たちとの約束を〝守った〟ことになるじゃないか!》
「は!? いや、ちょっと待て――」
青ざめるファルには目もくれず、ディーラーはコートのポケットからスイッチを取り出した。
スイッチをディーラーが押すと、隣の部屋から轟音が聞こえ、部屋が小刻みに揺れ、壁にヒビが入る。
ディーラーは自らの手で、残った人間全員を爆殺してしまったのだ。
《オレは今、君たちが、オレを〝信用できない〟という〝理由〟で100人の人間を〝殺さない〟という選択肢を〝選んだ〟と〟認識〟した! ということで、〝早速〟このお嬢さんの〝頭〟に赤い花を〝咲かせて〟あげよう!》
「おかしいだろ!? 待てよ! おい!」
「シャム!」
ファルとヤサカの制止もどこ吹く風。
笑い声をあげながら、ディーラーはシャムの頭に銃口を向け、引き金に手をかけた。
恐怖から泣き叫ぶシャム。
構わず、ディーラーは銃の引き金を引く。
その瞬間、ファルとヤサカは思わず目を瞑った。
ところが、モニターのスピーカーから聞こえてきたのは、発砲音ではなく小さな破裂音。
破裂音がなった後も、シャムの泣き叫ぶ声に変化はない。
何が起きたのだろうかと、ゆっくり目を開けるファルとヤサカ。
2人はモニターに映る光景を目にして、唖然とする。
ディーラーがシャムに向けた銃口からは、『ハズレ』と書かれた小さな旗が飛び出していたのだ。
もちろん、シャムは無事である。
これはどういうことなのか。
《おや? これは〝おもちゃの銃〟だったか。いや、〝うっかり〟していたよ。ちょっとだけ〝待っていて〟くれないか? 本物の〝銃〟を持ってくる》
銃口から旗が飛び出したおもちゃの銃を捨て、わざとらしくそう言ったディーラー。
彼はすぐに手を叩き、ファルとヤサカに言う。
《そうだ! せっかくだから〝別〟の〝ゲーム〟を楽しんでいてくれ》
その言葉の直後、部屋の天井にあった蓋が開いた。
天井を眺めたファルとヤサカは、警戒心を隠さず身構える。
蓋が開いてすぐだ。
2人の人影が、部屋の中に落ちてきた。
ファルとヤサカがよく知る2人の男女が。
「痛えな……クソ……」
「まったく、手荒ね……」
「レイヴンさん!? コトミさん!?」
天井に開かれた蓋から現れたのは、レイヴンとコトミであったのだ。
どうやらレイヴンとコトミも、ディーラーの〝ゲーム〟に付き合わされているようだ。
ひとつの部屋に集められたファルとヤサカ、レイヴン、コトミ。
ディーラーは椅子に縛りつけられたシャムの側で、次の〝ゲーム〟の説明をはじめた。
《レジスタンスの〝ご家族〟の皆様、〝娘〟さんを救いたければ、オレの〝話〟をよく聞くんだな。この〝娘〟さんを救うのに〝4人〟も必要ない。これから君たち〝4人〟には、〝2人〟になるまで〝殺し合って〟もらう》
その説明には、せせら笑いが含まれている。
《どんな〝殺し方〟をしても構わないし、〝誰が〟生き残っても構わない。ただ〝2人〟だけが〝生き残れば〟良い。〝簡単〟だろ》
ディーラーの言う通り、あまりに簡単、単純、そして残忍なルール。
これにファルたちの怒りは爆発寸前だ。
「どこまで俺たちをおもちゃにする気だ!?」
「悪趣味……」
「シャムちゃん……」
「ゲームがしてえならこっちに来やがれ! 格闘ゲームで二度と笑えなくしてやる!」
しかしディーラーは、ファルたちの怒りの言葉など気にも留めない。
彼はシャムの頭を撫でながら、震える彼女に言う。
《もうすぐ〝助け〟が来るよ。〝お父さんとお母さん〟か、〝お兄さんとお姉さん〟か、〝お父さんとお兄さん〟か、〝お母さんとお姉さん〟か、〝お父さんとお姉さん〟か、〝お母さんとお兄さん〟か……誰か2人は〝助け〟に来る!》
大粒の涙を流し、何かを叫ぶシャム。
だが口を塞がれた彼女の叫びは、ファルたちには届かない。
《では、〝ゲーム〟を〝楽しんで〟いてくれ》
軽く手を振ったディーラーは、モニターの画面から見切れた。
同時に、ファルとヤサカを拘束していた鎖が外される。
どうやら〝殺し合いゲーム〟ははじまってしまったらしい。
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