第13話 残された者達
クレアが出掛けている間、部隊は戦場で僅かな休息を楽しんでいた。後方への移動中とは言え、勢力下である為、時折、行軍を止めて、休息を取るのだ。
トラックの荷台では暇そうにシエラは本を読んでいる。
彼女を監視するレオーネもすでにその任務を忘れてしまいそうなぐらいに慣れてしまって、シエラとは親戚の子ぐらいの感じで接している。
「シエラ、そうしているとあんたが貴族の子だってのを思い出したわ」
レオーネの声掛けに本から視線を外したシエラが彼女を見る。そして、手元にあるメモ用紙と万年筆で言いたい事を書く。
『そんな事も忘れてしまったのおばさん?』
「殴るわよ。本を読んでいる姿が貴族っぽいと思ったからよ」
『まぁ、読書は貴族の基本だから、まぁ、それすらしない愚劣な輩も多かったですけど』
「愚劣ね。私らは愚劣な方しか見た事が無いよ」
『田舎の芋貴族ばかり見ているからよ』
「言うじゃない。それより、あんまり日に当たらないと、カビが生えるわよ?」
『カビが生えるわけないじゃない』
「わからないわよ」
レオーネは揶揄うように笑う。
僅かな休息を取った部隊は再び、後方へと移動を始めた。
まだ、燃え上がる村に居るクレア。
貴族軍の古びた小銃を手にして、周囲を警戒していた。
村一つが完全に吹き飛び、殆どが死んだと思われるが、まだ、残存兵が居るかと思い、探る為に戻ってきたのだ。
「古臭い小銃しか残ってないわね。こんな武器で敵勢力圏内に入って来るなんて・・・無謀にも程があるわね。こいつら、相当、バカなんじゃないかしら」
貴族軍の平民兵を蹴飛ばしながら、村人も含めて、生存者が居ない事を確認した。
あまりにも無惨な村の有様にクレアは怒りを感じつつ、再び、街道を歩き始めた。
時間を取られたものの、二日後には到着する。
「クレア大尉です」
敬礼をする彼女の前に居並ぶ将校達。彼らはクレアのボロボロの姿に驚く。
「途中で敵と遭遇したそうだな?」
一人がクレアにそう尋ねる。
「はい。敵の長距離偵察部隊かと。貴族が指揮を執っておりました」
「村一つが吹き飛ぶような魔法が発動されたと?」
「はい。たった一人であれだけの魔法が発動が出来るとは想定外でした」
「相手の狙いは・・・?」
「不明です。あくまでも偵察なのか・・・後方での破壊工作なのか」
「そうか・・・少数での侵入ならば、それほどではないが・・・村一つを吹き飛ばす魔法を使える者が易々と前線の奥へと入られて、攻撃を始めたら、まずいな」
クレアが遭遇した事態は彼等なりにかなり憂慮すべき事柄であった。
「クレア大尉。君の功績を鑑みて、少佐に昇進させる。それと合わせて、部隊を更に強化して、今の独立部隊から第1師団に組み入れる」
「今の方が自由で良かったのですが」
クレアは屈託なく言う。
「ははは。残念だが・・・貴族軍との戦闘が本格的になりつつある。伸びきった補給線や前線も革命軍のアキレス腱になろうとしている。ここで敵の中枢へと侵攻し、建て直す必要がある。君には期待をしている」
クレアは敬礼をしてから、参謀室を出る。
「面倒な事になったわね」
正直な話、昇進は彼女にとって、迷惑な話だった。
すでに合流を果たした自分の部隊へと向かう。
トラックの荷台には本を読むシエラと同じく本を読むレオーネが居た。
「大人しくしていたかしら、お姫様・・・それと・・・珍しいわね。レオーネが本を読んでいるなんて・・・字が読めたかしら?」
「生憎、ちゃんと学校は出ているんで」
レオーネは不満そうに答える。
「そう。私、少佐になるそうよ」
クレアはつまらなそうに荷台の淵に座る。
「昇進ですか」
「えぇ、ついでに部隊も再編制される。大規模になるわ」
「本格的な攻撃に参加するのですか?」
「みたいね。これまでと違って、貴族軍と正面からやりあう。そうなれば・・・魔法攻撃に真っ向から挑む事になるわね。どうなる事やら」
クレアの言葉にレオーネはゴクリと唾を飲み込む。
貴族の魔法攻撃はバカに出来ない。まともにやりあえば、平民が束になって掛かっても一瞬にして抹殺されるような魔法もある。
「まぁ、遅かれ早かれ、貴族とはやり合わないといけない。私の研究が間に合わなかったのが口惜しいわ」
クレアは研究を纏めた論文の束を縛り上げ、私物入れに押し込む。
二日後、クレアの部隊に補充の兵と装備が届いた。
クレアの配下に3個小隊。150名の兵士が充てられた。
革命軍第2師団隷下となり、第211中隊と命名された。
「軽機関銃と軽砲が装備されたのは大幅は火力向上ってわけね」
クレアは新たに配備された軽機関銃や歩兵のみで運用可能な軽量な野砲を見て、少し満足そうであった。
中隊長となったクレアは中隊本部として、シエラやレオーネを配属させた。因みにシエラはこの時点で軍属として、記録員という形にした。
『カメラ?』
シエラはクレアから渡されたカメラを見て、不思議そうにしていた。
「そうよ。記録員という事にしないと流石に軍の上層部から不審がられるからね。これで部隊の記録用の写真を撮影しておいて、出来れば、記録としての文章も欲しいわね。それがあなたの仕事よ」
クレアに言われて、シエラは少し不満そうだった。
「何か不満そうね?」
『私は貴族よ?何故にこんな下働きみたいな事をしないといけないの?』
「黙ってやりなさい。あんた、自分の出自が解ったら、拷問されるって理解してないの?」
『解っている。やります』
シエラは諦めて、カメラの扱い方を学び始めた。
そのやり取りを見ていたレオーネがクレアに尋ねる。
「しかし、これだけの規模となると・・・戦闘においては最前線に送り込まれるのは決定ですね?」
「そうね。これまでが運が良かったのよ」
「運ですか?結構、貴族と遭遇するような事があった気がしますが」
「そういう巡り合わせよ。私の部隊に配属になった自分の運を呪いなさい」
クレアに言われて、レオーネは苦笑する。
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