返品はできません。家族ですから。

「ですから、ヨリさん。あなたに“妹が当選した”んですよ! おめでとうございます!」


 OK、わかった。何かのイタズラだろう。だから、

「帰ってくれますか?」

 俺は言う。

 だが、


 ――ガチャリ。


 突然、ドアの鍵があいた。そして、


「それではヨリさん、妹をここに置いていきますから。あとはよろしくお願いしますね」


 配送業者は二人がかりで俺の家に荷物を運び入れる。

 長さ2メートルほどの棺桶サイズの荷物が、ファンシーな柄の包装紙に包まれている。

 しかもご丁寧なことに、リボンまでついてやがる。


「ええ。わかりました。じゃあ、そこに置いていってください……って、おい! 違うだろ! 早くそれを持って帰れ!」

「それはできません」配送業者は荷物をドスンと玄関に置く。

「何でだよ! 俺は妹が当たるキャンペーンに応募した覚えはないぞ! つーか、そんなキャンペーンがあることすら知らねーぞ!」

「これはキャンペーンなどではありません。入念な計画と厳密な手続きを経て実現した、いわば“彼女の希望”です」

 ――は?

 ……何をワケのわからないことを言ってやがる!

「とにかくだ! これはいらない! 返品だ! 今すぐクーリングオフを適用しろ!」

「ですから、返品はできませんって」

「だから、何でだよ!」

 すると配送業者は、俺の目を見据えた上で、こう言った。


「家族を返品するなんて、できますか?」


 そうか。そうだよな。納得!……するわけねーだろ!

「ふざけんな! いいから早く持って帰れ!」

 しかし配送業者たちは俺の叫びなんて無視し、撤収し始める。

 肝心な荷物を置いて。


「お、おい! 待てよ!」


 俺は配送業者を追いかける。

 が、奴らはそそくさと家の前に停めてあったトラックに乗り込む。

 そのトラックのコンテナには〈ORiGAオリガ〉と書かれており、そのトラックで奴らは逃げるようにして走り去ってしまった。

 俺は家の前で呆然と佇み、小さくなっていくトラックの後ろ姿をただ眺めることしかできない。その末に、


「はあ……」


 大きな溜息を吐く。

 いったい何なんだ。よりによって、俺に妹なんて……。

 俺は玄関に放置された荷物を眺める。

 それにしても、ホントにアレが妹なのか?

 俺は玄関に戻り、あいつらが置いていった荷物の傍でしゃがむ。

 それからリボンを解き、包装用紙を剥いていく。

 すると、シルバーの塗装が施されたポットが俺の目の前に現れた。

 そしてポットの上部には、30センチくらいの丸い覗き窓がついている。

 その外観はまさに、SF映画とかによく出てくるコールドスリープのポットに似ていた。

 俺は丸い覗き窓から中を覗く。


「はあ……」


 俺の口から、また大きな溜息が漏れる。

 なぜって?

 だってほら、配送業者が言ってたとおり、このポットの中にいるからだよ。

 何がって? だ、か、ら、


 ――俺の妹が! だよ。


 ポットの中には妹がいて、妹は目を閉じて静かに眠っている。

 俺は驚きを隠せない。

 口をポッカリと大きく開けているから、傍から見れば間抜けな顔をしているだろう。

 それにしても、この妹はどうしたら目を覚ますのだろう?

 もしかして、『眠れる森の美女』の王子様みたいに、キスでもすればいいのか?


 ……まあ、誰も見てないことだし……試してみる価値は、あるかもな!


 しかし、ポットの開け方がわからない。

 どこかにスイッチがあるのかもしれない。

 俺はスイッチを探そうと、ポットの隅々まで目を凝らす。

 それでも見つからないので、手の感触を頼りに、ポットの表面を隅々まで撫でまわす。

 するとある部分に触れたときだ。


 ポットが反応した。


 ピピピッという電子音が鳴る。

 その後、ブーンという音を立てながら、ポットのハッチがゆっくりと開き始める。

 そしてポットの中の妹の全身が露わになる。


 ――もしかして、裸かもしれない!


 一瞬、身構えてしまった。

 だが、そんな俺がバカだった。

 妹は既に服を着ていた状態で横たわっていたからだ。

 ポットのハッチが開ききったところで、妹は目を瞑ったまま上半身を起こす。

 それから両腕を上げ、上半身を大きく伸ばす。

 まるで寝起きの伸びをするように。

 次に目を開け、辺りを見回す。

 そしてその瞳が俺を捕えた、その瞬間――


「あ、久しぶり! お兄ちゃん!」


 妹は満面の笑みを浮かべながら、俺にそう言った。

 それにしても、いきなり会って“久しぶり”とは……そう来たか!


「念のため聞くが、お前は誰なんだ?」


 すると目の前の妹は、ガラス玉のような大きな瞳を見開きながらポカーンという顔をした後、至極当然といった具合に、こう言った。


「決まってるじゃない、お兄ちゃん。私は“お兄ちゃんの妹”で、ハヅキだよ」


 なんてこった。

 ホントに俺に、妹が当選しやがった。

 にしても、何で俺に妹が当選したんだ。

 そして俺は、この妹とこの先、どうやって過ごしていけばいいんだ?

 こんな悩める俺に対して、妹はどんな気遣いをするのだろう?

 そんな淡い期待をこめながら、俺は妹を見る。

 すると妹は、無垢な笑顔を俺に向けながら、なんと、こう言いやがった。


「それじゃあ、お兄ちゃん! 早速だけど、私とエッチしよ!」


 おい! やっぱりコイツを返品させてくれないか?

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