第2話彼は居た
呆然とそのフレンドリストを見つめていると、耳に聞き馴染んだ甲冑の擦れる音が聞こえてきた。
背中に冷たい汗が流れた……これは間違いなくシュートの甲冑の音だ。
死んだはずのシュートが近づいてくる。猛然と湧いてくる恐怖心。このまま逃げたいと思う気持ちともう一度シュートに会いたいという気持ちと二つが葛藤していた。
しかしシュートに会いたいという気持ちが勝った。僕は僕の背後で立ち止まった男の顔をゆっくりと振り返って見た。
ただれた顔の化け物がそこに居た。
「!……ギャー!!」
僕は思わず声を上げてその場にへたり込んだ。
人は本気で驚くと瞬間的に息が止まって声も出ない。
「あ?驚いた。俺だよ俺。シュートだよ。そんなに驚くとは思わなかったよ」
シュートは化け物の仮面を取って笑いながら手を差し出した。
「あほか!ただでさえお前の存在自体でビビっているのに、そんなお面を被って恐怖を倍増させるな!!真剣に驚いたわ!!」
「ふむ……という事は、やっぱり俺は死んだのか?」
シュートは不安げな顔で僕に聞いた。
「やっぱりって……お前、自分で分からんのか?」
「いや、トラックに轢かれたのは薄々分かっていたんだけど、その後に怪しいジジイが出て来て『実は間違ってお前が死んじゃったからどこへでの好きなところへ転移させてやる』と言われたんでここを選んだんだが……もしかしてこれは夢か?とか思っていたんだけど……俺って死んでる?」
いつもと変わらないシュートがいつものように軽い調子で僕の目の前で話をしていた。
僕は少し落ち着いてきたので、これまで彼が死んでからの話をした。
彼は黙って聞いていたが、僕の話が一通り済むと
「そうかぁ……やっぱり俺は死んでいたんやなぁ……」
と呟いた。
「本当に勝手に死んでさっさとお手軽にこんな世界に転移しやがって……」
「俺も来たくてこんな世界に来たんじゃない!」
シュートは語気を荒げて僕を睨んだ。
「でも。俺はこうやってまたお前に会えて嬉しい」
そう言って僕はシュートに抱きついた。
僕は本気でそう思っていた。どんな形でもまたシュートに会えて僕は嬉しかった。
シュートは僕の言葉にうなずくと
「心配かけて悪かったな…俺も、こんな形でも再会できて良かった」
と言って僕の肩に手を置いた。
僕はシュートから離れて彼の顔を見た。
やっぱりいつものシュートの顔だ。
涙が出そうだ。
「ところで今年のうちの代表はどこの高校だ?」
とシュートは聞いてきた。
今このタイミングでの質問がそれか?と思ったが、彼は本気で甲子園に行くつもりだった。死んだ自覚の無い奴だ。
「まだ、決まってない」
「そうかぁ……甲子園行きたかったなぁ」
やはりまだ未練があるようだ。今年の甲子園の代表校が気になるようだ。シュートは寂しそうに呟いたが、うちの高校は野球部は強い方だが進学校なので甲子園には出た事が無い。
地方大会の決勝戦までは駒を進めた事はあったようだが……でも彼とのバッテリーで甲子園に行けたら僕も最高だったなと思う。
「それよりなんでお前はここ最近、こっちに来なかったんだ?」
シュートが問い詰めるように僕に聞いてきた。
「いや、お前が居ないこの世界も面白くないだろう?今日ダイブしたのはタカさんやアリスさん達にお前の事を報告しようと思ってきたんだけどな……ってもしかしてもう会っているとか?」
「うん。昨日も一緒にパーティ組んだよ。『この頃、ジュリー来ないね』ってみんな心配していた」
因みに僕はこの世界ではジュリーと言われている。名付けたのはシュートだった。
意味は大してないらしいが、沢田研二みたいでカッコいいだろうと言っていた。
どうやら彼の母親がジュリーのファンらしい。
僕は気に入ってはいなかったが、あまりにもこの世界では違和感のあるキャラ名なのか、結構突っ込まれて初対面のメンバーとの話題には困らなかった。
それにしても死んだ奴に心配される俺ってどうよ?
人が落ち込んでいる時にこの野郎は冒険していたってどうよ!!
やっぱりお気楽に転移してんじゃんか!!
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