第4話 オッサンが同居をとりつけてくれた

【3月6日(日)】

圭さんが寝返りを打ったので目が覚めた。枕もとの目覚ましは7時少し前。今日は日曜日。昨夜は圭さんの布団の中で眠らせてもらえた。抱いてもらえなかったけど、受け入れてもらえて安心した。


そっと布団からぬけ出す。ドアを静かに開けて部屋の外へ。音を立てずに身支度を整えると、昨日買ってもらった部屋着に着替える。そして朝食の準備。


8時になったころ、圭さんが起きてきて、新しい部屋着に着替えた私をジッと見ている。私は昨夜のこともあって照れくさいので無理に笑顔を作って「おはようございます」と言ったら、圭さんもつられて微笑んだ。そして「それ、なかなか可愛いよ」と私の選んだ部屋着を褒めてくれた。


準備した朝食を2人で食べていると、圭さんが真面目な顔をして話し出した。


「今日は日曜日なので、叔母さんのところへ行って美香ちゃんとの同居の了解を取り付けてくるのはどうかな?」


「叔母夫婦にはもう会いたくありません。このままにしておいてください」


「美香ちゃんはまだ17歳の未成年だから、同居するには親族の同意が必要だよ」


「でも会いたくありません」


「それなら、僕一人で行って、同居の承諾をもらってくるよ」


「もし、お願いできるのなら、そうしてもらえるとうれしいけど。申し訳ありません。お願いします」


「僕にできることはしてあげるつもりだから。今日は日曜日だから叔母さん夫婦も休みだろう。今日行ってこよう。まず在宅か確認しよう。電話番号を教えて」


圭さんはすぐに電話してくれた。そして「美香さんのことでお訪ねしたい」と言って、午後1時に2人をアパートに訪ねる約束を取り付けてくれた。アパートは西新井にあるというと、圭さんはここからは結構時間がかかるから11時には出発しようという。


私は、4階建てのアパートが見えるところまで圭さんを案内して、2階の203号だと教えた。そして、できれば私の荷物を少し持ってきてほしいと頼んだ。圭さんは「大丈夫だから心配しないで、話をつけてくるから」といってアパートに入って行った。


私は来る途中の公園で待つことにした。30分くらいで圭さんが公園へ戻ってきた。私を見ると「うまくいったよ」と笑顔を見せた。そして同居の承諾書を貰って来たとその書類を見せてくれた。叔母夫婦の署名と印鑑が押されていたので安心した。私が早く帰りたいというと圭さんは「そうしようか」といってすぐに駅に向かってくれた。


帰りの電車の中で、叔母夫婦にもう私に会わないことを約束させたこと、私の荷物を引越し屋が引き取ること、また連絡先は圭さんの会社にすること、叔母さんの勤務先の電話番号を聞いてきたことなどを話してくれた。圭さんは社会人だけあってしっかりしていて頼りになると感心した。


家に帰ると、緊張していたのか、疲れがどっと出たみたい。ソファーに座り込んでいると、圭さんがお菓子を持ってきてくれた。お菓子がおいしい、元気が出てくる。


私が食べている間に圭さんは引越し屋さんに今度の日曜日の荷物の引取を電話で依頼してくれた。引越し屋さんには先方に引越し先を教えないように何度も念を押していた。本当に慎重な人だ。


お菓子を食べて1時間も休むと元気になったので、夕食の準備を始める。今日はカレーライスにした。疲れていたので簡単にできるものにした。


「ごめんなさい。昨日はシチュウで今日はカレー、同じようなものでばかりで。今日は少し疲れたので、ちょっと手を抜かせていただきました」


「いや、おいしいよ。毎回ありがとう。でも無理しないで。たまには冷食でもいいんだよ」


「こんなことしかできなくて、すみません。できるだけ作ります」


「今週の半ばに、1日休暇をとるので、住民票を移動するのと、美香ちゃんの高校に行ってみようと思うけど、どうかな。近くの学校へ転校ができるかどうかも聞いてみないと」


「高校へ通わせてくれるんですか?お金かかりますよ」


「それくらいのゆとりはあるから気にしないで。叔母さんに美香ちゃんの面倒は僕が見ますと啖呵を切ってきた手前もあるから」


「何といって良いのか分かりません」


「そんなに気にするのなら、家事一切をお願いできるかな。その代り、学費と生活費を僕が負担することで良いんじゃないか」


「何も言うことありません。本当にそれだけで良いのですか。私を自由にしてくれても良いのですよ」


「もうその話はしないでほしい。昨晩も言ったとおり、美香ちゃんが18歳になったら考える。そういうことで良いんじゃないか」


「分かりました。家事一切をやるということでお願いします」


圭さんがそれで良いと言うなら甘えることにしよう。家事一切と言っても、今まで叔母さんの家で通学しながらしてきたからできると思う。圭さんにできるだけのことをしてあげれば良いのだと思うことにした。ひょっとしたら、圭さんは私のことを気に入ってくれたのかもしれない。

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