イルナス(3)


           *


「いや、イルナス皇太子殿下にも本当に困りますな。なかなか、真面目に授業を聞いてくださらない」「あら、そちらもですか? 私もなんですよ」「まったく……そんなことで、帝国の未来を背負っていけるか、甚だ疑問ですな」


「「「「「はははははっ」」」」


 先ほどまでは、教師全員、和気藹々とした雰囲気だった。所詮は、あの気が弱い『童皇子』。この皇族区は王妃セナプスが仕切っている場所で、勝手な真似はできないだろうと。


 そう、誰もがタカを括っていた。


 だからこそ、教師全員がイルナス皇太子の発言にポカンとした。一度に聞く? そんなバカな。いくらなんでも冗談ジョークが過ぎる。


「いったい、なにを仰っているのですか?」

「いや、だから全員の授業を一度に受けるんだよ。その方がお互いに時短になる」

「「「「……っ」」」」


 冗談ジョークではなかった。


 そう彼らが悟った瞬間、空気が凍りついた。まさか、皇太子だからと言って、これほどの侮りを受けるとは。


 魔法学教師のドサン=コニップは、チョビ髭をピンと逆立たせながら顔を真っ赤にする。


「イルナス皇太子殿下! 我々は! 本気で! 本気で! あなた様を次期皇帝に導こうとしております!」

「なるほど」

「それなのに! この仕打ちはあんまりです! 私たちの授業を! ただ聞き流せばいいなどと言う態度には! 非常に不満に思います!」

「聞き流さないよ。君たちの授業は全部一度に聞いて覚えておくつもりだ」


 !?


「そ、そんなことができる訳がないです!」

「できるよ? 現に、はそれができる人を何人も知っている」

「……っ」


 絶対に嘘だ、と全員が確信する。


「というより、皇太子なんだから、それくらいはできないと」

「わかりました。よほど、ご自身に自信があるのでしょう。みんな、手加減はいらない。早く、部屋に入りましょう」


 大陸史教師のアンミ=カノーケツが意気揚々とイルナス皇太子の部屋へと先導する。


 わからせてやる。


 自分がいかに無謀なことを言っているのか、わからせてやって、小さく縮こまらせてやる。


「始めましょうか。では、帝国法第638条ですがーー」


 一方で。法学教師のメスイ=ヌノチカイが意気揚々と授業を初め、釣られて他の教師たちも一斉に話し始めた。いや、いつもよりも高度で早口で捲し立てた。


 だが。


「「「「「……っ」」」」


 理解度を測るためにしたテストが、軒並み満点だった。かなり厳しく採点したが、付け入る隙が1ミリもない。


「ところで、メスイ先生」

「はっ……はひぃ!」

「授業の中で、少し古い知識や間違いが散見された。一つずつ確認してもらいたいのだけど、帝国法第87条は解釈が違っていると思うし、第95条の『帝国将官』の下りが修正されてない?」


 !?


「そ、そ、そんなバカな! いや、そんなはずはありません! んー、ふーっ、ふーっ」


 法学教師のメスイ=ヌノチカイは、鼻息を荒げながら反論する。


 だが。


          ・・・


「あがっ……あがががががっ」


 数十分後、執事によって届けられた報告は、すべて、イルナス皇太子の言う通りだった。


 あり得ない。


 いや、あり得べきではない。


 そんな風に教師たち全員が狼狽するのに対して、イルナス皇太子は少しだけ困った表情を浮かべる。


 そして。


「あの……君たちはさ、皇太子であるに知識を授けるということが、どういうことか本当にわかっているのか?」

「「「「「……っ」」」」」


 イルナス皇太子の青い瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。


「例えば、公式の家庭教師である星読みは、次期皇帝候補に正しい知識を教えるために毎日12時間を費やす。なぜだか、わかるかい?」

「「「「「……」」」」」

「正しい知識がなければ、誤った判断を生み出すからだ。誤った知識を皇位継承候補者に与えれば、に従う民が多大な被害を被るからだ」

「そ、それは……」

「もう少し、知識に対して責任感を持って欲しいな」

「「「「「……っ」」」」」


 教師たちが全員視線を泳がせる中、イルナス皇太子は『だからさ』と続ける。


「これからの授業で誤った知識、もしくは、古い知識をに与えた場合」






























「死をもって償ってもらえないか?」

「「「「「……っ」」」」」

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