　意気消沈して「手の平のみずうみ」にアクセス。今日も掲示板では同じ手汗の悩みを持った者同士が、和気あいあいと話をしている。僕も仲間に入りたい。このつらい気持ちは、同じ手汗持ちにしか分かってもらえない。僕は「しんちゃん」というハンドルネームで、初めて掲示板に書き込んだ。

「はじめまして！　手汗で悩んでいる大学生のしんちゃんと言います。同じ症状の方がたくさんいてビックリしました。仲間に入れてもらえると嬉しいです♪」

　ドキドキして待っていると、最初に返事をくれたのは、ひろしさんだった。

「しんちゃんさんこんばんは～。サラリーマンをやってる＠ひろしと申します。手汗の悩みは大変だよね（＞＜）。ここは何でも好きに話してね。話すだけでも気が楽になりますよ。これからも気軽にカキコしてね♪」

　なんてやさしいんだ！　嬉しい気持ちが込み上げる。手汗のことを相談できる人なんて、今までいなかった。でもこれからは違う。手汗の悩みがあったらこの掲示板に書き込めばいい。顔は見えないが、親身になって話を聞いてくれる。

　気が付くと「手の平のみずうみ」に毎日アクセスしている。僕にとって掲示板は、心のオアシス。気兼ねなく手汗の話をできるのが嬉しくて、気持ちが少し楽になる。

　ただリアルな現実世界では、あいかわらず一人ぼっちだった。パチンコ屋に入り浸り、ろくに大学の授業にも出ていない。人と関わらないから女子との出会いも全くなし。手汗の治療も「ドライオニック」、「塩アル」ともに僕には合わなかった。残る治療法は「手術」のみ。でも手術をして本当に手の汗が止まるのだろうか？　どういう仕組みなんだろう？　ネットで調べてみる。

　手術は「ＥＴＳ」と呼ばれていて、脇に穴を空けて内視鏡を入れ、交感神経を切るというもの。交感神経を切ると、手の平の汗がほぼ止まるらしい。

　最高じゃん！　と思ったが、100％現れる「副作用」があるとのこと。それが「代償性発汗（だいしょうせいはっかん）」。止まった手の平の汗が、体の他の部分に出るというもの。あと、手の平から全く汗が出なくなるので、手の平がカサカサになる人もいるとのこと。うう、悩ましい……。手汗が止まっても、他の所から大量に汗が出たら、新たな悩みになるのでは？　「手の平のみずうみ」の掲示板を見ても、手術をして満足している人も、後悔している方もいる。

「でもこの苦しい手汗が止まるなら……」

　心の声に逆らうことはできず、ＥＴＳの手術をしているクリニックに行くことを決めた。体にメスを入れるとなると、事前に親にも話しておかなければならない。実家に帰って話そう。