システム・サード
じゃがいも
第1話 最悪の最小犠牲
「アダム、向こうの損害状況は?」
物陰に隠れながら、分隊長へと問いかける。
『こちらアダムス、俺らは弾薬以外問題ない、しかし……』
アダムス………分隊長である彼の声は非常に良く響く、死の匂いが漂う戦場ですら。
『こちらシオン、アルザスの群れを確認したよ、目視できる数だと三体、他にも隠れているかもしれない、ビーコンを射出する、カイン?』
男なのか女なのか判別の難しい声で連絡をするのはシオン、データ上では男だったらしい。
『了解、ビーコンとのデータリンク正常、いつでもいいぜ』
気楽そうな声で語るのはカイン、この分隊のスキャン、スナイプ担当で、こんな最悪の戦場ですら気丈に振る舞っている。
『了解、3、2、1……ビーコン射出!』
その声と同時に、カインが測定を開始する。
『奴さんの数はっ……と、1,2,3,4……五体だな、どうする?アダム』
先程のシオンのマーキングに、加えて二つ、赤点が表示される。
飄々とした態度で、体を大きく広げてアダムスへと質問している。
『俺たちの任務は、データコアの輸送が完了するまでレールカタパルトを防衛することだ、そのデータが、より多くの人を救う』
その堅実な声にやれやれ、とつぶやき、カインは赤い腕でライフルを構える。
『現状維持ってことね』
『ま、そっちのが僕もやりやすくていいけど』
山吹色の腕で刀を収めながら、シオンが腰を下ろす。
「了解、防衛を続ける」
『……そうもいかん様だな』
『はぇ?』
カインの気の抜けた声、そして突然の叫び。
『やべえ、奴らこっちに来てるぜ!数はっ……さっきの倍以上だ!』
『……っ!』
空気が変わる、先ほどまで死の中にわずかにあったユーモアが塵のように吹き飛び、四人が勢いよく立ち上がる。
「アダム、撤退か?」
『駄目だ、俺たちがここで退けば、奴らは必ず内地を目指す、レールカタパルトは規定時刻まで守り、俺たちはそのタイミングで脱出する』
『んで!? その規定時刻まであとどれくらいなんです!?』
カインが苛立ちを隠そうとしないで叫ぶ、それでも全員射撃を交代しながら、決して弾幕は切らない。
『規定時刻まであと十分だ……!!』
アダムスの苦しそうな言葉と共に、ため息が出る。
『やるしかねぇってことかよ!』
「アダム、他の生き残ってる分隊は!?」
思考する、もっとも命へと繋がる道を、生き残れる方法を。
『ベータとゴルフだけだ!』
「なら俺に作戦がある!」
ライフルの引き金を押し込みながら叫ぶ。
『なんだ!?』
「ベータとゴルフのレールカタパルトを自爆させ、俺らとこいつらを迎撃する!メイン回路を爆破されれば、レールカタパルトは乗っ取られない!」
その声に、シオンがアルザスを切りつけながら叫ぶ。
『それは駄目だ! 一つのレールカタパルトは、一個分隊分の射出しかできない!それ以上はエネルギーも、システム上の自爆も併せて不可能だよ!』
『だ、そうだが? 』
「予備のバッテリーを使う、理論上は三個分隊分を使えば、全員脱出できる」
『自爆機能はどうする!? 四機脱出したら自爆するぞ!』
カインの狙撃で、迫り来るアルザスがその悉くを減らしていく、それでもなお、溢れる様に増えているアルザスは、歩みを止めない。
「お前がやるんだ、カイン、スカウトタイプのお前なら、ハッキングできるはずだ!」
そう言って、弾倉を叩きつける様に小銃に装着する。
アダムスが駆け、迫り来るアルザスを切り裂く。
その一体が核を破壊され、自己崩壊を起こす、自重で潰れるアルザスを横目に、アダムスが答えた。
『やってみる価値はある、か…… よし、俺はこれより全部隊に連絡する、ハッキングを頼む』
脱出可能時刻まで、あと7分だった。
『こちらベータ分隊長、シルコアだ、あんたらの作戦にのった、よろしく頼む』
深いフォレストグリーンの装甲に包まれた男が、低い声でそう言って、腰部のバッテリーをカタパルトに接続する。
『こっちはゴルフ分隊長、アジーよ、よろしくね、こっちなら確実性があると思うわ、私達にも賭けさせて、この作戦に』
すこし霞んだ紫色の女が、同じ様にバッテリーを外す。
『よし、各員のデータリンクを完了、予備バッテリー、接続……問題なし、あと五分だ!死ぬ気で耐えろ!』
『『『了解!』』』
全員の通信が、お互いの血潮を燃やし尽くす。
現生存者、12。
そして、人類史上最も死者の少ない、そして、最も残酷な戦いが、始まった。
鳴り響く銃声、消えていく命。
『ベータ、2名損失…!くそっ馬鹿野郎共がぁっ!!』
『バッテリーが……っ死ぬ!』
データリンクされていたはずの反応が次々に消えていく、命の光が、巨体に踏み潰され、心臓を貫かれ、そして、動けなくなり、死んでいく。
『あと3分、あと3分なんだよ!なんで、なんで死ぬっ!』
地獄だった、無限の様に、増えていく敵、アルファ分隊、生存者四、ベータ分隊、生存者2、そしてゴルフ、1。
『馬鹿な奴ら、あっちであったら絶対許さない……っ!』
そう気丈に振る舞いながらも、彼女はライフルを捨てる。
『仕方ないわね、こちらアジー、弾薬が尽きた、ここまでよ、希望をありがとう』
そう言い、敵へと駆け、そして−−−−−
赤い点と緑の点が接触し、消える。
『畜生っ、終わったら酒でも誘おうと思ってたのによ……!』
それは無理だろう、とは誰も口にしなかった、余裕もないし、義理もない。
『っ!不味い!』
男の声、純白の装甲で誰よりも冷静に、皆に指示していた男、彼の目の前に、グロテスクな肉塊が迫り来る。
「アダム!」
一閃。
アルザスの刃に首を切られ、先ほどまで指示をしていた分隊長が、その首が、俺の目の前に落ちてくる。
「畜生っ!−−−アダムが死んだ!」
ボトリ、とあっけない音を鳴らしながら、血と溶液の混ざったナニかが大地を濡らした。
『なっ……仕方ねぇ!俺が指示を引き−−』
カインがそう叫ぶのを止める様に、通信がはいる
『ベータ1及びベータ3、エネルギーが尽きた、すまない、動きすぎたみたいだな』
『そんな!予備バッテリーを取りに!もう五人だ!バッテリーはそこまで……っくそっ!』
データリンクが二つ、目の前より消失した
『最後まで、俺たちのために……』
ベータ分隊の二機は、一番前線で敵を撹乱していた、彼らは一番の先輩達だった。
『っ……生きよう、彼らの分まで! 絶対に!』
シオンは諦めなかった、予備バッテリーを引き抜き、腰に取り付ける。
「ああ、その通りだ!」
残り1分、それだけで、俺たちはあいつらの機体パーツを、存在した証を持って、脱出できる。
弾薬の切れたライフルを捨て、ブレードを取り出して、三人同士背中を預けた。
生きる、その意思が、触れ合ったバッテリー越しにわかる。
俺の作戦は失敗だった、でも誰も責めず、最後まで誰かを庇って散って行った。
なら、あと少し、あと少しでその尊い願いを守れる、死なない、生きて帰る、俺たちはそう呟いて、迫り来るアルザスを引き裂いた
『うおおおおおおあああァァ!!』
最後の希望が、目の前にある。
脱出可能時刻まで、あと、52秒。
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