薔薇の蕾

 あの方と初めてお会いしたのは、留学先での友人との観劇の時でした。

 途中で気を失い、倒れた私を救護室まで抱えて運んでくださったのが、たまたま近くで観劇されていたあの方だったのです。


 せっかくの観劇を私の所為せいで途中退席させてしまい、本当に申し訳なく思いました。

 それなのにあの方は、私が動けるようになるまで側にいて、話し相手になってくださっただけでなく、素敵に提案をしてくださったのです。

「劇が途中までになってしまいましたね。後日、二人で見直しませんか」

「それでは、今日のお礼に、私がご招待させていただきます」

 次のお約束ができたことが、とても嬉しく思いました。


 好きな方と一緒になる、それが叶わぬ望みだということは、重々承知しておりました。

 けれども、少しくらい、国元を離れている時くらい、思い出を作ったっていいじゃありませんか。

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