マーガレットに重なる視線





今日もいつもと変わらない日々


朝起きて、着替えをして、ご飯を食べて、




何も変わらない


変わらない、はずなのに





あの時から胸の内に居座る名前のない感情が



私の日常に彩りを与えた






そう、名前も知らない彼に出会ってから










梅雨ももうすぐ終わろうとしている


晴れ間の見える空がその事実を告げているようだ




私は今日、2度目のお見舞いに向かう


持って行った花束は母にも好評でまたよろしくねと言われた


そのため前回と同様に花束を買うべく花屋に寄る


またあの花屋に行けると思うと自然と足取りが軽くなる





「いらっしゃいませ。あ!先日の!」





どうやら覚えていてくれたようだ



なぜだろう、顔がにやけている気がする



このままではまずいと思い顔を引き締める





「この間はありがとうございました。母もとても気に入ったようで…また来てしまいました。今日も花束をお願いできますか?」



「もちろんです。どんな感じにしますか?」



「じゃあ…赤とかピンク系の明るい色でお願いします。」





以前とは違った感じのものも見てみたいという気持ちもあり、そう伝えると了承の返事が返ってきた





相変わらず綺麗な花束を作るんだな…





「そんなに見られると少し恥ずかしいです。」





突然照れ笑いをしながら言われた



どうやら見つめてしまっていたらしい


完全に無意識だった自分の行動に驚きつつ赤面する





「すっすす、すみません!!その、あまりにも綺麗で…それにあなたが花を扱う時の瞳が優しくて…つい、見取れてしまいました…」





素直に思っていることを伝えると、熱が移ったかのように男性の顔が赤くなるのがわかった





「そんな風に言ってもらえるなんて、いや、なんか、嬉しすぎて…ますます恥ずかしくなってしまいますよ!」





リンゴのように赤くなった2人ははにかみながら笑い合う




そんな話をしながら完成した花束を受け取った




「あっ、今回はこちらの花をどうぞ」





そう言って白くて可愛らしい花を一輪差し出された


どうやらマーガレットのようだ




「えっ!?前回もいただきましたし!」


貰ってばかりでは申し訳なく思いそう伝えると



「貰ってください。お母様のために花を用意するような優しい気持ち持つあなたに、花の魅力を伝えたいんです。まあ、私のわがままなんですけどね!だから気にしないで貰ってくれると嬉しいです。」



という答えが返ってきた




そんな風言われるなんて思ってもいなかった

一向に収まりそうにない赤い顔で感謝の気持ちを伝える





マーガレットか…

小さくて、なんか守ってあげたくなるような花だなぁ





受け取った一輪の花を見ていると





「マーガレットって可愛いですよね。小さくて、なんか守ってあげたくなるような花なんですよ。」





どうやら同じことを考えていたらしい


そのことにまた嬉しさを感じながらまた来ますと伝え、店を出た






そう言えば名前聞き忘れちゃったな

次に行った時に聞いてみよう










にやけた訳も、何故顔が赤くなったかも、名前が聞きたい理由もからないけど


暖かくなる心地の良い気持ちにより一層進む足が速くなるのを感じた










小さな一輪のマーガレットが私の心を満たしていった











《マーガレットに重なる視線》








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る