第19話 作戦会議
僕がそのカメラや盗聴器たちを見つけて感じたのは、正直戸惑いではない。
マミならやりかねない、という思いが先に立った。
だから感じたのは、見つける前にシャドウたちを外に出さなくてよかったという安心だった。
「マミがそんなことを……」
僕の説明を聞いた、”僕”がつぶやく。
他に僕を監視する装置はないかと、家中をもう一度調べた後、僕は部屋でシャドウと”僕”に出てきてもらい、一連の出来事を話したところだった。
最初はマミとのデートの件を考えていたのか顔色を悪そうにして話半分に聞いていた”僕”だったが、最後は真剣になって、しっかりと聞いてくれた。
まあ、さすがにそうしてもらわないと困る。
なんてったって、こいつの帰還に関わるかもしれない話なのだから。
そして僕は、昨日の父さんとの会話も一応”僕”に報告しておく。
「ああ、ちなみに父さんも昨日突然、転生の話を僕にしてきたから。もしかしたら、だ」
その言葉で感じることもあったのだろう。
”僕”は神妙な面持ちになってうなずく。
「なるほどな。ていうか、盗聴器とかカメラとか撤去しちゃってよかったのか? 俺たちが彼女を疑っているってこと、マミにバレるんじゃ」
こいつにしては少し考えたよう質問だが、僕のことを知るマミのことを理解しきれていない。
「疑ってるも何もそんなの最初からだろ、俺がマミを煙たく思ってるのは。それに奴の大胆な行動はいつものことだ。僕がそれを撤去したところで、君らを隠している証拠には全くならない。マミが僕の恥ずかしい映像を隠し撮りする気配を感じて撤去した可能性だってマミは考える。そもそもマミはこの機材に対して期待していなかったと思う。ワンチャン撮れたらいいなーくらいだろうな」
実際僕の恥ずかしいところをマミに盗撮されそうになったことは一度や二度ではないからな。
「それに、家の中での行動が制限されるほうが困りますよ。課題も進みませんから」
シャドウも僕の言葉に付け足してくれる。
「なるほどなぁ。言ってることぜんっぜんわからないけど」
やはり異世界転移した僕には、考える力というものが欠如している。
異世界で役に立った魔法という戦闘力は、この世界では何の役にも立たない。
とにかく想定外の行動をとってくれるなということだけを彼に願っておく。
それにしても今日はシャドウに助けられっぱなしだ。
なにか彼に対してできることがあればいいのだけれど。
そもそも、僕は異世界転移してきた僕のことで精一杯すぎて、シャドウのルーツや”僕”と会う前どうしていたのかについて知らないんじゃないか。
「ねえ、シャドウってさ……」
作戦会議を一時中断して僕がそれについて尋ねようとシャドウの方を見ると、シャドウがなぜかすっと目を逸らす。
「それにしてもご主人様。デートまで一日開けたのにはなにか目論見が?」
そして話題まで変えてくる。
異世界の僕の話の時は、結構饒舌にしゃべってくれていたのに、なんだ?
小さな疑念を抱きながらも、どうしようもないので僕はシャドウが方向転換させたその先の話に乗る。
「それなんだけどね。もし一日の猶予が出来てカメラも撤去されてたら、会うんじゃないかなと思ってね」
「ああ、なるほど。そういうことですか。確かマミさんたちは、私たちが知っていること自体知らないんでしたものね」
「そう、そういうこと」
「ん、どういうこと?」
”僕”が話についていけてないのはいつものことで、もう放っておくことにした。
正直課題を進めてくれることしか、”僕”には期待していない。
僕は奴を無視して、シャドウとの会話を進める。
「では、明日はもしかして、尾行を?」
聡いシャドウは僕の明日の行動まで察してくる。
本当に優秀だよ、君は。
「そのつもり。たぶん、出先で会うと思うんだよね。あいつらのことだ。記録が残る通信機器は使わない。デジタルな通信手段は、知識さえあればあとから捜査することも可能。でもアナログな手段はその時点で行動を疑っている人間にしか突き止められない」
「つまり異世界のことについては疑われていないと思っているマミさんからしたら、そっちのほうが効果的な方法と判断する可能性が高いと」
僕はシャドウの言葉に大きくうなずく。
どうしてこうも彼は、僕の思考にぴったりついてきてくれるのだろう。
なんとも心地が良い。
「それで問題は尾行の間、こいつをどうするかなんだよなぁ」
僕はちらりと”僕”を見やる。
なんとも面倒な問題だ。
尾行するのならば、定期的に外に出さないといけないこいつを連れていくのはリスキーだ。出てこられる場所を毎回用意できるとは限らない。
かといって、家に置いていくのも心配だ。
僕のいない間に父さん、母さんとかちあったりしたら、体形からしてごまかしきれないし、そもそも一人で何かを偽る頭がこいつにあるとも思えない。
「シャドウと一緒に残して影に隠れてもらうってことはできないんだよね?」
「すみませんそれは無理です。影に閉じ込める術は、主の影についているときのみ発動できるものなので」
うすうすそうではないかと思っていた予想通りの答えが返ってくる。
そんな僕たちの会話を、話が理解できずにただ聞いていた”僕”が呑気に言ってくる。
「なんかわからないけど、明日マミを尾行するのか? マミとは近づきたくないし、俺は行かないからな! 家で課題でもやってるさ」
うん、お前の処遇について今悩んでるんだけどな?
課題やるのはいいとして、そのない頭にイレギュラーが降りかかってきたらどうする? きちんと対応できるのか?
という言葉を、僕は必死に飲み込んだ。
いかんいかん。
課題をやってくれると言っていること自体はいいことだし、こいつに相談したところで何のアイディアが出るというのか。
でも、僕もマミとのデートからくるストレスで自分の心のハンドリングが出来なかった。
「頭の使えない、この世界ではゴミな魔法しか使えないやつは黙ってろ」
言ってしまってから僕ははっと自分の口を押える。
木に登らせて課題をやらせていくつもりだったのに。
これじゃあ、好意的に取り組んでくれないかもしれない。
「魔法がゴミだって……?」
僕が恐る恐る”僕”の方をうかがうと、彼は怒りからかふるふると震えていた。
「取り消せよ今の言葉。魔法はゴミじゃねぇ。火力だけが魔法と思うなよ。魔法の本質は相手に影響を与えることだ。相手が相手だったら、お前なんて操られて自害させられるかもしれないぞ」
その言葉によって、光明が見える。
魔法は、火力だけじゃない。
確かにそうだ。小説でも魔法使いはただ火力を出すだけではない。味方にバフをかけたり、回復したり、敵を操ったり。
そう、魔法にはいろいろある。
僕は見えた一筋の光について頭の中で構想しながら、思った。
常に理性的なことが、正解ではないのかもしれない、と。
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