秋
「そこの翼人。ちと尋ねたい」
配達の途中、唐突に声を掛けられて振り返れば、そこにはすらりとした長身の男が立っていた。
(おっさん!? ……じゃないよな)
輝く髪に緑の双眸、そして長い耳。特徴だけ見れば某店主とそっくりなその男は、しかし無精髭も生やしていなければ、服を着崩してもいない。そもそも雰囲気がまるで違う。彼はこんな――居丈高な物言いはしない。
「この辺りに《
「《古の森人》? ……いや、聞いたことないですけど」
この辺りのことは頭に叩き込んだはずだが、そんな大層な呼び名の住人にはとんと心当たりがない。
「なんでも、骨董店を営んでいるというのだが……」
「ああ、骨董店……骨董店!?」
この街に骨董店は一軒しかない。――そう、あそこだ。
「おっさん! おっさーん!」
どかどかと扉を叩き続けること数分。のんびりと姿を現した『ユージーン骨董店』のぐうたら店主は、どうかした? と不思議そうに首を傾げてみせた。
「何かあったの?」
「いるならすぐに出てこいよ! って、そうじゃなくて! この人が、あんたを訪ねてきたみたいなんだけど――」
「貴殿が《古の森人》か」
オルトを押しのけるようにして進み出た長身の男は、じろじろと店主を眺め回し、そして唐突に吐き捨てた。
「なんだ――《折れ耳》ではないか」
事情を知らないオルトにも、それが蔑みの言葉だと分かるほどに、その響きは冷酷で。
「噂の《古の森人》が、一族の誇りを失った敗北者とはな。わざわざ立ち寄る価値もなかったか」
「おい、てめえ! いきなり押し掛けてきて、なんだその言い草は!」
思わず食ってかかったオルトを押しとどめて、ユージーンは静かに首を振る。
「彼の言うことは間違ってないし、僕は別に気にしてない。だから、君が怒る必要はないんだよ」
「でも!」
もう用はないとばかりに無言で去っていく男。その背中が見えなくなるまで待って、ユージーンはオルトの肩から手を離すと、照れたように笑った。
「僕のために怒ってくれてありがとう」
「……別に。あの訳わからんエルフ野郎が気に食わなかっただけだ」
「まあ、初対面であの態度はないよねー」
頭を掻こうとした手を止め、その手でそっと左耳を撫でる。
「せめて、垂れ耳って言ってくれないかなあ。その方が可愛いじゃない?」
「……そういう問題かよ」
そういう問題だよ、と笑う彼は、いつもより凛々しく、そしてどこか――寂しげだった。
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