ミッション9—6 宝は誰のもの?

 たった1人、暗闇の中から現れたディーラー。

 そんな彼に対し、プレイヤーたちの不満が爆発する。


「おい! 俺たちは幽霊に襲われて大変だったんだぞ!?」


「そうよ! モンスターはいないって言ってたじゃないの!」


 プレイヤーたちの恐怖は怒りに変換され、その怒りがディーラーにぶつけられる。

 だがディーラーは動じない。

 動じないどころか、未だ楽しそうにプレイヤーたちに反論した。


「ンン? 君たちは〝何を〟言っているんだ? 確かにオレは〝モンスター〟はいないと言ったが、〝幽霊〟がいないとは一言も言っていない」


「ふざけてるのか!? 幽霊だってアンデット系の立派なモンスターだろ!」


「ああ! そういう〝解釈〟だったのか! いいね、いい〝ゲーム心〟じゃないか! でも不思議だ。なぜ君たちは〝幽霊〟との戦いを楽しまない? 〝ダンジョン〟で〝敵〟と戦う、これこそ最高の〝ゲーム体験〟じゃないか」


「お前……何を言ってるんだ……?」


 お互いにお互いを理解できない様子のプレイヤーたちとディーラー。

 両者の間に漂う空気は悪くなるばかり。


 一方でティニーは、彼らの会話などお構いなしだ。

 彼女は先ほど除霊爆破した幽霊に近寄り、幽霊を観察していた。


「これ、冒険者ギルドの人」


 幽霊を観察していたティニーが導き出した答え。

 まさかの答えに驚いたファルは、ティニーとともに幽霊を凝視する。

 すると確かに、幽霊の正体は冒険者ギルドのプレイヤーであった。


「冒険者ギルドの人が、幽霊に扮して俺たちに襲いかかってた? どういうことだ?」


 しばらくして、死亡エフェクトに包まれる幽霊。

 幽霊が死亡とは、これ如何に。


「おっと、〝バレた〟か」


 わざとらしくおどけてみせるディーラー。

 プレイヤーたちの怒りと不信感は限界値だ。

 おっさんプレイヤーの1人は、今にもディーラーに掴みかかりそうな勢いで叫ぶ。

 

「説明しろ! なんでお前の味方が俺たちを襲った?!」


「なぜ〝襲った〟のか? 君たちを〝楽しませる〟ために決まってるだろ」


「はあ?」


「何も起きない〝ダンジョン〟ほど〝退屈〟なものはない。ダメだ! そんなダンジョンはダメだ! 襲いかかってくる〝敵〟を倒してこそ、本当の〝ダンジョン〟の〝楽しみ〟が体験できる!」


 能面を付けていようと、ディーラーの目がプレイヤーたちをじっと見ているのが分かる。


「君たちのような〝ゲームを楽しみたい〟プレイヤーを、〝遊具〟のない〝遊園地〟に連れて行くことはできない。だから! オレたちが〝遊具〟になったんだ! 君たち、オレたちが作った〝遊園地〟は楽しかっただろ?」


「……てめえの仲間はあそこで死んでる。てめえの仲間を犠牲にしてまで、そんなことをする意味はあるのか?」


「犠牲? なんだ、君たちも結局は〝カミの奴隷〟か。いいか? ここは〝ゲーム世界〟だ。〝命〟? そんなものは存在しない。死ねば蘇る。それが〝この世界〟の〝ルール〟だろ。この世界において、オレたちは〝遊具〟に過ぎない」


 プレイヤーたちは押し黙る。

 ディーラーの怪しい気迫に、返す言葉が見つからない。

 困ったことに、ディーラーの言葉は間違ってはいないのだ。


 静けさに包まれた地下室。

 ここでディーラーは、プレイヤーたちを横目に扉の前に向かった。


「まあ、なんでもいい。君たちは〝ダンジョン攻略〟を成し遂げた! さあ、〝お宝〟を手に入れる時間だ!」


 扉の前に立ったディーラーはそう言って、扉を開ける。

 すると扉の向こう側には、大量の金塊が、棚にぎっしりと並べられていた。


 金塊を前にして目の色を変えるプレイヤーたち。

 金銀財宝への欲望は、プレイヤーたちの怒りを溶かしつくしてしまったようだ。

 そして、その欲望を、ディーラーは利用するのだ。


「なんということだ! ここで〝お宝〟を手に入れてしまえば、〝ゲーム〟が終わってしまう! ああ! 寂しい! ……だが〝安心〟してくれ。まだ〝ゲーム〟は終わらない」


 宝に群がろうとしていたプレイヤーたちは、ディーラーの言葉を聞いて足を止める。

 

「まだ……なんかあんのか?」


「ああ。〝お宝独り占め大会〟だ。オレたち全員で〝殺し合い〟をしよう。君たちは仲の良い〝プレイヤー〟と協力して、〝敵〟を殲滅しても良い。〝お友達〟を殺して〝お宝〟を独り占めしても良い。細かいことは〝君たち〟に任せた」


 なんとも殺伐とした〝ゲーム〟を提案するディーラー。

 いくらなんでも、この提案に相手するプレイヤーはいなかった。

 

 誰も〝ゲーム〟に乗ってこないことに、ディーラーはため息をつく。

 そして彼は、おもむろに銃を手に取った。


「やらないのか? 誰も? じゃあ、オレが〝はじめよう〟」


 そう言ったのと同時、ディーラーはおっさんプレイヤーの1人を撃ち殺した。

 突然のことにラムダは驚き、ファルは声を荒げる。


「撃っちゃいましたよ!? 殺しちゃいましたよ!? もう、めちゃくちゃです!」


「お前……どうかしてるぞ! 何が目的だ!?」


「君たちと〝ゲーム〟を楽しむ。それだけさ」


 当たり前のように言い放つディーラー。

 ファルは言葉を失い、呆然としてしまった。


 ディーラーが放った銃弾により、〝ゲーム〟ははじまってしまう。

 最初に行動を開始したのは、おっさんプレイヤーたちであった。


「ハッ! 殺し合いがはじまっちまったなら仕方ねえ!」


 きっとおっさんたちは、宝独り占めのためディーラーのゲームに参加したいという思いを、理性で抑えていたのだろう。

 だがディーラーの銃弾がトリガーとなり、おっさんたちの理性は吹き飛んだ。


 おっさんはすぐ隣にいた女性プレイヤーを殺害。

 友達を殺された女性プレイヤーは、おっさんを口汚く罵る。


「何するのよ!? 良い歳してゲームなんかしてるおっさんなんか死ね!」


 女性プレイヤーの反撃により、おっさんの1人が刺殺される。

 だが、すぐに死んだおっさん2人、女性1人はリスポーンした。

 

「小娘が生意気言うんじゃねえ!」


「うるせえよ! おっさん!」


「死ね!」


「じじいこそ早く死ね!」


 まさしくディーラーの望んだ通り、プレイヤーたちは殺し合いを続ける。

 ディーラーの笑い声が響く中、殺し合い、死亡し、リスポーンし、また殺し合うプレイヤーたち。


「やばい……あいつらを止めるぞ!」


「そうだね。みんな! 少し頭を冷やしてください!」


「ケンカはダメですよ! 宝物はみんなで平等に分け合いましょうよ!」


「落ち着いて」


 殺し合いを止めようとするファルたち。

 ところが、プレイヤーたちは聞く耳を持たない。

 

 ついにはおっさんの1人が、手榴弾を投げ込んだ。

 手榴弾により女性2人は死亡し、おっさん2人も巻き込まれ死亡する。

 生き残ったのは、手榴弾を投げ込んだおっさん1人だけ。


「よし! 兄ちゃん嬢ちゃん! お前たちも――」


 殺し合いの相手をファルたちに変えたおっさんだが、彼は言い終わる前に死亡した。

 なぜなら、ディーラーに頭を撃ち抜かれてしまったのである。


「オレも楽しい〝ゲーム〟の一員だ。忘れないでほしい」


 おっさん3人と女性2人は、全員が死亡した。

 これで、5人がこの場所にリスポーンすることはない。

 地下に残されたのは、ファルたち4人と1匹、そしてディーラーだけだ。


 ディーラーは銃口をファルに向けている。

 とはいえ勝負は4対1、ディーラーに勝ち目はない。


 ディーラーが銃を発砲した瞬間、ヤサカはスキル『シールド』を発動した。

 そしてヤサカは、目にも留まらぬ速さでディーラーとの距離を詰める。

 

「君、やっぱりただの〝怖がりさん〟じゃないようだ」


 迫るヤサカに対抗し、踊るように後方へと跳躍するディーラー。

 もちろん、ヤサカはディーラーの動きなど予測済みだ。

 ヤサカはサブマシンガンで弾丸をばら撒き、そのうちの数発がディーラーの足に食い込んだ。


 足を撃たれ、ディーラーは地面に倒れる。

 ところがディーラーは、余裕のある口調で言い放った。


「知ってるぞ。君たちは〝リスポーン〟できないことを」


 意外な言葉がディーラーの口から飛び出した。

 彼はヤサカなど気にせず、今度は銃口をラムダに向ける。


 ディーラーの持つ拳銃から放たれた弾丸は、ラムダの眉間めがけてまっしぐら。

 この弾丸を、ラムダは避けられない。

 

 しかしそれでも、弾丸がラムダに当たることはなかった。

 ラムダを狙った弾丸は、ファルが増殖させたコピーNPCを殺したのだ。

 ファルが増殖させたコピーNPCが身代わりとなり、ラムダを救ったのだ。


 驚くディーラー。

 直後、彼はヤサカに銃を突きつけられる。


「もう、ゲームは終わりだよ」


 さすがのディーラーも降参したのか、武器を手放した。

 ディーラーのはじめた悪趣味なゲームは、ようやく終わりを告げたのである。

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