ミッション11—3 屋上にて
どのようにしてゾンビを突破し、ショッピングモールへと向かうのか。
ファルが出した答えは、リスクの高い方法であった。
無人の建物の中、ファルはコピーNPCを40人ほど出現させる。
そしてティニーが、40人のコピーNPCたちに武器を与えた。
狭い部屋に40人が詰め込まれ、窮屈な思いをしながら、ファルは武装したコピーNPCたちに命令を下す。
「お前ら! 外にいるゾンビと戦え!」
「「「「「了解シマシタ!」」」」」
命令に忠実に従い、ゾンビが叩くドアに銃を一斉発射したコピーNPCたち。
扉と扉を封鎖していた棚ごとゾンビを蜂の巣にした彼らは、ゾンビだらけの建物の外に突撃した。
住宅街に溢れるゾンビに対し、コピーNPCは攻撃を仕掛ける。
ただし、彼らはまだゾンビの弱点を知らないため、彼らがいくら攻撃をしたところでゾンビは死なない。
むしろ銃の発砲音がゾンビを呼び寄せ、コピーNPCたちは徐々にゾンビたちに囲まれている。
1人のコピーNPCに5~6体のゾンビが群がっていた。
つまり、単純計算で200~240体のゾンビがコピーNPCに群がっているということ。
まさしくファルの計画通り。
「ティニー、用意は良いか?」
「大丈夫」
「ミードンは?」
「ティニー女神様の肩に掴まるだけ! にゃ!」
「よし、行くぞ! 走れ!」
無人の建物で息を潜めていたファルとティニー、ミードンは、建物を飛び出した。
目的地であるショッピングモールまでは約500メートル。
ゾンビたちがコピーNPCたちに気を取られている間に、なんとか到着しなければ。
素早さステータスの高いファルとティニーは足が早い。
加えてファルの潜伏によって、囲まれない限りは、ゾンビたちはファルたちの敵ではない。
正直、最初からこうしていれば問題なくショッピングモールに到着できたのでは? というレベルだ。
とはいえ、コピーNPC40人は問題を起こした。
当然といえば当然だが、ゾンビに食われた彼らは、ゾンビと化しファルたちを追いはじめたのである。
「想像以上に早くコピーNPCがゾンビ化したな……」
「気にしない」
ティニーはそう言うが、コピーNPCが起こした本当の問題は、ゾンビ化ではない。
コピーNPCのバグこそが、本当の問題である。
ショッピングモールへ向けて走るファルとティニーは、ゾンビ化したコピーNPCたちに一瞬にして追いつかれてしまった。
ゾンビ化したNPCはステータスが上昇するのだが、どうやらその時にバグが起こり、ゾンビコピーNPCの素早さステータスがカンストしてしまったらしい。
「なんだこいつら! 動き速すぎだろ! ゴキブリかよ!」
車よりも速く動くゾンビコピーNPCたちは、ゾンビの特徴的なフラフラとした動きまで速い。
ずっと震えているようにしか見えない。
しかし、ゾンビコピーNPCたちも自分たちを制御できていないようである。
ファルたちを襲おうとした彼らは、目測を誤り遥か彼方に吹っ飛んでいったのだ。
結局ゾンビたちは、囲まれなければ敵ではないようである。
街道を走り抜け、ようやくショッピングモールに到着したファルたち。
ショッピングモールの屋上からゾンビを狙撃していたヤサカは、ファルたちに気づいた。
「あ! ファルくん!」
「ヤサカ! どうやって屋上まで行くんだ?!」
「ロープを降ろすから、それに掴まって!」
そんなヤサカの言葉の直後、屋上からロープが垂れてくる。
ファルとティニーがロープに掴まると、ロープは勢いよく引き上げられた。
ついにやってきたショッピングモールの屋上。
屋上にはヤサカだけでなく、他のプレイヤー7人ほどが集まっている。
「助かった……生存者は――」
ファルは生存者の顔を見て驚いた。
ロープを引き上げてくれたのは、ビーフとキリー、そしてトングとヒラヒラを加えた『ガスコンロ』の4人であったのだ。
「昨日の積荷さん、無事そうじゃん」
「ガスコンロさん! ありがとうございます。これで助けてくれたのは2度目ですね」
「いや、密輸の武器を揃えてくれたお礼だ」
「あの……こんなところで言うのもなんですけど……俺、ガスコンロさんの実況動画いつも見てます!」
「私も見てる。楽しい」
「マジかよ! こんなとこに俺たちのファンが2人も!」
お互いに喜ぶファルとティニー、ガスコンロの4人。
まさかのガスコンロとの出会いに、ファルは興奮してしまっていた。
一方で彼は、屋上の端でゾンビを攻撃するプレイヤーにも目がいってしまう。
肩にトゲ付き肩パットを装着した、筋肉モリモリの男。
舌を出し、地上のゾンビに向けてガトリングを乱射する、モヒカンの男。
世紀末臭しかしない男。
「ヒャッハー! ゾンビを撃つのは気持ち良いなあ!」
「……おいヤサカ、あの筋肉モリモリマッチョマンのヤバい人はなんだ? 修羅の国からの観光客か? つうか1人でガトリング持ちって、そもそも人間か?」
「あの人が噂のあああいさんだよ」
「あああい?」
「あだ名は『ガトリングあああい』『腕もぎあああい』『皆殺しあああい』『汚ねえ花火職人あああい』などなど。イミリアで最も凶暴と言われているプレイヤーだね」
「なにそれすごい怖い……」
「背後霊、見えない」
「どうせ背後霊も世紀末なんだろ。見えなくて良い」
そういえば、エレンベルクでもあああいは噂になっていた。
どうしてそんな凶暴な男が、よりにもよって同じ場所にいるのか。
ゾンビの四肢がバラバラになるたび、凶悪な笑みを浮かべるあああい。
ファルとティニーは自然と、彼から距離を取ってしまう。
たぶんあああいは、ゾンビよりヤバい奴だ。
「ねえファルくん、どうしてこんな事態になったのか、教えるね」
まるであああいの存在を無視するように、そう言ったヤサカ。
ファルとティニーもあああいの存在を無視し、ヤサカの話を聞く。
「あそこにいる白衣を着た2人のプレイヤーが、とある研究所に保管されていたウィルスを運んでたんだって。でも、途中で事故に遭っちゃって、ウィルスがNPCに感染、こんなことになっちゃったみたいだよ」
屋上で頭を抱える白衣のプレイヤー2人が、元凶というわけか。
ところで、とある研究所のウィルスとはなんなのか。
ヤサカはこの疑問にも答えてくれる。
「ビーフさんが現状をトニーさんに伝えたら、トニーさんが有力な情報をくれたんだ。とある研究所に保管されてたウィルスっていうのは、ゲーム製作者の
「このゲーム、そんなクエスト用意してたのか」
「だけど、カミが事件を起こしてから、ゾンビクエストは凍結されてたみたい。ただ、クエストを起こすためなんだろうけど、NPCはウィルスの扱い方がずさんだったらしいんだ」
「なるほど。ゾンビクエストは、いつか起きるかもしれないバイオ事件になったってことか。で、俺たちはそれに巻き込まれたと」
「うん、そうみたいだね。私たち、運が悪すぎるよ」
「安心しろ。俺の幸運ステータスは高いからな」
「頼りにしてるよ、ファルくん」
そう言って微笑むヤサカに、ファルもやる気アップだ。
ティニーはゾンビを眺めながら、ヤサカに質問する。
「メリア軍、来る?」
「ああ、言い忘れてたよ。1時間後に、メリア軍が空爆しに来るみたい」
「クーノ、いつ来る?」
「30分以内に来てくれると思う。メリア軍の空爆には間に合いそうだね」
「分かった」
ヤサカの答えを聞いて、ティニーはミードンを肩から下ろし
そして、地上にいるゾンビたちを
おそらくクーノが来る前に、SMARL衝動を発散しようとしているのだろう。
「ところでファルくん、ラムはどこにいるの?」
「悪い、あいつの居場所は分からないままだ」
「そうなんだ……無事だと良いんだけど……」
「まあラムダのことだ。どうせ『ゾンビとの戦いです! 楽しいです!』とか言って、ひょっこり出てくるんじゃないか?」
「かもしれないね。きっと、自走対空砲とかに乗って、暴れ回ってるよね」
あまりラムダのことを心配しないファルとヤサカ。
2人は知っているのである。
ラムダのテンションの前には、ゾンビなど敵ではないことを。
クーノが到着するまで、長くとも30分。
ファルたちは屋上にゾンビがやってこないよう、地上のゾンビへの攻撃を開始した。
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