ミッション4—4 モンスター狩り

 現実世界をリアルに再現した世界観が売りのイミリア。

 当然、ダンジョンである坑道内部も、ゲーム世界とは思えぬリアルさだ。


 土の壁に囲われた狭い通路が、不安を呼び起こす

 冷たい空気が肌に突き刺さる。

 ライトで照らす暗闇の先が、恐怖心を煽る。

 

「暗いな……いつどこからモンスターが出てきてもおかしくなさそうだ」


「そうだね。戦闘態勢は崩さないようにしないと」


「私のSMARLスマールに任せて」


「ティニー、お前のSMARLには任せられない」


「……どうして?」


「そりゃ、こんな狭いところでロケラン撃ったらどうなるかぐらい、想像つくだろう」


「ファルくんの言う通りだよ。ティニー、SMARL以外に使える武器はないの?」


「SMARL以外……」

 

「例えば、お前がSMARLの次に愛する武器とか」


「ある。AMR82」


「じゃあ、それでも持っておけ」


「12・7ミリ弾の対物ライフルか。ティニーらしいチョイスだね」


 ティニーは早速、SMARLをインベントリーにしまい、AMR82を手にする。

 SMARLを持っていないティニーに違和感を感じるファル。


 しかし、ロケランであろうと対物ライフルであろうと、ティニーの体格に不釣り合いな大きさの武器であることに変わりはない。

 陰陽師姿に似合わないのも変わりはない。

 結局、ティニーはいつも通りだ。


「とにかく、モンスターが出てきたら――」


「何か聞こえる」


「私も、何か聞こえた。これは……先にいるプレイヤーのみんなの声?」


 ティニーとヤサカが聞こえた何かの音。

 ファルも耳を澄ませると、たしかに悲鳴にも似た叫び声が聞こえる。

 それだけではない。坑道の奥では銃声が鳴り響いているのだ。


「モンスター出現か!?」


「戦闘、はじまった」


「よし! 俺たちが助けに行くぞ!」


「ファルくん、ティニー、待って。別の音が聞こえる」


「別の音?」


「これは……足音かな。天井や壁を歩いてこっちに近づいてきてる」


「……モンスターか?」


「そう思った方が良いと思うよ。大きさは……あんまり大きくはなさそうだね。ただ、数が多い」


「ヤサカ、すごい。音だけで分かるの?」


「アビリティ『スナイパー』とスキル『敵察知』のおかげでね」


「マジか……ってことは、間違いなく大量のモンスターがこっちに来てんだな?」


「うん」


「……戦闘準備! モンスターとの初対戦だ。油断するなよ!」


 坑道の先、暗闇に銃口を向けるファルたち3人。

 ファルは緊張から、すでに拳銃の引き金に指をかけている。


 しばらくすると、ファルの耳にもモンスターの足音が聞こえてきた。

 想像していたよりも軽快な、土壁を削るような音が、無数にだ。

 しかし、ライトが照らす範囲にモンスターは姿を現さない。


「ファルくん、息が荒くなってる。落ち着いて」


「分かってる。分かってるんだけど……」


「トウヤ、冷静になって」


「おいティニー、逆になんでお前はそんな冷静なんだ?」


「相手は妖。怖がる必要ない」


「ああ、参考にならないアドバイスありがとう」


 今すぐにでもファルは逃げ出してしまいそうだ。

 ヤサカとティニーの方が、ファルよりもよっぽど心が強い。

 いや、ティニーは心がバカになってるだけなのだが。


 数秒が経過し、モンスターの足音はすぐそこまで迫っている。

 いつ襲われてもおかしくはない。


 その時だった。

 緑色の肌に赤い目をした小さなモンスターたちが、奇声をあげて、暗闇の中からファルたちに向かって飛びかかる。

 ファルは反射的に拳銃を発砲、経験値10という表示とともにモンスターの死体が地面に横たわった。


「ゴブリンだ! 撃て撃て!」


 リアルな見た目の、なかなか気味が悪いゴブリン。

 それが暗闇の中から次々と現れるのだ。

 ファルは半狂乱になりながら、拳銃を乱射するだけ。


 対してヤサカとティニーは冷静だ。

 ヤサカは無数のゴブリンとの距離を確認し、最も近いゴブリンから確実に撃ち殺す。

 ティニーは目に入ったゴブリンを片っ端から粉々にしていった。


 銃弾を受け青い血を飛び散らせるゴブリン。

 12・7ミリ弾を受けバラバラに飛び散るゴブリン。

 18禁ぎりぎりのゴア表現だ。

 リアルな映像として目の前にするには、少々厳しいものがある。


「倒しても減らない」


「こいつらどんだけ出てくんだ! 無限湧きか!?」


「分からないけど、今は撃ち続けるしかないと思う!」

 

 ファルたちの足元には薬莢の山が、ファルたちの前にはゴブリンの死体の山が。

 銃弾1発でも当てれば倒せるゴブリンではあるが、これではきりがない。

 リロード再装填をしている暇が辛うじてある、という状態だ。


 今更になってファルはコピーNPCを出さなかったことを後悔する。

 狭い通路でバグったコピーNPCがバウンドするのを恐れたためだが、大量のゴブリンには大量のNPCで対抗すべきであった。


 ここで、後悔と同時にファルは気がつく。

 ゴブリンたちの背後に、翼をはためかせた、赤い目を光らせるモンスターがいることに。

 

「おい! 奥になんかいるぞ! あいつを撃て!」


「分かった!」


 ファルの言葉を聞いて、ヤサカも翼を持つモンスターに気がついたらしい。

 彼女はゴブリンを撃ちながら、翼を持つモンスターに照準を合わせ、銃弾をばら撒いた。

 ところが、ヤサカの放った銃弾は有効なダメージをモンスターに与えていない。


「耐久度が高すぎるみたい! 5・56ミリ弾じゃ効かない!」


「ってことは拳銃弾もダメか……」


「ティニー、AMR82なら倒せると思う! あのモンスターはティニーに任せるよ!」


「任せられた。呪文で倒す」


 ヤサカに言われ、ティニーは翼を持つモンスターに銃口を向け、呪文を捧げる撃つ

 放たれた呪文12・7ミリ弾は、衝撃波をまといながらモンスターの胸に直撃。

 翼を持つモンスターは断末魔をあげ、地面にばったりと横たわった。


 するとゴブリンたちは、ファルたちを恐れ後ずさる。

 どうやら翼を持つモンスターがいなければ、ゴブリンは戦意を失うようだ。

 

「終わった、のかな?」


「終わったみたいだ。ゴブリン相手でも、結構大変だったぞ」


「でも戦い方が分かったから、次はもう少し楽に戦えるんじゃないかな」


「経験値、100入った」


「さっきのモンスターの経験値か。たぶんあれ、ガーゴイルだろ」


「うん、ガーゴイルだね。耐久力の高いモンスター相手には、威力の高い銃を使った方が良いかもしれないよ」


「確かに。おいティニー、ショットガンを――」


「ショットガンはダメ」


「……マグナム銃をくれ」


「ちょっと待って」


 新たな武器を出現させ、ファルに手渡すティニー。

 だがファルは困り顔。


「……あの、リロードの速さ的にはリボルバーじゃなくて、オートが良いんだけど」


「リボルバーの方が見た目がかっこいい」


「……なあ、リボルバーじゃなきゃダメか?」


 コクリと頷くティニー。

 ガクリと肩を落とすファル。

 ティニーのこだわりには困ったものだ。


「きっと、他のプレイヤーたちは苦戦してるかもしれないよ」


 MP70をアサルトライフル――MR4に持ち替えたヤサカがそう言う。

 イミリア最強プレイヤーの1人の言葉だ。

 ファルも彼女の言葉に従う。


「そうだな。まだ銃声も聞こえてくるし、先を急ごう」


「トウヤ、質問」


「なんだ?」


「プレイヤーたち、死ねばログアウトされない?」


「いや、されないだろ。あのプレイヤーたちはまだイミリアへの迷惑度が低い。たぶんここで死んでも、リスポーンするだけだ」


「リスポーンするなら、急いで助ける必要ない」


「……確かにそうだ。別に急ぐ必要もないかもな」


「ファルくん! ティニー! なんでそういう結論になるの!? ほら、プレイヤーのみんなを助けに行こうよ!」


 ダンジョン攻略はまだはじまったばかりだというのに、やる気が半減してしまったファルとティニー。

 ヤサカはそんな2人を引っ張り坑道の奥へと急ぐのだった。

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