ミッション10—2 ヘレンシュタットへの道
何か検問所を突破できる方法はないか。
路肩に停められたワゴン車内で、必死になって考えるファルたち。
最初に口を開いたのはティニーだ。
「
「却下。他に意見がある奴は?」
「はい!」
「よしラムダ」
「戦車で――」
「却下。他には?」
まともな方法が出てこない。
アレスターや警察を殺して手配度を上げたくない現状、戦闘行為は慎むべきだ。
しかし、ヤサカとホーネットが頭をひねっても、戦闘行為なき突破は思いつかない。
唯一思いついたのは、ファルの以下の方法だ。
「検問所のNPCを取っ捕まえて、俺のコピーNPCと入れ替える。で、検問を普通に通り抜ける。これでどうだ?」
正直、これしか思いつかない。
森を抜け検問をやり過ごす手も考えたが、森にはアレスターがいる可能性もある。
アレスターと戦うぐらいならば、検問を突破した方が楽だ。
「難易度は高そうだけど、それが確実かもね」
「異論なし」
「ヤーサとティニーが良いと思うなら、それでいいです! 考えるの疲れちゃいましたから!」
ファルの案にはヤサカとティニー、ラムダも賛成。
だがホーネットは、素直に首を縦に振ろうとしない。
「コピーNPCって、チート技でしょ? あんまり簡単に賛成したくないんだけど」
「んなこと言ったって、じゃあどうするんだ? 対案でもあるのか?」
「いや……まあ、対案はないんだけど……」
「今は仕方がないよ。ホーネット、どうしても認められないかな?」
「…………」
「沈黙は賛成ってことだな」
チートを使うことに難色を示すホーネットも、背に腹は変えられない。
彼女は賛成もしなかったが、反対もしないようだ。
これで作戦は決まりである。
作戦が決まれば、ただちに行動。
ワゴン車にはティニー、ラムダ、ホーネットが残り、ヤサカとファルはゆっくりと検問所に近づいた。
「パトカー2台、警官NPCは4人。小規模な検問みたいだね」
「見ろよ、2人はパトカーでスマホに夢中だ。職務怠慢の警官NPCたちだぞ」
「運が良いね」
4人中2人が事実上の職務放棄、残る2人もやる気なさげに、大きなあくびをしていた。
しかも、さらなる幸運が重なる。
1人の警官NPCが、電話のために検問所を離れたのだ。
自分の幸運ステータスの高さに感謝するファル。
これは絶好のチャンスだ。
「あの警官NPCを取っ捕まえるぞ」
「うん、そうしよう」
検問所から離れた警官NPCの背後に近づくファルとヤサカの2人。
2人は警官NPCが電話での会話を終えるのを待った。
数分して、電話を切る警官NPC。
やるなら今しかない。
「今だヤサカ」
「分かってるよ」
孤立した警官NPCのすぐ背後に立ったヤサカは、警官NPCの首を絞め、一瞬で気絶させる。
そしてファルとヤサカが警官NPCを近くの岩の陰に運ぶ。
運ぶ最中であった。
もう1人の警官NPCが、ファルたちのもとに近づいてきたのだ。
ファルとヤサカの鼓動が早くなる。
「おい、大丈夫かこれ?」
「ええと……多分ダメ。逃げよう」
とてもじゃないが、気絶した警官NPCを岩の陰に隠すのは間に合わない。
仕方なく、気絶した警官NPCを放置し岩の陰に隠れるファルとヤサカ。
「おい、こんなところでサボってる場合か?」
警官NPCは、目の前でうつ伏せに倒れる同僚が気絶していることに気づいていないようだ。
しかし、警察官NPCが同僚の気絶に気づくのは時間の問題。
そこでファルは、一か八かアビリティ『潜伏』を使い、口を開く。
「いやぁ仕事が退屈でな」
(ファ、ファルくん!? 腹話術のつもり? それは無茶だよ……)
自分の存在感を消し、警察官NPCのフリをして、普通に喋りだすファル。
完成度の低すぎる腹話術、あまりに突飛な行動に、ヤサカは万が一を考え武器を手にした。
「車が来たらすぐ起きるさ」
うつ伏せになったまま声を出す者などいる訳がない。
しかも岩の陰から発せられる、ファルそのまんまの声。
どう考えたっておかしな状況。
しかし、イミリアのAIは、たまに変な判断を下すのだ。
「ホントだな? 起きなかったら、上司にチクってやる」
「やめてくれよ。減給は勘弁だ」
「だったらきちんと起きろ」
(え! 話が通じてるの!? あのNPC、警官NPCが喋ってると思ってるの!?)
驚きを隠せぬヤサカだが、声が出せず苦労する。
対してファルは、この無謀にもほどがある腹話術がうまくいったことに大喜び。
「起きるから、心配すんな。ほら、お前こそ仕事サボるなよ。俺が仕事サボれないだろ」
「はいはい」
警察官NPCを追い返すことに成功した。
ファルのあまりに苦しすぎる作戦が、功を奏した。
「見ろよヤサカ。俺、すごくないか?」
「いや……さすがにこれは、NPCのAIがおかしかっただけだと思うよ……」
「だよな」
別にファルはすごくない。
ただ、NPCのAIが無能すぎただけだ。
さて、気絶した警官NPCを岩の陰に運ぶと、ファルは即座に警官NPCをコピー。
気絶した警官NPCと全く同じ姿形のコピー警官NPCを出現させた。
ファルはコピー警官NPCに対し、命令する。
「ワゴン車が検問所に着いたら、お前がそのワゴン車を検問するんだ。で、ワゴン車に乗ってる俺の合図で、検問の必要なしと判断して、俺たちを通してくれ。分かったな」
「了解シタ」
これで準備は完了だ。
ファルとヤサカは、そそくさとワゴン車に戻った。
「お疲れ様です! お帰りなさいです! うまくいきましたか?」
「俺を信じろ」
「あんまり信じられないです!」
「じゃあヤサカを信じろ」
「ヤーサなら信じられます! この作戦、必ずうまくいきますよ!」
「どうしてラムダは俺の心を傷つけるのか……」
「出発するよ。いざとなったら、あたしが大暴れするから任せて」
「その時は、私も手伝うね」
あとは祈るだけだ。
ワゴン車は平然と、検問所へ向かう。
検問所に到着すると、1人の警官NPCが話しかけてきた。
先ほどのコピーNPCではないようだ。
「そこで止まって。検問にご協力を――」
「待ッテクレ。俺ガヤル。さぼッテルダケジャ減給サレチマウカラナ」
「はいよ、任せた」
うまいこと検問員を交代するコピーNPC。
今度のAIは優秀らしい。
「検問デス。ゴ協力ヲ」
「どうぞ」
検問を開始するコピーNPC。
彼はワゴン車の中を覗き込んでくる。
それに対し、ファルは身振り手振りで簡単な合図を出した。
ファルの合図を確認したコピーNPCは、検問を中断。
ホーネットに検問所を通るよう指示を出す。
「検問終了デス。通ッテクダサイ」
「はいはい、どうも」
スムーズに検問所を通り抜けるファルたち。
作戦は大成功だ。
色々な意味で、イミリアのAIに感謝しなければならない。
「やりましたよ! あっさり通過ですよ! さすがですヤーサ!」
「褒めてくれてありがとう」
「俺は? コピーNPCは俺の手柄だぞ?」
「あ! すみません、忘れてました! ファルさんもすごいです!」
「忘れるなよ……もう泣きたいんだけど」
「トウヤ、たまに頼りになる」
「ありがとうなティニー。お前はいつも中途半端に俺の味方だよな」
素直に喜ぶヤサカたちと、ラムダ、ティニーのせいで素直に喜べないファル。
それでもファルは、楽観的なことを口にした。
「国境線のNPCが今回くらい無能だったら、わりとあっさりメリアに逃げられるかもな」
これに対し、ホーネットはすかさず反論する。
「こんな田舎道の検問と国境線の検問を一緒にするなんて、油断しすぎ」
「そんなことは分かってる。ただ、ちょっとぐらいポジティブなことを言ってみただけだ」
「おお! ファルさんよ、やっぱりポジティブ思考は大事ですよね!」
「まったくだ。ホーネットも少しはラムダを見習え」
「うるさ」
ひとつの難題を切り抜け、緊張感が和らいだファルたち一行。
これでも彼らは、一国家から追われている最中なのだ。
なお、検問所のコピーNPCはその後バグり、地面に埋まりどこかへと消えていった。
これにより他の警官NPCが大混乱に陥ったのだが、ファルたちはそれを知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます